ご存じの方も多いと思うが、翻訳ミステリも多く出していた出版社の武田ランダムハウスジャパンが倒産した。
個人的にはヴィカス・スワラップの『
ぼくと1ルピーの神様』、ジェラルディン・ブルックス『
古書の来歴』、スチュアート・ネヴィル『
ベルファストの12人の亡霊』あたりが印象に残っているが、コージーにも力を入れていたし、ミステリー以外では芸能人関係の本も多く手掛けるなど、積極的な展開をしている印象があっただけに、実にわからないものである。
もともとはランダムハウスと講談社が提携してできた出版社だった。しかし売上げ不振からランダムハウスが手を引く形でわずか七年で提携打ち切りとなり、社長の武田雄二氏が引き継いで再スタート。最盛期は十二億円ほどの売上げだったというが、近年は三億円程度だったというからこれは苦しかろう。昨年の夏頃にあった『アインシュタイン その生涯と宇宙』の翻訳ミスによる回収事件がきっかけとなった可能性もあるのだろうか。
暗い話はこのくらいにして、本日の読了本の話でも。
といっても連日の忘年会モードで午前様が続き、ひどい睡眠不足もあって完全に読書は沈滞である。電車と就寝前がメインの読書時間の管理人にとってこれは辛い。何とかこの三連休で少し回復したいものではあるが、本日もとりあえず軽いもので。
軽いものといっても中身は充実。画集『夢隠蛇丸 佐伯俊男作品控』である(ちなみに読みは「ゆめがくれへびまる」)。
佐伯俊男の名前を知らずとも、その作品は多くの小説好きが目にしているはず。佐伯俊男とはかつて角川文庫の山田風太郎のカバー絵を一手に描いていた、あの絵師のこと。本書はその山風のカバー絵を中心にまとめられた作品集である。
実は刊行されてからすでに二年ほど経っているのだが、こんな本が出ていたことすらまったく知らず、先週、仕事場近くにある三省堂古書館でたまたま見つけたものだ。

ま、それはともかく。
佐伯俊男の絵は実にいい。この表紙絵でもわかるように、基本はエログロテイストである。実際、SM雑誌などでも多く掲載されていたわけだが、ポップな色遣いとどことなくユーモラスな構図によって単なるエログロを越え、非常に独特かつ魅力的な世界を創り出している。
逆説的ではあるが、カラッとした淫靡さともいうべきものがそこにあり、これがまた山風の世界とよく似合う。この表紙だけでも旧角川の山風を集める価値があるほどで、佐伯俊男を山風のカバーに起用しようと思いついた当時の編集者は実にえらい。
それにしても山風だけでなく、横溝正史に夢野久作、江戸川乱歩……当時の角川文庫は素晴らしいカバーが多かったなぁ。