エドガー・ウォーレスの『正義の四人/ロンドン大包囲網』読了。
著者は1900年頃から小説や戯曲で活躍した人で、
『キング・コング』の原作なども書いている、当時の超売れっ子。作品は通俗的なものが多いようだけれど、読みやすさやテンポのよいストーリーで大衆のニーズに的確に応えた才人といえるだろう。本書はこんな話。
法律では裁けない者に、死の鉄槌を下す男たち。人は彼らを”正義の四人”と呼ぶ。今回の彼らの標的は英国外務大臣。外国人犯罪人の引渡法案の制定を中止しなければ、大臣の命はないという。ロンドン警視庁は考え得るかぎりの対策を練り、四人はその包囲網に挑んでゆくが……。

ほお、1904年に書かれたとはとても思えない出来。テーマの面白さ、普遍性など、予想をかなり上回るレベルで、作風もかなり現代的である。中心となるポイントは、四人がいったいどうやって暗殺を実行するのか、にある。その興味でもって物語を引っ張り、ときには仲間の裏切りや警察との駆け引きも交え、スリリングに展開してゆく。
もちろん読み物としてはあくまで軽いスリラーなので、過剰な期待は禁物なのだが、いやあ、それにしても。
とはいえ、実はけっこう根本的なところで弱点を抱えたシリーズだなという印象もある。本作の基本的なネタは、いうまでもなく”必殺仕事人”。ただ、仕事人と違うのは、大義に背くのであればその人間の善悪すら問題にしないところ。つまり善人であっても容赦はしない。
実はここが微妙なところで、この手段はある意味テロリストのやり方を想起させ、読者が四人に感情移入しにくいのでは、という疑問が残る。おまけに狙われる大臣だって決して悪代官のような存在ではなく、わりとまっとうな大臣として描かれている。せめて四人の動機などが詳しく語られれば説得力もあるだろうが、本作はシリーズ一作目ということもあってか正体や経歴などについてもそれほど語られずに終わるため、よけい四人に感情移入しにくい。個人的にはここが一番残念なところだ。
ところで本書は、先日の
『アリントン邸の怪事件』に続いて長崎出版「GemCollection」の一冊だが、ここ最近はシリーズの刊行ペースが落ちてきているようで、若干不安ではある。論創社にまさるとも劣らぬマニアックなラインナップだから、ビジネスとして成り立つのか要らぬ心配ばかりしてしまうわけで、とにかくクラシックミステリファンとしては応援の意味でもすべて買い続けるしかない。だから、変な「道案内」とかは止めてね(笑)。
もうひとつ、どうでもいいことだが、ちょっと奥付で長崎出版の住所を見てみたら、かなりうちの会社の近所ではないか。神保町には出版関係が山ほどあるので、まあ、こういうことはたまにあるのだが、さらにネットで詳しくマップを見ると、これがよく昼飯を食ったりするそば屋のビルに入っていて思わず笑ってしまった。世間は狭い。