東京は大雪。本日、仕事の方にはご苦労様だが、こちらは休みで助かった。といっても夜まで降り続けるみたいだから、明日の電車が心配だ。久しぶりに雪かきをしたから、ついでに筋肉痛も心配である。やれやれ。
本日の読了本はドナルド・A・スタンウッドの『エヴァ・ライカーの記憶』。かつて文藝春秋で出たものをあらためて創元推理文庫が復刊したもの(といっても既に四年ほど経ったけれど)。まずはストーリーから。
ハワイの若き警官ノーマン・ホールは、タイタニック沈没事件の生き残りだという老夫婦が起こした交通事故に駆り出された。夫はすでに死亡していたが、残された夫人はこれが殺人事件であると訴える。しかしノーマンはそれを深刻に受け止めず、ほどなくして夫人もまた殺害されたことで、自責の念にかられたノーマンは警察を辞職することになった。
それから二十年あまりが過ぎた。ノーマンはさまざまな職を経て、やがて作家として成功した。そんなある日、彼のもとに米財界の大物ウィリアム・ライカーが計画しているタイタニック引き揚げ事業の特集記事の仕事が舞い込む。取材を始めたノーマンだが、その仕事に何かきな臭いものを感じ始め……。

噂どおり、スケールの大きいエンターテインメント。
タイタニック沈没という歴史上の大事件の陰で実はこんなドラマが繰り広げられていた、というパターンは別に目新しいものではないけれど、これにノーマンが警官時代に体験した殺人事件やリアルタイムで発生している殺人事件が絡み、実に緻密な物語が織り込まれている。取材を進めるノーマンに降りかかる事件が、いつしかタイタニックで起きた事件に連なり、それが若きノーマンの体験した事件にも関連があって、少しずつ事件の構図が浮かび上がってくるという結構の鮮やかさがとにかく印象的だ。
帯のキャッチにもある「異色の本格ミステリ」というのはどうかと思うけれど、魅力的な謎を含んだ壮大な冒険小説といえるだろう。
構成も挑戦的である。現代と過去に大きく二部された構成は、バランスとしてどうなんだろうという思いも当初はあったが、単なるサスペンスで終わらせたくないという作者の気持ちが伝わる部分でもあり、これはこれで良しとすべきだろう。極端にいえば、現代編と過去編を別々の物語として読んでも成立するぐらい、内容は充実している。
欠点を挙げるとすれば、主人公ノーマンのキャラクター設定が軽すぎるところか。警官時代に犯した失策のため、大きなトラウマを抱えているはずの彼だが、ずいぶん軽口も叩くし、自己中心的だし、皮肉屋でもある。
なんせ失策としてはかなり最低の部類。おまえ、どんだけ簡単に克服してるんだよ本当に反省してんの?と言いたくなるわけで、ここはもう少し過去を引きずったキャラクターにすべきだったろう。せっかくの重い事件の数々が、この主人公の言動のため常にB級っぽいテイストになってしまい、ああ面白かった程度で終わるのが非常にもったいない。
しかしながら、せっかく復刊されたこの一冊。お話としては非常によくできているので、再び品切れとなる前に皆様もぜびお試しを。ただ、Amazonで見たらもう品切れっぽい……。