仁木悦子の『子供たちの探偵簿3夜の巻』を読む。著者お得意の子供を主人公にしたミステリを集めたシリーズで、これが最終巻。収録作は長篇『灯らない窓』を含む以下の三作。
「灯らない窓」
「小さな矢」
「聖い夜の中で」

子供を主人公にしているとはいえ、仁木悦子のそれはジュヴナイルではなく、あくまで大人向けだ。子供の視点から事件を描くことで、社会の有り様や人間模様をより鮮明に浮かび上がらせようとする。
ただ、短編ならともかく、長編をまるまる子供の語りで進めると、どうしても鼻につく部分がないでもない。重厚さにも欠ける。それを解決する手段として著者が思いついたのが、大人と子供、両者の視点を用いることだった。
「灯らない窓」は、団地内に発生した殺人事件の容疑者となった母親を救うため、その夫と長男の小学生がそれぞれ事件解決に乗り出していく。語り手がパートごとに交代するため、物語にアクセントがつくだけでなく、片方だけが情報を知っていることでサスペンスも生まれ、なかなか効果的だ。特に子供パートはもともと著者の十八番なだけに、子供社会なりの苦労も盛り込んで、実に楽しく読める。若干、筆が走りすぎて小学生とは思えない考え方や言葉遣いがあったりもするが、まあ、これぐらいは目をつぶろう。
むしろ一番気になるのは、ラストの犯人の告白シーン。一応、著者は小説内でこのシーンの理由付けも行ってはいるけれど、ここまで事件を詳細に語る必要はまったくない。全体では概ね面白く読めるものの、この最後の不自然さが非常にもったいない一作だ。
「小さな矢」は車椅子生活を余儀なくされていた著者の体験が生きた好短編。また、「聖い夜の中で」は著者の遺作だが、それがこのような切ない題材を用いたクリスマス・ストーリーであるという事実に、何より胸を打たれる。