Posted in 10 2010
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キャロル・オコンネル『愛おしい骨』(創元推理文庫)
キャロル・オコンネルの『愛おしい骨』を読む。マロリー・シリーズや『クリスマスに少女は還る』で知られるオコンネルの久々の新刊である。まずはストーリーから。
母親代わりの家政婦ハンナに乞われ、二十年ぶりに故郷へ帰ってきたオーエン。彼が十七歳の時、二つ違いの弟ジョシュアが森で行方不明となる事件が起こった、それ以来の帰郷だった。
そもそもが自ら望んだわけではない帰郷。その彼を待っていたのは、死んだ弟の骨が毎朝、玄関先に置かれていくという不気味な事件。そして時が止まったかのように当時を保つ屋敷。眠りの中で死んだ妻と会話し、彷徨い歩く父の姿。
さらに弟とは別人の骨までが発見されるに至り、軍隊での捜査官としてのキャリアをもつオーエンは、保安官から半ば強制的に捜査に参加させられるが……。

ほほう、そうきたか。
傑作の誉れ高い『クリスマスに少女は還る』は、万人を納得させるストレートなパワーをもった作品だったが、本作はかなりの変化球である。
もちろんミステリではあるのだが、狭義のミステリの興味とは少々違ったところを目指しており、しかもミステリだからこそ可能な感動を与えてくれる作品と言えるかもしれない。解説で川出正樹氏は「本書はミステリであることによって豊饒な小説と成りえた稀有な逸品」と評しているが、正にそのとおり。著者の興味は、事件の謎を解いたときに見えてくる「真相」ではなく、「真理」にある。
ポイントはいくつかある。まずは事件の真相そのものが複雑で、とても解かれることを期待するようなものではないということ。例えば骨が届けられるという導入部は見事で、普通はこれを物語の芯として引っ張っていきそうなものだが、実はこれは事件全体のなかでのほんの一部分でしかなく、正直、胆ですらない。そういうオフビートな要素、偶然性がかなり盛り込まれている。そもそも信頼できる登場人物が非常に少なく、語られる事実の信憑性も低い。
もうひとつのポイントは、個性的すぎる登場人物。いま、信頼できる登場人物が非常に少ないと書いたが、ほぼ主要なキャラクターのすべてが人に言えない秘密を抱え、それゆえに事件に悪影響を与える。また、それぞれがそれぞれの事情でもって、自分なりの容疑者をもっており、これまた捜査の行く手を阻む要因の一つとなっている始末。これは探偵役のオーエン、そして被害者のジョシュアですら例外ではない。
畢竟、物語は実に混沌とした様相を呈してくる。ネジの緩んだ登場人物たちが、それぞれ勝手な思惑で動き回る世界。独特の語り口もあって、ミステリというよりはまるでファンタジーを読んでいるかのような錯覚すら覚えるほどだ。無論、大人のための極めてダークなファンタジーであるが。
ただ、『クリスマスに少女は還る』を書いた著者のこと。これらの効果は明らかに狙ったものであり計算していることは間違いない。むしろこの混沌とした設定で物語を進めること自体、はなれわざといっていい。
そして、そんな特殊な世界だからこそ、事件を通してハッキリ見えてくるものがある、それこそが本書のテーマ。著者はいたずらに変な登場人物や設定を創造したのではない。謎が解けたとき、『クリスマスに少女は還る』とは別の意味で、すとんと落ちるものがあるはずだ。
好き嫌いは出そうだが、やはりこれは読んでおくべき。
母親代わりの家政婦ハンナに乞われ、二十年ぶりに故郷へ帰ってきたオーエン。彼が十七歳の時、二つ違いの弟ジョシュアが森で行方不明となる事件が起こった、それ以来の帰郷だった。
そもそもが自ら望んだわけではない帰郷。その彼を待っていたのは、死んだ弟の骨が毎朝、玄関先に置かれていくという不気味な事件。そして時が止まったかのように当時を保つ屋敷。眠りの中で死んだ妻と会話し、彷徨い歩く父の姿。
さらに弟とは別人の骨までが発見されるに至り、軍隊での捜査官としてのキャリアをもつオーエンは、保安官から半ば強制的に捜査に参加させられるが……。

ほほう、そうきたか。
傑作の誉れ高い『クリスマスに少女は還る』は、万人を納得させるストレートなパワーをもった作品だったが、本作はかなりの変化球である。
もちろんミステリではあるのだが、狭義のミステリの興味とは少々違ったところを目指しており、しかもミステリだからこそ可能な感動を与えてくれる作品と言えるかもしれない。解説で川出正樹氏は「本書はミステリであることによって豊饒な小説と成りえた稀有な逸品」と評しているが、正にそのとおり。著者の興味は、事件の謎を解いたときに見えてくる「真相」ではなく、「真理」にある。
ポイントはいくつかある。まずは事件の真相そのものが複雑で、とても解かれることを期待するようなものではないということ。例えば骨が届けられるという導入部は見事で、普通はこれを物語の芯として引っ張っていきそうなものだが、実はこれは事件全体のなかでのほんの一部分でしかなく、正直、胆ですらない。そういうオフビートな要素、偶然性がかなり盛り込まれている。そもそも信頼できる登場人物が非常に少なく、語られる事実の信憑性も低い。
もうひとつのポイントは、個性的すぎる登場人物。いま、信頼できる登場人物が非常に少ないと書いたが、ほぼ主要なキャラクターのすべてが人に言えない秘密を抱え、それゆえに事件に悪影響を与える。また、それぞれがそれぞれの事情でもって、自分なりの容疑者をもっており、これまた捜査の行く手を阻む要因の一つとなっている始末。これは探偵役のオーエン、そして被害者のジョシュアですら例外ではない。
畢竟、物語は実に混沌とした様相を呈してくる。ネジの緩んだ登場人物たちが、それぞれ勝手な思惑で動き回る世界。独特の語り口もあって、ミステリというよりはまるでファンタジーを読んでいるかのような錯覚すら覚えるほどだ。無論、大人のための極めてダークなファンタジーであるが。
ただ、『クリスマスに少女は還る』を書いた著者のこと。これらの効果は明らかに狙ったものであり計算していることは間違いない。むしろこの混沌とした設定で物語を進めること自体、はなれわざといっていい。
そして、そんな特殊な世界だからこそ、事件を通してハッキリ見えてくるものがある、それこそが本書のテーマ。著者はいたずらに変な登場人物や設定を創造したのではない。謎が解けたとき、『クリスマスに少女は還る』とは別の意味で、すとんと落ちるものがあるはずだ。
好き嫌いは出そうだが、やはりこれは読んでおくべき。