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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 05 2014

村上春樹『女のいない男たち』(文藝春秋)

 村上春樹の『女のいない男たち』を読む。なんと九年ぶりの短編集ということだが、長年、著者の作品を読んでいる者からすると、何年ぶりの作品であろうが、あまりそんなことは関係ない。ここ最近の村上春樹の作品に関していうと、良い意味でも悪い意味でも予想を裏切られることはまったくないからである。
 それは読者にとって幸せなことでもあるし、同時に不幸せなことでもあるといえるだろう。少なくとも『羊をめぐる冒険』や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の頃のようなゾクゾクする感じはここ何年もほぼ味わっていないわけだが、だからといってそこまでガッカリすることもなく、相変わらずの語りを楽しんでいるところも少なくはない。

 女のいない男たち

 そこで本書である。著者自ら「まえがき」に記しているとおり、本書に収められている作品は、”恋人や妻から捨てられた、あるいは裏切られた男たち”というテーマにそって書かれている。
 ただ、テーマが明確にされていることで、何かこれまでと違った展望があるのかというとそんなことはなくて、むしろこれまでの作品とまったく変わり映えはしない印象である。
 そりゃそうだろう。愛した女性を失うことで男は本当は何を失ったのか、あるいは何を得たのか。これはこれまで著者が繰り返しアプローチしてきた「喪失と再生」というテーマにも十分に通じるものであって、その形をいろいろなバリエーションで見せているに過ぎないからである。

 念のため書いておくと、管理人などはその語り口は決して嫌いではないし、幻想小説やハードボイルドなどのスタイルを取り込む技術などはうまいものだと思う。ただハルキワールドの場合、人工的な部分は楽しめるが、リアルになればなるほど逆に嘘くささが鼻についてしまう。
 だから「ドライブ・マイ・カー」や「イエスタデイ」のような日常を舞台にした「喪失と再生」をハルキ流に演出してもらっても空虚な印象しか残らないのである。
 逆に「シェエラザード」と「木野」は長篇のさわりのような内容だが、物語の可能性が感じられる分、まだ期待が持てる。上で挙げた二作とはそもそも漂う緊張感が違う。願わくば「木野」を中心にしてこの世界観を広げた長篇化なども期待したいところだが、とにかく望みたいのは村上春樹の文学的冒険なのである。

 著者自ら短篇はあまり、と書いているぐらいだが、もともと村上春樹は持ち球が多い作家ではない。それならそれで、とびきり変化する決め球をもっともっと極めてほしい。まだまだ老け込む年ではないはずだから。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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