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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

山田風太郎『忍法相伝73』(戎光祥出版)

 昨日は仕事納め。会社の納会からクライアントさんの謝恩会へと移り、あとは新宿で三軒目、四件目、五件目まで飲み歩く。そしてトドメにラーメンを食って帰宅。
 あけて本日は自宅の大掃除。風呂掃除、窓掃除へと昼の二時頃までは頑張ったが、前日の飲みが祟って途中からダウンして爆睡。ううむ、残りは明日だ。


 もう二冊が刊行されて話題にもなっているので、ご存じの方も多いだろうが、今年の夏に戎光祥出版から新しい探偵小説の企画がスタートした。
 その名も「ミステリ珍本全集」。
 数多の探偵小説の中から、いわゆる名作の類ではなく、飛び抜けた怪作や珍作ばかりを集めてしまおうという無謀な企画である(笑)。ただし、無謀とはいえ編者はあの日下三蔵氏。そのラインナップはかなりの期待がもてるところだが(実際、既に発売・発表されているのはとんでもないレア本ばかりである)、問題は本当に採算がとれるのかということだろう。
 真っ当な探偵小説全集ならまだしも、横溝クラスの大物を採り入れた「論創ミステリ叢書」だって、なかなか大変だと漏れ伝え聞く。ましてや「ミステリ珍本全集」にはマニアだって知らない名前も多いようで、ううむ、とにかく中断しないことを祈るばかりである。
 管理人もとりあえず出るものはすべて買う所存であります。

 そんな「ミステリ珍本全集」の第一巻が本日の読了本。山田風太郎の『忍法相伝73』である。
 おいおい珍本といっておきながら、いきなり風太郎かよとのたまうなかれ。マニアの方々には言うまでもないことだが、本書は山田風太郎完全読破を目指す者にとって、最大の難関なのである。
 なんせ風太郎自身が自作をランク付けした際、ABCの三段階評価だったにもかかわらず(なかにはDやEもいくつかあったのだが)、ダントツのPランクを付けたいわく付きの作品。自ら再刊・文庫化を封印したほどの大駄作として知られる作品なのである。
 おかげで古書価は跳ね上がり、幻化に一層の拍車がかかったわけだが、これを一巻目に持ってくるのがさすが日下氏である。おまけに単行本未収録の短編九作も収録。あくまでマニア向けの全集ではありながら、より幅広い購買層が期待できる山風の作品をまず最初にぶちこむことで今後につなげようという狙い。やりますなぁ。

 忍法相伝73

 前置きがやたらに長くなったが、『忍法相伝73』である。収録作は以下のとおり。

『忍法相伝73』
「乳房」
「接吻反射」
「袈裟ぎり写真」
「黄泉だより」
「完全殺人者」
「初恋の美少女」
「馬鹿にならぬ殺人」
「武蔵野幻談」
「魅入る」
「忍法相伝64」

 『忍法相伝73』は忍法帖で唯一の現代ものである。主人公は小さな運送会社に勤める平凡なサラリーマン伊賀大馬。実は伊賀忍者の末裔であり、ご先祖の伊賀風忍斎が遺した忍法帳を手に、変人松中教授、美女鳥羽壺子と共にその忍法を駆使していく……といったストーリー。

 とにかく著者封印ということで、どれだけ駄作なんだろうと思っていたが、まあ確かにひどいはひどい(苦笑)。大きいストーリーがあるわけではなく、お馬鹿な忍法によって繰り広げられるドタバタ劇の積み重ねである。解説ではこれを忍法帖の現代版と読むのではなく、セックスをテーマとしたユーモア小説の忍法版とみた方が適切だろうと書いてあるが、確かにそのとおり。いや、むしろセルフパロディとみる方が適切なのではというくらい、著者が遊びに遊んでいる。だからギャグやユーモアのひとつひとつは正直くだらないものが多くて、著者自らが駄作という理由の多くもこの辺りにあるのだろう。

 ただ、全体の構成は悪くないし、話の筋そのものは面白い。ドタバタを通して炙り出される社会風刺や人間観もおよそ五十年前に書かれた作品とは思えないほど普遍的だ。まあ、もともと人間の愚かさとか本能的な部分を書かせると巧い人なのだが、この手の作品ではそういうところがより際だってマッチしているように思える。
 というわけで客観的にみても(ギャグの部分さえ気にしなければ)駄作はやはり言い過ぎだろう。下ネタやギャグが詰め込まれているので読む人は選ぶだろうが、山風ファンならやはり一度は我慢して(笑)読んでおくべきだ。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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