仁木悦子の『子供たちの探偵簿2昼の巻』を読む。仁木悦子の子供を主人公にした作品ばかりを集めたシリーズの二巻目。まずは収録作から。
「あの人はいずこの空に」
「まよなかのお客さま」
「消えたおじさん」
「うさぎを飼う男」
「悪漢追跡せよ」
「老人連盟」
「倉の中の実験」
「壁の穴」
「誘拐者たち」

全体的な印象は
『子供たちの探偵簿1朝の巻』とほぼ同じである。とにかく子供を主人公に据える必然性がしっかりしており、物語の完成度が高い。単にほのぼのとするから、などという安易な理由で子供を中心に据えるのではない。子供から見た社会や大人、逆に社会や大人から見える子供の姿を、共感と悪意の両サイドから観察し、ミステリというシステムに自然に溶け込ませているのである。
他愛ない話もあるが、全体では良質の作品集といえる。以下、各編の感想。
「あの人はいずこの空に」は巻頭を飾るにふさわしい好短編。本書ではもっとも推理小説らしい推理小説でもある。
「まよなかのお客さま」はショートショート。心温まるけれどももう少し捻りがほしかった。
「消えたおじさん」は本書の目玉と言っていいだろう。長らく入手困難だった長編をまるごと収録したもので、暗号から誘拐劇、アクションとサービス満点。著者は本書の執筆時に『エーミールと探偵たち』が念頭にあったそうだが、ミステリとしての出来で言うならこちらが上。物語の起伏がややアンバランスなところもあるけれど、まずは楽しめる。
「うさぎを飼う男」はあえて奇妙な味と言ってしまいたい。ミステリの部分は普通なのだが、主人公の少女の揺れ動く心理描写がじわじわ怖い。これは男の作家ではなかなか出せない味だよなぁ。
「悪漢追跡せよ」は本書のなかでは落ちる。最後の仕掛けも弱い。
ここから三作はかなりブラックで、仁木悦子のダークサイドが堪能できる。
「老人連盟」の主人公は、ある意味、老人たち。ユーモラスだがかなり毒を含んだ話。
「倉の中の実験」は異色作。表面的には老人問題っぽい事件を扱うものの、その実、思春期の少女の微妙な精神状態を裏テーマにしているのは明らか。
「壁の穴」は唐突に来る劇薬的な一作。この救いの無さを書けるのもまた仁木悦子である。仁木悦子をしっかり読むようになったのはここ数年のことだが、こういうタイプの作品も実は得意だということを知ったのが一番の収穫かもしれない。
締めは「誘拐者たち」。これもダークな話かと思わせつつ、実は捻りを利かせたラストで爽快感をもたらす。もちろん著者が上手いのだが、こういう並びで収録した編者もお見事。