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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 08 2012

北村龍平『ゴジラ FINAL WARS』

 夏休み明けの仕事がたまっている上に、仕事絡みの飲み会も立て続けに入って読書が停滞中。いま手をつけているのが少々大物なので何とか今週中に読めればいいのだが、たぶん無理(苦笑)。


 リーチがかかっていた「東宝特撮映画DVDコレクション」をさっさとあがっておこうと思い、『ゴジラ FINAL WARS』を観る。監督は北村龍平で2004年の公開。ミレニアムゴジラシリーズ六作目にしてゴジラシリーズ通算二十八作目、そして現時点でのゴジラシリーズ最終作である。

 基本的に個々が完全に独立した作品であるミレニアムゴジラシリーズだが、本作は舞台を近未来20XX年にもってきた。世界中の核実験や戦争により眠っていた怪獣が次々と目をさまし、これに対抗するため国連は地球防衛軍を結成したという設定。何となくゴジラというよりはウルトラマンシリーズ的だがまあそれは許容範囲。
 本作ではさらにプラスαとして「ミュータント」という要素をもってきた。他の人類より身体能力の優れた新人類、そして彼らによる特殊部隊「M機関」が怪獣たちと戦うというもの。ううむ、ここまでくると微妙(苦笑)。
 さて、そんな地球へやってきたのがX星人。彼らは暴れる怪獣たちをたちまち消し去り、地球と友好を結びたいという。当然ながらこれは嘘八百で、X星人は人類を家畜として用いるために地球征服を企てていたのだ。しかし、M機関や科学者たちの活躍でX星人の陰謀が明らかになる。
 さあ、怒るX星人。彼らはM機関のほとんどの隊員を洗脳し、さらには消した怪獣を一気に出現させる。地球は未曾有の危機を迎えたのである。残った者たちは最後の秘策として、かつて南極の氷塊に閉じ込めたゴジラを放ち、怪獣に対抗させようとする……。

 ゴジラ FINAL WARS

 この作品を観るのは二回目だが、ゴジラシリーズをひととおり観たうえで観なおせば、また違った感想が出てくるかとも思ったが、いや、これはやっぱりひどいや(笑)。
 ポイントはいくつかあるが、最後のゴジラ作品ということで、登場する怪獣や兵器、キャストに至るまで総登場という趣なのが何といっても一番か。ヘドラやエビラ、キングシーサーなどというレアどころの怪獣も登場するし、ジラ(ハリウッド版ゴジラ)まで出すんだものなぁ。役者さんも水野久美、佐原健二、宝田明など往年の東宝特撮を彩った方々がちゃんとした役で出演しているのも嬉しい。小ネタも怪獣ファン、ゴジラファンが思わず頬を緩ませるようなものも多い。
 じゃあ、何がダメなんだということになるのだが、つまりそれ以外が全部ダメ(笑)。往年のファンが喜びそうなネタを仕込んでいるのに、設定は逆にお子様向けだし、結局誰に向けて作っているのかが見えない始末。
 おまけに演技も相当な出来である。重鎮はノープロブレムなのだが、メインどころが酷い(なんせ格闘技の選手とか重要な役どころで使いすぎ。いや菊川怜なんてプロパーだけど酷いし)。
 まあ、これが過去作と比べて特別ひどいわけではないし、むしろ暇つぶしのためと割り切れば楽しめる部分もなくはないのだけれど、ラストでこれをやってくれるかという気持ちである。

 ともかく、ようやくこれで「東宝特撮映画DVDコレクション」をコンプリート視聴できた。
 定期購読を始めて、第一巻の『ゴジラ』が届いたのが2009年の10月。二年ほどで全五十五巻が発売されるはずだったが、おそろしいことに途中で六十五巻まで延長されることになり、結局すべてを見終えるまでに三年弱もかかってしまった。初期の未見マイナー作品はもちろんだが、こちらが年をくってからの作品はさすがに観ていないものが多くて、それらをまとめて消化できたのは嬉しいかぎり。
 ちなみに東宝ゴジラは休止状態だが、ハリウッド版は第二弾が控えており、ぼちぼち海外からニュースも伝わっている。まだまだ特撮熱は冷めそうにもないなぁ。


手塚昌明『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』

 東宝特撮映画DVDコレクションから『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』を観る。監督は前作『ゴジラ×メカゴジラ』に続き手塚昌明。ゴジラシリーズとしては二十七作目。長い間、東宝特撮映画DVDコレクションの感想を書いてきたが、ようやくこれがラス前。もちろんゴジラシリーズとしてもラス前である。

 ゴジラと機龍の戦いから一年、再びゴジラの危機が日本に迫っていた。千葉の九十九里浜では巨大生物の死体が打ち上げられ、ゴジラによる傷が致命傷だと推測されていた。また、グアム沖では米軍の原潜がゴジラに襲撃されるという事件が起こる。
 特生自衛隊の整備士、中條義人らは機龍の修理に追われる一年だったが、迫るゴジラの脅威に、最後の仕上げに入っていた。そんなとき休暇で叔父の中條信一博士のもとを訪れていた義人は、インファント島の小美人に遭遇する。かつてモスラが日本を襲撃した際に尽力した中條信一博士に対し、小美人は「死んだ生物に人間が手を加えてはならない。機龍を海に帰すべきだ。その代わりにモスラが命をかけてゴジラを食い止める」と言い残す。
 遂にゴジラが上陸した。その進路上には機龍が設置されている八王子駐屯地がある。機龍はゴジラを倒すための人類最後の武器のはずだが、同時にゴジラを呼ぶ危険な存在でもあるのか? 義人は苦悩する……。

 ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS

 うわあ、本作は前作『ゴジラ×メカゴジラ』の直接の続編になるのだが、前作はけっこうよいと思ったのに、なぜ急にここまで落ちるのか。
 一番、感じるのは、やはりモスラと小美人の存在なのだよな。彼女たちに罪はないのだが、基本的に彼女たちはファンタジー世界の住人なのだ。もう理屈は関係なく、何でもありの世界。大切なのは世界観そのものの魅力であり、調和である。一方、機龍の存在は(あくまで個人的な見解だが)ハードSFである。荒唐無稽に見えることをできるだけリアルな手法で描き、もっともらしく見せてくれることをこちらは期待している。
 その二つを融合させようとするから、虻蜂取らずになってしまう。いや、制作サイドは虻も蜂も捕ろうとは思っておらず、そもそもその両者が違うことを認識していないのかもしれない。まあ、今作では機龍も終盤に完全にファンタジー世界の住人になってしまうし確信犯なのかも。やれやれ。

 もうひとつ引っかかったのは人間ドラマの部分。前作は変に凝ることをせず、シンプルなテーマと演出が頑張っていたが、本作はこれもダメ。整備士を主人公とする設定はなかなか珍しく、出だしは悪くないかもと思ったが、いやあ、機械と心を通わせるのはメタファーとしてあってもよいけれど、リアルに実現してはいけないでしょ(上のファンタジー云々とも関係するところである)。パイロットたちとの確執もものすごく中途半端で、確執する理由もわかり合える理由も全然説得力がない。
 まあ、やりたいことはいやっというほどわかるのだが、それを演出するほどの力がないということか。

 ダメ出し、三つめ。1964年の『モスラ対ゴジラ』に対するオマージュが本編に満ちあふれているのはいいとして、そのバトルシーンをまるまるなぞっているのはいかがなものか。加えて、海中にゴジラもろとも、というのもメカギドラであったよなぁ。これらはリスペクトというよりも思考停止に近いのではないか。

 そんな感想をもったのも管理人だけではなかったのだろう。興行成績はなんとシリーズのワースト4位という成績だった。新しいファンも古いファンも離れるという結果を招き、挙げ句に次作がシリーズ最終作となることも決定したのだから、何とも罪作りな一作ではあった。


手塚昌明『ゴジラ×メカゴジラ』

 東宝特撮映画DVDコレクションもいよいよ佳境である。本日は2002年に公開された手塚昌明監督による『ゴジラ×メカゴジラ』を視聴。ゴジラシリーズとしては二十六作目、ミレニアムゴジラシリーズとしては四作目にあたる。

 1999年、台風と共に上陸した巨大生物。それは1954年に日本を襲ったゴジラと同種の生物と確認された。対特殊生物自衛隊=通称「特生自衛隊」はゴジラを迎撃するもまったく勝ち目はなく、その最中に家城茜隊員はメーサー殺獣光線車を仲間の車両に激突させ、結果的に命を奪ってしまう。やがてゴジラは去ったが、家城茜は責任を問われて資料課へ転属となる。
 一方、政府は館山沖から初代ゴジラの骨を引き上げることに成功、その骨格をもとに四年の月日をかけ、機龍=メカゴジラを完成させた。資料課へ転属しながらもトレーニングを欠かさなかった家城茜もまた、機龍のオペレーターとして現場に復帰する。そして機龍の発表があったそのとき、ゴジラが東京湾に姿を現した……。

 ゴジラ×メカゴジラ

 メカゴジラが登場するとシリーズ終焉が近いというジンクスがあるゴジラ映画。ミレニアムゴジラシリーズもその例外ではないが、メカゴジラ自体の人気は高い。結局はシリーズが続いて飽きられ始めたとき、てこ入れの意味でメカゴジラが投入されるという理屈なわけで、メカゴジラにとっては不本意な起用法ではなかろうか。

 まあ、それはさておき、本作ではゴジラの影が非常に薄い。逆にいうと人間側のドラマやメカゴジラの設定がけっこう充実していることの証しでもある。
 孤独な人生を送ってきた家城茜という女性隊員。その茜が仕事で失敗して心の傷を負い、そこから立ち直る姿が描かれるわけだが、チーム内での確執とか子供との触れあいとか定番ではあるけれども意外なくらいしっかりした展開で、それを釈由美子がこれまた予想以上にしっかり演じているのが好印象。
 メカゴジラにしても、事の起こりからじっくり開発の話なども含めて見せていくのはありそうでないパターン。ゴジラの骨からメカゴジラができるのか、という突っ込みはわかるが、いやこれぐらいなら許そうや。
 実はドラマだけではなく、特撮などもひとつひとつの演出がなかなかいい。合成もこの時期のシリーズの中では粗が見えにくいほうだし、怪獣同士のバトルも武器系だけでなく格闘をちゃんとやっているのも評価できる。

 実はひとつだけ大きな不満があって、それはゴジラのメタファーである核や戦争の部分が完璧なまでに触れられていないということ。
 上でも書いたが、本作はゴジラの影が薄い。メカゴジラと人間側のドラマばかりが全面に出てしまい、ゴジラにスポットがあたっていないのである。つまり本作におけるゴジラの存在はただの怪獣にすぎず、これはゴジラ映画として致命的欠陥ともいえる。ゴジラはやはり絶対的な恐怖の存在でなければならないのだと再認識した次第。
 ただ、エンターテインメントとしての出来は正直悪くないから困る。認めたくないけどしょうがないか、という気持ち(苦笑)。


エマ・レイサン『死の信託』(論創海外ミステリ)

 エマ・レイサンの『死の信託』を読む。経済本格ミステリの先駆者といわれるレイサンのデビュー作で、銀行の副頭取ジョン・パトナム・サッチャーを主人公とするシリーズの第一作目でもある。
 同じ著者の『死の会計』も論創海外ミステリに入っていて、そちらを先に読んでいるが、シルヴァー・ダガー賞を受賞した割にはなんとも退屈な印象しか残らなかった。当時の感想も我ながらきついものがあるが、デビュー作にあたる本作は果たしてどうか?

 かつてシュナイダー一族によって設けられた信託預金。シュナイダーの子供たちが全員死んだ後、孫たちに支払われることになっていたが、いよいよそのときが近づいてきた。だが受取人の一人、ロバートが十年以上も音信不通になっており、その生死が相続金に大きく影響するとあって、他の親族たちは気が気ではない。
 信託預金を扱うスローン・ギャランティー信託銀行では、親族に請われて調査を開始。副頭取ジョン・パトナム・サッチャー自ら先頭に立つが、入ってくるのは一族の勝手な思惑ばかり。やがてロバートが殺害されていたというニュースが飛び込んでくるにいたり……。

 死の信託

 意外や意外、シルヴァー・ダガー受賞の『死の会計』よりは読ませる。殺人事件の動機がかなり明白であり、登場人物たちは怪しい者ばかり。そこを素人探偵ながら、長年の金融業界での経験や知識をもとに切り込んでいくスタイルは悪くない。副頭取のサッチャーが若手社員や秘書、ボーイらを率いて調査を進める様は、さながら弁護士事務所や探偵事務所を連想させるし、彼らのやりとり自体もユーモラスで楽しい。
 本格ミステリとしても体裁はきちんと整えているし、怪しい登場人物ばかりのなか、アリバイ崩しなどを中心に工夫を凝らし、ラストでサプライズを持ってくる点は評価できるだろう。少なくとも『死の会計』よりはだいぶいい。

 ただ、あまり本筋とは関係ない話だが、この本の帯の惹句にもある〈経済本格ミステリ〉という形容は、変な先入観や誤解を与えて、かえってマイナスではなかろうか。
 そもそも中身がそれほど「経済」しているわけではない。単に主人公や事件関係者が経済畑ということだけであり、信託にしてもよくある遺言状ネタの変型に過ぎない。あくまで「経済」部分は味つけであり、要はグルメミステリーとか旅情ミステリーとかいうのと同じ程度の意味合いしかないのである。「経済」がもつ固いイメージは希薄で、むしろ味わいだけでいえばコージーとかのそれに近い。
 まあ、「経済」というキーワードが読者に向けて強い引きになるのならいいのだが、あまり経済ミステリーが売れたという話も聞かないし。それなら普通にユーモアの部分を押し出したり、チーム・スローン・ギャランティーみたいな観点で紹介してもよかったのではないかなぁ。


山田風太郎『山田風太郎少年小説コレクション2 神変不知火城』(論創社)

 本日の読了本は『山田風太郎少年小説コレクション2 神変不知火城』。先に発売された1巻『夜光珠の怪盗』が現代ものだったのに対し、本書は時代ものがメインである。

 山田風太郎少年小説コレクション2神変不知火城

「七分間の天国」
「誰が犯人か 窓の紅文字の巻」
「誰が犯人か 殺人病院」
「毒虫党御用心」
「地雷火童子」
「神変不知火城」

 上から三作までが現代もの。その中では単行本初収録となる青春探偵団シリーズ「七分間の天国」が目玉か。内容もさることながら、当時のキャバレーの風俗などが描かれており、タイトルの「七分間の天国」もこれに由来する。よく、これを学生誌に書いたなというのが一番の感想(苦笑)。あとは軽めの推理クイズを二編収録。

 時代もののトップバッターは「毒虫党御用心」。意外なことにこれも推理クイズである。まったく予備知識がなかった状態で読んでいたため、ラストで突然問題が出されたから、ネタそのものよりそちらの方に驚いてしまった。時代小説の推理クイズなんて記憶にないよなぁ。
 ただ、このストーリー展開からこういう出題はない。とってつけたような感じで、バランスの悪さが気になった。

 「地雷火童子」は正統派の少年向け時代小説。地雷火を積んで江戸を目指す一行の、追いつ追われつの物語である。少年誌連載ということもあって、とにかくヤマ場の連続。活劇部分はもちろん楽しいが、地雷火をどうやって運んでいるのかといったミステリ的興味など、シリーズ全体を貫く仕掛けも悪くない。

 表題作の「神変不知火城」は本書のイチ押しである。切支丹を救わんとする天草四郎に森宗意軒、これに対するは由比正雪、そこへ真田幸村や猿飛佐助なども加わって、豪華布陣で展開される一大絵巻である。比較的オーソドックスな「地雷火童子」と違って妖術あり忍術ありの伝奇小説的スタイル。
 当然ながら後の『魔界転生』を彷彿とさせるが、さすがにジュヴナイルなので、大人向けほどの奇想エログロ爆発とまではいかない。ただしテンポの早さなどは大人向けをも凌ぐほどで、やはりファンなら押さえておきたい一篇だろう。

 なお、管理人などは非常に喜んで読んでいるが、冷静に考えるとこんなにバカらしい読み物はないわけで、健全な読書家にはお勧めしたものかどうか迷うところではあるな(笑)。


ルーパート・ペニー『警官の証言』(論創海外ミステリ)

 ちょっと仕事のバタバタとオリンピックで滞っていた読書も少しずつ上向きに。本日の読了本は論創海外ミステリからルーパート・ペニーの『警官の証言』。

 雑誌の副編集長アントニー・パードンは、知人のアデア少佐の屋敷に滞在していた。その目的はなんと宝探し。アデア少佐は競売会で競り落とした一冊の古書から、ある屋敷に財宝が隠されていることを知り、その屋敷を買い取って財宝を探し出すことにしたのだ。宝探しのメンバーが集められ、やがて財宝の一部と思われるルビーが発見されたが、まもなく少佐が密室で殺害された……。

 警官の証言

 著者のルーパート・ペニーはほとんど日本で知られていない作家だろう。以前、国書刊行会から世界探偵小説全集の一冊として『甘い毒』が刊行されたが、刊行されたことは話題になっても内容自体はそれほど評判にならなかったと記憶する。
 『甘い毒』もそうだったが、本書の特徴も——つまりはルーパート・ペニーの作風と言うことになるのだろうが——論理性へのこだわりだろう。基本的に関係者への聞き込みや捜査陣の推理や議論で物語が進み、<読者への挑戦>や手がかりの一覧など、実に本格愛に満ちあふれた内容。この徹底した論理への傾倒が、ガチガチの本格好きには堪えられないのだろうが、ストーリー的には地味すぎて、もう少し動きやサプライズはあってもいいだろう。それが『甘い毒』の評価にはともかく話題性には少なからず影響したはずである。
 ただ、著者もそういう自作の長所短所は自覚していたのかだろう。本作でも事件は非常に地味ながら、密室や暗号といった魅力的要素は盛り込んでいるし、物語の一部と二部で語り手を交代させ、それが密室トリックにもつながる技を披露するところなどはさすがである。練りに練った、というのはこういうのを言うのだろう。
 そこはかとないユーモアも味つけになっており、全体的には上質なミステリである。

 欲をいえば、上でも書いたが事件自体の魅力であったり、物語の動きであったり、もう少し読ませる工夫は欲しかったところだ。探偵役ピール主任警部の個性も弱く、全体的に真面目すぎるか。
 例えばカーのようなアクの強さ、バークリーのような意地の悪さがあればなお良かったし、もっと翻訳が進んでいたのではなかろうか。


ネイサン・ジュラン『地球へ2千万マイル』

 本日もレイ・ハリーハウゼン縛りで『地球へ2千万マイル』を鑑賞。監督はネイサン・ジュランで、ハリーハウゼンは特撮と原案に関与している。ハリーハウゼンの代表作として有名だが、残念なことに日本公開はされず(本国では1957年公開)、ビデオ発売がされるまでは永らく名のみ知られる作品だった。

 金星探査から帰ってきたロケットがイタリア沖に不時着した。ほとんどのクルーが命を落とす中、指揮官の大佐と科学者だけが漁師たちに救助される。その騒ぎの最中、地元の少年が海岸で不思議な壜を入手する。中には卵らしきものが入っていたが、少年は小遣いほしさにそれを獣医に売り、やがて中からは隊長20cmほどの奇妙な生物が孵化した。
 実はその生物は、金星という過酷な環境で生きていられる秘密を調査するため、金星探査隊が持ち帰ったものであった。しかし、地球と金星の環境の違いから生物は急速に成長し、巨大化を遂げる。米軍はイタリア政府の強力のもと、いったんは捕獲に成功したものの、生物は再び逃げ出し、ローマの町を恐怖に陥れる……。

 地球へ2千万マイル

 おお、これはまた噂どおりしっかりした出来映えではありませんか。ゴリラとワニを合わせたような金星竜イーマの描写がまずいい。今ではCGで何でもできるだろうが、当時のコマ撮りという技術で、ここまでイーマの細かな仕草を表現できるのかという驚き。眩しくて手で顔をおおうとか、威嚇、痛みの表現など、正に人形に魂が吹き込まれている感じである。クライマックス近くの象との対決シーンもお見事。
 イーマの描写が優れていることで、テーマがしっかり強調されるのもよい。イーマそのものは自ら暴れ回るわけではなく、人間はおろか仔羊すら襲わない(なんせ主食は硫黄である)。それを人間たちの勝手な都合で捕獲しようとするから、イーマは抵抗するしかないのである。
 生きる時代と場所を間違えた生物の悲劇。要するに本作は、ハリーハウゼンの『キングコング』へのオマージュでもあるのだ。

 個人的に、怪獣映画は怪獣が登場するまでが肝心であり、平行して語られる人間ドラマが重要だと思っているのだが、そちらはまずまずといったところ。イーマの処理をめぐって米政府とイタリア政府の意見が衝突する展開など、見るべきところもあるのだが、恋愛要素はかなり余計だなぁ。舞台のせいもあって、出来の悪い『ローマの休日』かと(苦笑)。
 本作はやはり特撮がすべて。その特撮をたっぷりと味わう映画であろう。


ドン・チャフィ『アルゴ探検隊の大冒険』

 オリンピックの楽しみのひとつに、普段あまり見ることのない競技も観戦できる、ということがある。管理人などはスポーツ観戦がかなり好きな方で、普段からテレビ中継などがあれば興味のないスポーツでもけっこうダラダラと見てしまうことが多い。競技であるからには基本的に「競う」ことが前提にあるわけで、その競い方が各スポーツごとに特色があって面白いわけである。これはゲームなどと通じる部分でもある。
 加えて、人間技とは思えない、その鍛え抜かれた技術やパワーを見るのも単純に惹きつけられる。もちろん国際大会やオリンピックなどでは、日本が頑張れば素直に嬉しい。
 オリンピックを楽しんでいる人に対し、普段は興味ないくせにとか俄ファンとか、たまに批判めいたことをいう人がいるが、あれは何なんだろう。スポーツの本質をわかってないどころか、物事の楽しみ方すらわからないんだろうな。



 というような枕とはまったく関係なく、本日はDVDでドン・チャフィ監督の『アルゴ探検隊の大冒険』を視聴する。公開は1963年。特撮の巨匠レイ・ハリーハウゼンが絡んでおり、今では古典と言ってもいいだろう。管理人が子供の頃はテレビでしょっちゅう再放送していた作品である。

 ストーリーはギリシャ神話で有名なアルゴナウタイの冒険を映画化したもの。古代テッサリアの王子ジェイソンは、奪われた父の王国を取り戻すため、女神ヘラの助力を得て、神の贈り物といわれる「黄金の羊の毛皮」を手に入れようとする。目的地コルテスを目指し、ジェイソンは勇者を募って帆船「アルゴ号」で航海に出るが、その前には様々な困難が……。

 アルゴ探検隊の大冒険

 物語そのものは「黄金の羊の毛皮」を入手したところでハッピーエンド。おいおい、父の国を取り戻すという使命はどうなったんだというツッコミはごもっともだが、正直この映画にストーリーはどうでもよい(笑)。本作にはハリーハウゼン特撮のエッセンスが詰まっており、それがすべてでの映画なのだ。日本の特撮で用いられる着ぐるみによる手法とは異なり、ハリーハウゼンのそれはコマ撮りという、これまた独自の世界で表現される。
 CGの発達によって今ではすたれつつあるこの技術だが、コマ撮りのカクカクした動きが逆に本作ではいい味を出しており、とりわけ青銅の巨人テイロスや骸骨剣士の動きには非常にマッチしているから面白い。また、それに合わせた役者の動きも実に自然で恐れ入る。

 実際のギリシャ神話との異同がゴロゴロ出てくるので、原典に詳しい人はちょっとイライラするかもしれないが、それもご愛嬌。ハリーハウゼンはあくまで商業用娯楽作品を目指していたのであり、冒険ファンタジー作品として見事に結実している。特撮ファンならずとも一度は観ておいて損はない。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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