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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 02 2010

読書不調なため、適当に戯れ言など

 東京の週末はあいにくの天気。梅とか河津桜とか見頃のところも多いのだが、とても出かける状態ではないので、自宅でゴロゴロ。テレビではオリンピックやら東京マラソンやら賑やかなことだが、津波の情報も気になるしで、家でまったり。久々にだめだめな休日を過ごした気がする。積んである本もDVDもほとんど消化できず。睡眠時間だけはやたらと充実(笑)。ま、こんな日もあるさ。
 夜は明日への活力を求め、気合いを入れてブイヤベース作り。エビやらイカやらムール貝やらホタテを買い込んで、ま、何度か作ったことはあるのでそれほど不安はなかったが、それでも予想以上の美味さにちょと感動。

 先日、エントリーに寄せられたコメントに返答しようとしていたら、これがなぜかスパム扱いで投稿できない。おいおい自分のブログにコメント書けないってどういうことよ?などと考えることしばし。
 そこでふと思いついたのが、禁止ワード。ブログの設定で、スパム防止等のためにNGワードを決められるのだが、これをfc2のおまかせにしてあったのだ。そのコメントはマクロイの『殺す者と殺される者』関係だったので、おそらく「殺す」とか「殺される」あたりが引っかかったのだろうなと推測。そこで題名を外して文章を書き直すと、見事、何もなかったかのようにアッサリ投稿できた。
 皆様も、なぜかコメントがアップできないぞ、というような場合には、お下劣な言葉など使っていないかお試し下さい。トラブっている会社同士の社名が書き込めないとか、けっこう意外な言葉がNGだったりするので油断は禁物です。

ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)

 『ミステリマガジン』4月号購入。特別増大号とかでかなりのボリューム。値段も1700円と、もはや雑誌の域を超えている気がするが、中身はかなり充実しているので許す。目玉は先般発見されたという幻の短編を軸にしたクリスティー大特集であり、即ち「犬のボール」&「ケルベロスの捕獲」の二編、さらには戯曲版『ホロー荘の殺人』一挙掲載、その他エッセイ等諸々。大充実。
 加えてビッグなニュースも二つ。この未訳短編が記されていたというクリスティーの創作ノートが、この春に刊行されるらしい。しかもこの機に乗じて「アガサ・クリスティー展」が有楽町の国際フォーラムで開催されるという予告まで。暗いニュース続きのミステリ界だが、これは久々に派手な展開で楽しめそうだ。
 ただ、そうはいってもクリスティー、最近読んでないなぁ。たぶん半分は読み残している。いつかはイッキ読みにチャレンジしたいものだがいつになるやら。



 ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』を読む。『幽霊の2/3』と同様、長らく絶版だったものが、ついに復刻されたという超曰くつきの作品。『幽霊の2/3』ではなぜこれが絶版?というぐらい秀逸な作品だったが、本作もそれに続くか、というのがやはり要注目である。

 こんな話。大学で教鞭をとるハリー・ディーンは伯父の遺産を相続するという知らせを受ける。だがその直後、ハリーは道で足を滑らせ、頭を負傷して記憶の一部を失ってしまう。やがて怪我から回復したハリーは、その事故を機に職を退き、母の故郷で過ごすことを決意。それは若き日のハリーが暮らした町であり、彼がかつて愛したシーリアが住む町でもあった。だが、ハリーの新たな生活には不思議な出来事が頻発し、やがて痛ましい事件へと発展する……。

 殺す者と殺される者




※以下、本文はネタバレになる可能性を含んでいます。できるだけ注意して書いてはおりますが、察しのいい人だとこれでも危険。
 未読の方はくれぐれも御注意ください。






 うむ、悪くないです。途中までは若干の不安もあったのだが、読み終えた今は十分に納得である。個人的には『幽霊の2/3』に軍配を挙げてしまうけれど、それは相手が悪いからで、本作も十分楽しめる一作。
 ぶっちゃけ書いてしまうと、メインのネタは今となってはさすがに古いし、あざとい。少々ミステリを読み慣れている者なら、すぐに仕掛けが読めるはずだ。だいたいからして伏線が強すぎる。まるで気づいてくださいといわんばかりの書き方なのである。しかも後半に入った辺りで惜しげもなく、そのネタをばらす。
 ここで気づく。あ、もしかしてこれは確信犯かなと。読者があっと驚いてくれたらそれでよし、ネタが割れたら割れたで読者はそのテクニカルな部分に注目できる。描写はすこぶる丁寧で、不安感を煽る心理描写&真相をカモフラージュするテクニックが見事に両立している。
 その最たる例がラストへの持っていき方。最後の一行までたっぷりと主人公の心理を味わえるこの物語は、極めて上質のサスペンスといえるだろう。

 なお、『幽霊の2/3』もそうだったが、この『殺す者と殺される者』という題名も実にいい。


本多猪四郎『空の大怪獣ラドン』

 東宝特撮DVDから『空の大怪獣ラドン』を観る。東宝三大怪獣の地位にありながら、バイプレイヤーとしての活躍が多いラドン。本作はそのラドン唯一の単独主演作である。
 公開は1956年。東宝の怪獣映画第三作目にして、初のカラー映画。監督はおなじみ本多猪四郎、特技監督はもちろん円谷英二、原作は黒沼健という陣容だ。
 初期の東宝特撮映画は原作者に香山滋や中村真一郎など一級の作家を起用しているが、本作でも黒沼健を起用しているのが要注目。今ではほとんど知られていない作家だが、SFやミステリの翻訳・著作で活躍し、とりわけオカルト系については多くの著作を残している。

 で、この原作が功を奏したか、本作のストーリーがなかなか悪くないのである。尺は短いものの、阿蘇山近くの炭坑町で起こったトラブルから殺人事件への発展、意外な犯人、そこからさらに大きな事件へと連鎖し、やがてラドン出現へと繋がる流れは非常に巧み。しかもテンポがよい。ラドン出現からラストに至るまでもまったく間延びすることなくピシッと締める。観る者をまったく退屈させない鮮やかな作りである。
 舞台を阿蘇山や北九州に絞ったところ、主人公を記者や科学者、パイロットといった怪獣映画に便利な職業にせず、炭坑で働く若者に設定しているところも、ゴジラとは違ったものを作るという姿勢が伺えてよい。そのため若干、スケール感に欠けるきらいはあるが、ストーリーという点では『ゴジラ』を上回るといっても過言ではないだろう。
 ただ欠点もないではない。映像のつなぎのぎこちなさ(これは現存データの問題か?)。メッセージ性の弱さ。ラストのラドンの最期のわかりにくさなど。
 とはいえ全体的にはよくできた映画であり、飛行する怪獣をどのように表現するかという円谷の挑戦はやはり見どころ満載だ。個人的には歴代怪獣映画のなかでも特に好きな作品である。


藤雪夫、藤桂子『獅子座』(創元推理文庫)

 会社でミステリの話はなかなかできないのだが、幸か不幸か東宝特撮DVDの話は、けっこう食いつきがいい(苦笑)。本日も朝イチで「sugataさん『サンダ対ガイラ』出ましたよね。あれ海外版ですか、日本版ですか?」と、のっけからディープなことを聞きにくるやつがいる。昼休みならいざ知らず、朝イチはメールチェックやら何やらそれなりに忙しいというのに、お前は何を考えておるのだと思いつつ、「いや、そこのところなのだが……」と思わず話に乗ってしまう自分が情けない。



 本日の読了本は藤雪夫、藤桂子による『獅子座』。元々は藤雪夫の単独作で、あの鮎川哲也の『黒いトランク』と、講談社の「書下し長篇探偵小説全集」第十三巻の座をコンテストで争った作品でもある。ただコンテストでは惜しくも二位。その後本作は長きに渡って封印されていたわけだが、約三十年後、実の娘さんである藤桂子との合作という形で、講談社より出版されたという曰く付きの一冊だ。この辺の事情は解説に詳しいので、興味ある方はぜひそちらで。

 物語はこんな感じ。埼玉県で、あるサラ金会社の支店長が殺されるという事件が起こる。警視庁の菊地警部は地元警察署と協力して捜査を進めるが、今度は、事件を通して知り合った青年が死体となって発見される。一見、支店長殺人事件は青年の犯行であり、覚悟の自殺と思われた。だが菊地は青年の無実を晴らすべく、被害者の残した暗号解読に挑戦する。そしてその謎を解いたとき、思いもよらない過去の犯罪が浮かび上がる……。

 獅子座

 結論からいうと予想していたよりは全然いい。謎としては、前半の暗号解読、後半のアリバイ崩しが柱となってはいるのだが、正直それほど魅力あるものではなく、本格として見た場合にはいろいろと弱点も見られる。とりわけ前半は、暗号云々という以前に、物語にメリハリがなく、まったく興味が持続しない。適度にシリアス適度にユーモラスという具合で、バランスがいいといえば聞こえは良いが、淡々と事務的にお話を読まされている気がするのである。
 これは一杯食わされたかと思っていると、中盤、暗号の謎が解かれて過去の事件が浮かび上がると様相は一変。重要なキャラクターが登場する辺りから、ぐいぐいと力強さを増してくる。ミステリ的にはアリバイ崩しが縦軸となるのだが、この捜査の過程に人間模様が上手くマッチングし、物語にぐっと深みを与えている。そして事件の謎がすべて明らかになったとき、登場人物たちの抱える業もまた白日の下にさらされる。決して快い結末ではないが、このほろ苦い余韻は味わっておいて損はない。

 ただ、惜しいのはやはり前半。また、変にトリックなどに凝らず、もう少し現実味のあるものに落としてもかまわないから、ドラマ性を活かしてハードボイルド的に書かれていれば、これはかなりの作品になっていたのではないか。タイプこそ違えど、本作はコナリーのボッシュ・シリーズやクックの諸作品にも通じるものがあると感じた次第だ。ちょっと褒めすぎかな(笑)。


『刑事コロンボ/白鳥の歌』

 今朝知ったのだが、ディック・フランシスが亡くなったそうだ。初期の有名な作品しか読んでいないけれど、あまりのビッグネームの逝去にしばし唖然。確かに相当お年を召していたとは思うが、先月も新刊が出たばっかりだったから唐突な感は否めない。――合掌。
 ところで年明けからの文学系物故者、ちょいと多すぎ。柴野拓美、エリック・シーガル、ロバート・B・パーカー 、北森鴻、J・D・サリンジャー、相原真理子、立松和平と、名前を知っている方だけでも8人にのぼる。まだまだ活躍できた現役バリバリの方もいるし、まったくやりきれん。いやな連鎖である。




 昨日はおとなしく自宅でごろごろ。オリンピック関連番組の合間にDVDで『刑事コロンボ/白鳥の歌』を観る。
 見どころは犯人役に起用されたカントリー歌手のジョニー・キャッシュで、役柄も本人そのままの大物カントリー歌。妻に弱みを握られて、妻の信仰する新興宗教団体へ多額のお布施を強要されているという設定だ。彼は自家用セスナで妻らと移動中、故障を装ってセスナを墜落させる。自分だけは奇跡的に助かるが、実はこっそりパラシュートを使っていたというもの。このパラシュートの存在が事件のカギとなる。

 ラストが鮮やかで、『パイルD3の壁』のスタイルを踏襲している。ただ、あちらは最初からコロンボの決め打ちだったのだが、今回は決め打ちしながらも一度は空振りに終わるのがミソ。犯人ではなく、視聴者に対して、もう一度ひっくり返してみせるところがなかなかお見事だ。
 本作のミソはもうひとつあって、こちらは『別れのワイン』を意識したもの。つまり視聴者が同情しやすい犯人像を設定し、よりドラマ性を高めたシナリオということらしい。
 だが正直これは弱いか。本来は殺さなくてもいいはずの人物まで命を奪ってしまうし、殺害後の生活も非常識。トミーというキャラクターにそこまで感情移入はできないけどなぁ。

 いいところと悪いところが顕著で、総合ではまずまずといったところか。昔観たときはもっと面白いと思ったのだが、あれか、葬儀屋とか軍の関係者とかコミカルなサブキャラ陣の印象が強かったかな?


横溝正史『横溝正史探偵小説選III』(論創ミステリ叢書)

 バンクーバー冬季オリンピックが始まりましたな。こういうスポーツイベントは根っから好きなので、時間があれば見る方だが、昨日はとりあえず開会式を堪能。
 で、冬季の開幕式でたまにあるのが、ショーの演出が変にアートに走りすぎる場合(こんなこと思ってるの俺だけ?)。スポーツイベントに過度に意味を持たせすぎる悪い例なのだが、こういうときは往々にして盛り上がりに欠け、見ていても全然わくわくしない。今回はフロアや客席までスクリーンとして使うなど、立体的な演出が多くて、シンプルな構成ながらもスケール感があって良かったんではないかな。ちなみに草原を駆け回っていた少年の演技や表情にすごく感心したんだけど、彼は俳優? モデル?
 選手の入場行進も楽しみのひとつ。一見退屈そうなんだけど、個人的にはこれがイチ押しだったりする。ユニフォームのデザインや着こなしも見どころだけど、入場時の選手たちの態度にお国柄がすごく顕れ、比較しながら観てるとむちゃくちゃ面白い。また、それに対する観客の反応もけっこう興味深い。選手個々は特殊な才能を持ったアスリートたちなんだけど、集団になるとやっぱり国民性がすごく出る。縮図だよなぁ。


 寝る前にベッドでぼちぼち読んでいた『横溝正史探偵小説選III』をようやく読み終える。『~I』『~II』に続いて本書も単行本未収録作が山ほど収録されており、そのボリュームは圧巻。収録作は以下のとおり。

■創作篇―推理小説
三津木俊介・御子柴晋の事件簿
「鋼鉄魔人」
「まほうの金貨」
「のろいの王冠」

「寄木細工の家」
「げんとうどろぼう」
「地獄の花嫁」

■創作篇―時代小説
智慧若捕物帳
「雪だるま」
「とんびの行方」
「幽霊兄弟」

「神変龍巻組」
「奇傑左一平―怪しき猿人吹矢の巻」
「白狼浪人」
「秘文貝殻陣」
「まぼろし小町」
「蝶合戦」

犯人さがし捕物帖「お蝶殺し」

■評論・随筆篇
探偵小説への饑餓/探偵小説と療養生活/
『蝶々殺人事件』の映画化について/映画にしたい探偵小説/
探偵小説の方向/獄門島顛末/めくら蛇におぢず―翻訳誌の思出/
新しい探偵小説/探偵小説の構想/森下雨村の好意―私の処女出版/
還暦感あり/推理小説万歳/推理小説を勉強中/
探偵小説五十年/佐七誕生記/人形佐七捕物控/
私の捕物帳縁起/『ドイル全集』訳者の言葉/
御存じカー好み/怪奇幻想の作家三橋一夫氏に期待す/
過程必備の書/ガードナーを推す/「魔術師」について/
エデン・フィルポッツのこと

 横溝正史探偵小説選III

 基本的には前の巻で収録できなかった現代物のジュヴナイル、そして出版芸術社から出た「横溝正史時代小説コレクション」全六巻からもれた時代小説を中心に編まれている。性格としては拾遺集以外の何者でもないのだが、それでも十分に楽しめる作品が多いのはさすが正史。
 特に、時代物でも子供向けのものがいくつか採られており、これがまたいい味なのである。子供向けということでより派手な展開を意識したか、長篇(中編?)の「神変龍巻組」なんて大人向きにリライトしてもらいたいぐらい楽しい読み物。歴史上では処刑されたはずの秀頼の忘れ形見、国松丸を中心に、敵味方それぞれの見せ場を作りつつ、ラストは……という具合で、いやいや素晴らしい。
 また、智慧若捕物帳と題した「遠山の金さん」の息子が活躍するシリーズは、けっこうしっかりしたミステリ仕立て。これもまた本格ファンをニヤッとさせる内容で満足。

 横溝の時代物といえば、個人的にはこれまで『髑髏検校』や「人形佐七」といった有名どころしか読んでいなかったのだが、出版芸術社や徳間文庫から出ている作品もちゃんと読まないとなぁ。反省。


本多猪四郎『モスラ』

 風邪気味がずっと続いて一向に回復の兆しがない。明日は早くからセミナーに出席するので、今日はおとなしく家でDVDを観ながら過ごす。『THIS IS IT』の特典映像とか(これがまた長い)、東宝特撮ものとか。


 というわけで『モスラ』の感想。
 監督は本多猪四郎、原作は中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の共作による『発光妖精とモスラ』という具合で、なかなか豪華だ。
 デアゴスティーニの解説によると、『モスラ』は男性向けだった怪獣映画に何とか女性ファンも取り込もうという狙いがあったらしい。その結果として従来の怪獣映画にはなかった、良い意味での軽さが特徴的だ。例えば映像のカラフルさやコミカルな演出、また、小美人というアイドルの存在、母性を象徴するモスラというキャラクターの設定も、みなそのコンセプトの延長線上にあるといえる。

 原作に純文学系の作家を三人も起用したのは、話題性もあったのだろうが、結果的には成功している。
 日本の怪獣映画はそもそもの出自からして社会問題と切っても切れない関係にあるのだが、お三方もそれが念頭にあったのは想像に難くない。当時の日米関係や安保闘争などの世情が色濃く反映されているのはチェックポイントだろう。冒頭では核の問題もしっかりクローズアップされている。

 気になったのは、終盤のストーリー展開が慌ただしいところ。
 モスラが成虫になるのと平行して、小美人を連れて逃げ回るネルスンの様子が描かれるわけだが、シーン毎のつながりが悪く、いまひとつ盛り上がりに欠けるままラストまで行ってしまう。せっかく舞台も日本からロリシカ国に移っているのに、あまり活かされているとも思えず非常にもったいない。
 まあ、スペクタクルを盛り上げるには、なかなか難しい怪獣だとは思うけれども。


黒羽英二『十五号車の男』(河出書房新社)

 十五号車の男

 黒羽英二の短編集『十五号車の男』を読む。
 昨年の夏頃に出版された本だが、当時はそれほど話題にならず、濃いめのミステリサイトがいくつか取り上げた程度だったように記憶する。まあ相当なミステリファンでも、この黒羽英二という名前をもともと知っている人はあまりいないんじゃないだろうか。
 かくいう自分も本書で初めて知ったわけだが、それもそのはず。著者はミステリ作家ではなく純文学畑、しかも小説以上に詩や戯曲のほうで活躍されている作家なのだ。

 だが、単なる純文学作家というわけではない。
 黒羽英二は鉄道の廃線跡に魅入られた人である。長らく趣味で鉄道廃線跡の探索を続け、それを創作活動に昇華させてきた。いわば超筋金入りの鉄ちゃんであり、鉄道文学の第一人者なのである。
 本書はその集大成ともいうべき鉄道小説集で、幻想小説や純文学、旅行記といったスタイルを駆使した作品が収められている。そして中には、著者が純文学で知られるようになる以前、「利根安理」名義で『宝石』の懸賞小説に応募し、見事佳作入賞した作品「月の光」も収録されている。これは乱歩がお気に入りだったらしく、本書を読んだのもそれが一番の理由だ。
 その他の収録作品は以下のとおり。

「月の光」
「十五号車の男」
「幽霊軽便鉄道(ゴーストライトレイルウエイ)」
「カンダンケルボへ」
「古い電車」
「母里(もり)」
「子生(こなじ)」
「成田」

 ひととおり読んでみたが、やはり「月の光」は悪くない。乱歩が好きな理由も読めばすぐに理解できる、ある種の妖しさを備えた作品。
 その他では「古い電車」もいい。ミステリでも幻想小説でもないが、作中の老人と孫、子供の関係が多重構造で語られ、余韻が実に美しい。
 表題作の「十五号車の男」はけっこうシュールもしくはサイコな方向に持っていくのかなと思っていたら、着地がいまひとつ。惜しい。
 印象に残ったのはこれぐらいか。質自体は低いとは思わないが、全般的にもっと幻想的な作品が多いと思っていたのでちょっと拍子抜け。やはりこれは鉄道小説集なのだと再認識したわけだが、そもそも帯のキャッチが誤誘導しすぎなのだ。やられた。


角田喜久雄『影丸極道帖(下)』(春陽文庫)

 影丸極道帖(下)

 角田喜久雄の『影丸極道帖』下巻読了。
 上巻では、ヒロイン小夜を中心として、その背後に迫る魔の手や希代の怪盗影丸の暗躍、それを追う同心たちの動きなどが描かれた。影丸がどうやって脱獄したかというホワイダニット、あるいは同心たちの警察小説的な見せ方などは、確かに読ませはする。
 ただ、リアルタイムな動きが意外に少なく、やや不安を感じないでもなかったのだが、下巻に入るとそんな杞憂はどこへやら。名与力の白亭が事件に隠された謎を探るべく旅に出た辺りから、物語は一気に動き出す。

 下巻の中盤以降は、とにかく次から次へと事件の秘密が解き明かされる。ラストのどんでん返しにいたってはまったく予想外で、久々に気持ちの良い背負い投げを喰らった感じである。
 さらには、ひとつひとつの伏線を指摘する白亭の謎解きシーンも鮮やかだ。上巻で広げた大風呂敷を見事にまとめていくこの手際。伝奇小説だからと思って油断している読者へ、これが緻密に構築されたプロットであることをあらためて認識させてくれる。正に本格ミステリの味わいといっても過言ではない。

 強いて難を挙げるなら、一人語りや手記など、やや説明的になりすぎる描写が多いことか。特に物語に慣れない上巻でこれが続くと少々だるい。だが、それさえ目をつぶれば、もうこれは極上の一冊。Amazonなどで調べるとどうやら現役本のようなので(といっても春陽文庫の在庫のお知らせは非常に怪しいのだが)、興味があるかたはぜひどうぞ。

 あ、最後に、本書を紹介して下さったkanamoriさんに感謝!


スティーヴン・ソマーズ『G.I. ジョー』

 昨日は埼玉秩父は長瀞の宝登山(ほどさん)へ。麓には宝登山神社もあるけれど、目的はそこからロープウェイでゆく神社奥宮。この時期は蠟梅が見頃で、いや実に見事ではあるが、山頂は寒すぎ。折しも新潟では大雪のニュースが流れていたが、この日は秩父も朝から雪が降ったそうで、午前中はとにかく風も強くて厳しい。ロープウェイの待ち時間もそれなりにあるので、出かけられる方はしっかりした防寒準備があると吉。だが寒い分だけ、降りてから茶屋でいただく味噌おでんや葛湯の旨さがひとしお。
 ちなみにあと一、二週間もすれば、すぐ隣にある梅百花園の梅も見頃となる。近所には有名な長瀞の岩畳もあるし、シーズンには川下りもあるわけで、秩父、意外に楽しめる。


 昨日の寒さが堪えたか、あるいは久々のドライブで疲れたか、本日は一日中引きこもり。東宝特撮やコロンボを消化しようとも思ったが、しばらくハリウッド製のSF特撮ものを観ていなかったのでレンタルショップへ。『G.I. ジョー』とか『ウルバリン』とか『ノウイング』とか『スタートレック』とか、こういうのもちょっと油断しているとすぐに宿題が溜まってくるわけで。とはいえ一つひとつの作品には意外と思い入れがない、ヌルいファンとしては、シリーズものは後回しにして今回は『G.I. ジョー』をチョイス。

 元々は玩具のフィギュア、それがアニメになって、今回の実写映画化ということで、端から内容にはそれほど期待していない。期待するのは他の似たようなSF特撮ものと比べ、どれぐらいオリジナリティを出しているか、というところ。そこはグラフィックにこだわらず、ストーリーや演出等、何でもいいのだが、最近はけっこうメジャーな作品でもガッカリすることが多いんだよなぁ。『ターミネーター4』とか『エイリアン3』とかは狙いは面白いんだけど、全然昇華されてない代表。
 本作も期待していない分、ガッカリとまではいかないけれど、『G.I. ジョー』ならではというものはない。チーム戦ということでは『ファンタスティック4』みたいなバトル、コミカルな演出は『ハンコック』、『バットマン』や『アイアンマン』みたいなコスチュームや武器など、どこかで観たような演出やシーンが目白押し。
 見どころは中盤のカーチェイスというかマンチェイスw。死と隣り合わせというカーチェイスの演出を、強化スーツという設定によって幅を一気に広げており、ここは素直に脱帽。見せ方を工夫しており、アクションが好きなら楽しめるはずだ。
 反対に駄目なのはストーリーというか基本設定。なんか敵味方の登場人物がみな過去に因縁があって、世界の平和はあまり関係がないような……。そのために意外にスケール感がなく、小粒な印象。また、続編への振りがあざとすぎるのもマイナス要素。
 そんなこんなで、基本的にはまずまず楽しめるものの、ま、興味ない人はスルーしてもまったくOK。ちなみにイ・ビョンホンのファンはどういうふうな感想をもったのか、ちょっと気になる(笑)。


角田喜久雄『影丸極道帖(上)』(春陽文庫)

 角田喜久雄の『影丸極道帖』を上巻まで読了。
 探偵小説の書き手として知られる角田喜久雄のもうひとつの得意ジャンルが時代伝奇小説(むしろこっちの方が有名か)。本書はその代表作のひとつでもあり、本格風味もあるという一作。

 江戸の街を恐怖に陥れる怪盗影丸。大商人や旗本の屋敷を襲っては略奪を繰り広げていたが、その影丸が遂に捕まった。お手柄は若手の敏腕同心、志賀三平の部下である岡っ引きの伝六。だが三平とその師匠格にあたる松平白亭は、おとなしく捕まった影丸に対し、一抹の不安を抱かずにはいられなかった。
 案の定、影丸は脱獄に成功するが、時同じくして白亭の娘、小夜が誘拐されるという事件が起こる。下手人は忠臣蔵五段目、斧定九郎とうり二つの男。しかもこの男、岡っ引きの伝六と密約があるらしく……。

 影丸極道帖(上)

 簡単にストーリーを紹介しようとしてもなかなか難しい。なんせ伝奇小説といえば、豊穣な物語性がなくてはならぬ一大要素。とてもじゃないが、ひとことで解説できるほどシンプルなストーリーではない。上で書いたのもほんのさわり程度で、上巻ではまだ敵味方も判然としないまま、運命に翻弄される小夜と彼女をつけ狙う悪党や影丸の暗躍が描かれる。もちろんそれを追う同心たちの活躍も見もので、総じてストーリーの面白さや登場人物たちの描写で読ませるといった印象。
 ちなみに上巻を読む限りでは、本格風味を味わうというところまでには至っていない。同心たちが地道な聞き込み調査を行い、犯行の裏をとっていくという辺りはなかなか渋く、特に影丸の脱獄方法を突き止めるくだりなどは、他の時代物や伝奇物にあまり見られない警察小説的なシーンといえるだろう。
 果たしてこの物語がどのような展開をみせてくれるのか。とりあえず下巻に突入。


ケニー・オルテガ『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』

 遅ればせながら日曜日の分の日記をアップ。珍しく音楽漬けの一日。

 アミュー立川で「立川市民オペラ公演2010 歌劇アイーダ」を観劇。
 オペラを生で観るのは初めてなので、素直に歌手の歌声や声量に感動。まったくの素人としては、やはり第二幕が知っている楽曲もあり、派手さもあって楽しめる。ただ全四幕、上演時間が三時間と長いので、けっこう腰にくる。これぐらいの時間がデフォルトなのでしょうか?


 夜はケニー・オルテガ監督による『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』を観る。
 いまさら説明の要もないだろうが、あのマイケル・ジャクソンのロンドン公演のリハーサル風景を収めたドキュメンタリー映画。映画館での公開期間延長や発売されたばかりのDVD人気もまだ記憶に新しいところだ。管理人もリアルタイムで聞いてきた世代なので、その偉大さについては刷り込み済み。学生のときに観た『スリラー』のミュージックビデオはそりゃインパクトあったし、当然ながらアルバムも何枚か持っている。
 とはいうものの、近年の音楽活動が全盛期に比べればいたって静かだったのもまた事実。数々の奇行や訴訟など、音楽以外の話題ばかりが先行した感もある。そのマイケル・ジャクソンのリハ風景を収めた映画が、追悼の意味もあるとはいえ、ここまで評判になって売れる理由がわからなかった。

 その疑問は二時間後に氷解した。この映画には、マイケルの音楽人生の集大成が収められているのだ。
 もちろんリハ中の歌っているシーンばかりを集めたものだから、一曲として完全な形で収録されているものはない。ときには途中でストップがかかり、スタッフとのやりとりやマイケルの注文がガシガシ入ってくる。それでもなおかつ十分な満足感を得ることができる不思議。
 もともと彼の曲は既に完成されたものである。そこをさらにブラッシュアップし、公演に向けてより磨き上げていく。そこから感じるのは、彼の音楽に対する情熱や、ショーに対する真摯な姿勢だ。一見わがままとも取れる言動もあり、マイケルならではの感覚的な注文もあるのだが、彼の発想が優れているからこそ、そして彼が一途であるからこそ、スタッフも懸命にそれに応えようとする。また、マイケルも狙いを伝えるべく何度も説明を繰り返し、ときには若手に温かい言葉も投げかける。最高の歌を、最高のショーを提供するために、一曲一曲ひたすら突き詰めてゆく。
 それは正しく「道」を極める行為といってもよい。リハーサルであるにもかかわらず、マイケルは金ぴかの衣装を身にまとい、ほぼ全力で歌い上げる。彼にとってはリハーサルであっても常に真剣勝負なのだ。

 近年伝わってきたマイケル・ジャクソンに関する報道はいったい何だったのだろう。King of Popといわれた彼が、裸の王様だと単純にイメージしていた人も少なくなかったに違いない。だがこの映画を観るかぎり、彼はやはりKing of Popである。永遠に。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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