Posted in 02 2012
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ロイ・ヴィカーズ『フィデリティ・ダヴの大仕事』(国書刊行会)
テレビのバラエティ番組「アメトーク」の読書芸人がなかなか評判よろしかったようで、Twitterなんかでは好意的なコメントがTLを賑わしていた。もともと人気番組ではあるが、視聴率もいつも以上に良かったとか。管理人も珍しく録画までして観てしまった。
「週刊ブックレビュー」とか「ベストセラーBOOK TV」、ミステリ好きにはお馴染みの「AXNミステリー BOOK倶楽部」など、これまでも書評番組がないことはなかった。ただ、衛星放送中心ということや番組自体の作りが地味すぎて、どうしても人気番組というわけにはいかない。そこへ人気芸人、人気番組を用いての読書企画だから、待ってましたという人も多かったのだろう。潜在的な読書ファンにうまく響いたのか、先に書いたようにTwitterではほとんどが好意的書き込みなのは驚いてしまった。書評云々ではなく、真っ向から読書そのものをテーマにしているのも、間口を広める意味ではよかったのだろう。
まあ、読書芸人とかいいながら、明らかに頭数合わせで呼ばれている芸人がチラホラいるのはいただけなかったが(もしかしてあれでも読書好きに入るのか?)、本好きの人なら概ね楽しめる内容だったように思う。又吉の文学好きはもうけっこう知られているので期待通りだったし、若林や光浦あたりもけっこう頑張っていたなぁ。
「あとがき」で又吉が書いていたように、こういうのをきっかけに本好きが増えれば何より。出版業界の末席を汚す一人として切にそう思う。
本日の読了本は、ロイ・ヴィカーズの『フィデリティ・ダヴの大仕事』。
倒叙ミステリの名手として知られるヴィカーズが、その代表作「迷宮課事件簿」シリーズの十年ほど前に書いていた女怪盗ものの短篇集である。まずは収録作から。
A Face and a Fortune「顔が命」
Suspense「宙吊り」
The Genuine Old Master「本物の名作」
A Classic Forgery「偽造の定番」
The Gulverbury Diamonds「ガルヴァーバリー侯爵のダイヤモンド」
The Merchant Princess「貴顕淑商」
Fourteen Hundred Per Cent「一四〇〇パーセント」
A Deal in Reputations「評判第一」
The Laughing Nymph「笑う妖精」
Proverbs and Profits(別題The St. Jocasta Tapestries)「ことわざと利潤」
The Meanest Man in Europe「ヨーロッパで一番ケチな男」
The Great Kabul「グレート・カブール・ダイヤモンド」

最近の怪盗ものというとニックやバーニィ・ローデンバーに代表されるような、独特なルールのもとで単独行動するパターンが多いけれど、こちらはルパンのような組織で活動する典型的義賊。ただし、まだ二十歳そこそこの淑女がボスというのが最大の特徴だろう。
灰色の服を纏い、天使のように微笑みながら、むくつけき男どもを手足のように操って完全犯罪をこなす。男勝りではなく、あくまでレディとしての面目を保ちつつ、というところがミソか。このスタンスがえらく現代的で、訳文のおかげももちろんあるだろうが、まったく古さを感じさせない。っていうか、むしろすぐにラノベやアニメにでもできそうなぐらいキャラクターもドラマも立っているのが驚きである。
これが単なる作者のアイデアだったのか、はたまたそういうものを生む社会情勢みたいなものがあったのか、ちょっと気になるところではある。
さて、本作はキャラ萌え要素だけではなく、ミステリとしても十分合格点を挙げられる。
普通は怪盗ものというと、いかにして獲物を盗むのかというのが興味の中心。本作の場合、もちろんそれもあるけれど、意外にコン・ゲーム的な内容が多く、バラエティに富んでいるのも楽しい。強欲な金持ちの心理を見事についたテクニックの数々が披露されるけれど、個人的には「笑う妖精」をプッシュしておこう。
とにかく時代を考えればもっとアバウトなレベルでもおかしくないのに、予想以上にしっかりしたネタで勝負しているのに感心。珍しさだけではなく、純粋に面白いミステリとしてもオススメできる一冊。
「週刊ブックレビュー」とか「ベストセラーBOOK TV」、ミステリ好きにはお馴染みの「AXNミステリー BOOK倶楽部」など、これまでも書評番組がないことはなかった。ただ、衛星放送中心ということや番組自体の作りが地味すぎて、どうしても人気番組というわけにはいかない。そこへ人気芸人、人気番組を用いての読書企画だから、待ってましたという人も多かったのだろう。潜在的な読書ファンにうまく響いたのか、先に書いたようにTwitterではほとんどが好意的書き込みなのは驚いてしまった。書評云々ではなく、真っ向から読書そのものをテーマにしているのも、間口を広める意味ではよかったのだろう。
まあ、読書芸人とかいいながら、明らかに頭数合わせで呼ばれている芸人がチラホラいるのはいただけなかったが(もしかしてあれでも読書好きに入るのか?)、本好きの人なら概ね楽しめる内容だったように思う。又吉の文学好きはもうけっこう知られているので期待通りだったし、若林や光浦あたりもけっこう頑張っていたなぁ。
「あとがき」で又吉が書いていたように、こういうのをきっかけに本好きが増えれば何より。出版業界の末席を汚す一人として切にそう思う。
本日の読了本は、ロイ・ヴィカーズの『フィデリティ・ダヴの大仕事』。
倒叙ミステリの名手として知られるヴィカーズが、その代表作「迷宮課事件簿」シリーズの十年ほど前に書いていた女怪盗ものの短篇集である。まずは収録作から。
A Face and a Fortune「顔が命」
Suspense「宙吊り」
The Genuine Old Master「本物の名作」
A Classic Forgery「偽造の定番」
The Gulverbury Diamonds「ガルヴァーバリー侯爵のダイヤモンド」
The Merchant Princess「貴顕淑商」
Fourteen Hundred Per Cent「一四〇〇パーセント」
A Deal in Reputations「評判第一」
The Laughing Nymph「笑う妖精」
Proverbs and Profits(別題The St. Jocasta Tapestries)「ことわざと利潤」
The Meanest Man in Europe「ヨーロッパで一番ケチな男」
The Great Kabul「グレート・カブール・ダイヤモンド」

最近の怪盗ものというとニックやバーニィ・ローデンバーに代表されるような、独特なルールのもとで単独行動するパターンが多いけれど、こちらはルパンのような組織で活動する典型的義賊。ただし、まだ二十歳そこそこの淑女がボスというのが最大の特徴だろう。
灰色の服を纏い、天使のように微笑みながら、むくつけき男どもを手足のように操って完全犯罪をこなす。男勝りではなく、あくまでレディとしての面目を保ちつつ、というところがミソか。このスタンスがえらく現代的で、訳文のおかげももちろんあるだろうが、まったく古さを感じさせない。っていうか、むしろすぐにラノベやアニメにでもできそうなぐらいキャラクターもドラマも立っているのが驚きである。
これが単なる作者のアイデアだったのか、はたまたそういうものを生む社会情勢みたいなものがあったのか、ちょっと気になるところではある。
さて、本作はキャラ萌え要素だけではなく、ミステリとしても十分合格点を挙げられる。
普通は怪盗ものというと、いかにして獲物を盗むのかというのが興味の中心。本作の場合、もちろんそれもあるけれど、意外にコン・ゲーム的な内容が多く、バラエティに富んでいるのも楽しい。強欲な金持ちの心理を見事についたテクニックの数々が披露されるけれど、個人的には「笑う妖精」をプッシュしておこう。
とにかく時代を考えればもっとアバウトなレベルでもおかしくないのに、予想以上にしっかりしたネタで勝負しているのに感心。珍しさだけではなく、純粋に面白いミステリとしてもオススメできる一冊。