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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ガイ・リッチー『シャーロック・ホームズ』

 第一回翻訳ミステリー大賞贈呈式&コンベンションが無事に終了したようで。ちなみに大賞はドン・ウィンズロウの『犬の力』。順当と言えば順当だが、絶対注目作の『ミレニアム』を退けての受賞はやはり興味深い。この結果は一応、今後の大賞の方向性を決定づけるはずだが、さて来年はどうなるか。
 ちなみにノミネートから作品を絞っていく形も悪くはないんだが、サプライズという意味ではどうしても落ちる。いきなり発表ではだめなのかしら。
 ま、そんなことより来年は何とか参加してみたいもんだなぁ。


 テレビニュースでも被害状況を報道していたが、昨日の突風はいったい何だったのか。夜中に風で目が覚めるなんて台風でもそうそうないぞ。
 朝、おそるおそる外へ出てみたら、玄関脇に置いてあったポリバケツや庭用具がその辺に転がってるし、自転車は倒れてるし。何より一番ビックリしたのは3mぐらいある植木が倒れていたこと。しかも門の金具にビニールの紐で固定していたというのに。ま、場所によっては電柱も倒れたらしいから、これぐらいで済んでよかったのか。


 ガイ・リッチー監督による『シャーロック・ホームズ』を観にいってきた。気になるキャストはホームズにロバート・ダウニーJr.、ワトスンにジュード・ロウという布陣。
 制作者サイドは、これが忠実なホームズ映画なんて言っているけど、そういうのは宣伝文句だから話半分に聞いておく方が吉。ロバート・ダウニーJr.を起用した時点で、原典に忠実なホームズ映画を作る気がないのは百も承知。そもそもグラナダホームズがある以上、シリアスに作ってこれを越えるのは並大抵のことではない。彼らにできるのはシャーロキアンの顰蹙を買いつつも、どこまで自分たちのホームズ物語を提案し、面白い映画にしてくれるか、である。ま、想像ですけど(笑)。

 シャーロック・ホームズ

 さて実際に観た感想だが、これがけっこう楽しめてしまった。

 あちらこちらで書かれているとおり、ま、欠点はいろいろある。
 その最たるものは事件のトリックが、非常に地味というかちゃちいこと。
 百歩譲ってトリックがちゃちいのは許すとしても、ラストでせっかく謎解きシーンがあるのに、全然ロジカルでないからミステリとしての醍醐味はほぼ皆無。最悪、トリックはしょぼくてもいいから、ラストで何らかのサプライズは欲しかった。

 また、やはりホームズのキャラがあまりに違いすぎるのは気になる。冷徹なホームズのイメージが、何ともセクシーで愛嬌あるアンちゃんになってしまったのは、気になる人は気になるだろう。ただ、これに関しては、それを承知で観にいっているわけだから、個人的には実は文句がない。
 嫌だったのはそのセクシーなホームズ像をワトスンとのBL的演出に絡めてしまったこと。アイリーン・アドラーとの恋愛は全然いいけれど、さすがにこっちの路線は余計だ。そういう興味で観る人がいるのはかまわないが、作り手がそれを意識すると下品なだけである。
 ちょっと話はそれるが、いわゆる「バカミス」も作者が意識して書くバカミスは、本来、バカミスの定義から外れると思うし、あまり好きな風潮ではない。

 とまあ、欠点だけでけっこう長々と書いてしまったが、それでもこの映画は嫌いではない。
 最低限の設定というか世界観を守りつつ、そのなかで上質のエンターテインメントを目指していることはわかる。英国の冒険ものの流れをちゃんと受け継いでおり、アクションありユーモアありでバランスがいい。例えていうと007が近いか。舞台こそ19世紀末のロンドンだが、その時代を巧みに用いて近未来アクション映画を作っているイメージ。

 演出も悪くない。特にホームズが観察&推理したうえで、それを実行するという見せ方は気に入った。あれをアクションだけではなく、普通の推理シーンでやってくれればもっと良かったのだが。難しそうだけど。
 キャラクターもいいぞ。ダウニーだってホームズだと思わなければ、非常に魅力的だし、堅物ワトスンとの対比もいい。ちなみにキャストで一番はまっていると思ったのが、このワトスン。
 レイチェル・マクアダムスのアドラーは小悪魔的イメージが強く出過ぎていて、もう少し大人びた感じの方がイメージではないだろうか。ケリー・ライリーのメアリーはどんぴしゃ。レストレード警部はもう少し細身の感じじゃないかな。ま、この辺は個人的なイメージなのであまり真面目に受け止めないでくだされ。
 あと、衣装やロンドンの町並みの再現も○。

 結局、ホームズの映画化という部分さえ気にしなければ(それが一番大事じゃんという話もあるけれど)、これはこれであり。上で007と書いたけれど、こういうテイストってけっこうあるよね。『ルパン3世』とか『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか。
 つまり成功するエンターテインメントの必要条件を、この映画もまたある程度はなぞっているということ。過大な期待をかけない、シャーロキアンは粗探しをしない、この二点を守っていただければ、普通に楽しめる映画である。
 最近のヒーローもの映画におなじみの、「ラストでとりあえず次作への伏線」もしっかりあるので、興行成績がよければパート2ももちろん作るはず。この伏線だったら、次作こそぜひ観てみたいものだが。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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