DVDで『007 美しき獲物たち』を視聴。1985年に公開された007シリーズの第十四作。三代目ジェームズ・ボンドのロジャー・ムーアはこの作品をもって007を卒業した。
シベリアの雪山で英国諜報部員003の遺体を発見した007ことジェームズ・ボンド。ソ連の追っ手を振り切って、遺体から半導体チップを回収することに成功する。
調査の結果、ソ連国内にあったこのマイクロチップは、核爆発で発生する強力な磁気にも対抗できるものであることが判明。Mはボンドに製造元のゾーリン産業を調査するよう命じるが……。

シリーズ最多の七作出演を誇るロジャー・ムーアだが、それもこれも出演作が興行的な成功を収めたからに他ならない。その彼が有終の美を飾るということで、監督ジョン・グレンはシリーズの集大成とすべく、過去作品のオマージュのような形に仕上げた。
冒頭のスキーアクションをはじめ、カースタントに空中スタント、ラストの敵秘密基地と定番は全部詰め込んだかのような気合いの入れよう。勢い余ったかストーリーまで『ゴールドフィンガー』の焼き直しと言われるが、このシリーズに限ってはそれも含めてオマージュでいいじゃないかと(笑)。
ただ、その結果、尺が長すぎというか、展開が冗長な印象を受けるのはいただけない。
ボンド・ガールはタニア・ロバーツ。悪くはないのだけれど、本作では悪役としてグレース・ジョーンズが出演しており、彼女が相手ではさすがに分が悪い。
とにかくグレース・ジョーンズの存在感は圧倒的。この頃はまだ女優としてのキャリアは浅かったはずだが、ヒロインとしても悪役としても単なる添え物で終わらず、おいしいところをもっていく。
さらにボス敵を演じるクリストファー・ウォーケンがいい。感情を持たないステロイド児という設定を最大限に活かし、絶妙な壊れ方を演じてみせる。
本作はこの二人の悪役が活きているからこそ成功したといっても過言ではない。ムーアもこれが最終作ということで頑張ってはいるのだが、肝心なところは全部スタントだし、やはり年齢による限界は隠しようもない。まさに潮時だったのだろう。
全体的にコレというものがないだけに、シリーズ中でもそれほど評価は高くないけれど、見せ場もそれなりにあるし、悪役は魅力的。エンタメとしてはまずまず楽しめる作品でありました。