DVDでサーシャ・ガヴァシ監督による『ヒッチコック』を観る。日本では昨年公開されたばかりなので、まだ記憶に新しいところ(ちなみに本国アメリカでは一昨年の2012年公開)。

内容はタイトルどおり、サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックを描いた伝記的映画。ただし生涯すべてを描いているわけではない。既に名誉も冨も手にしたヒッチコックが、名作『サイコ』をいかにして撮ったかという、『サイコ』のメイキング的な作品である。
このときヒッチコック監督は堂々の六十歳オーバー。だが映画を撮る情熱はいささかも衰えず、当時の厳しい映倫とのやりとりなどを初めとして、撮影の舞台裏を垣間見せてくれるのが楽しい。
ただし、実は本作の胆は撮影秘話ではなく、ヒッチコックを支えた妻アルマとの人間ドラマだ。
長年ヒッチコックをサポートしてきたアルマが、友人に持ちかけられてシナリオ執筆に着手する。久々のクリエイターとしての仕事に生き甲斐を取り戻すアルマだが、それを浮気と誤解して悶々とするヒッチコック。『サイコ』の前評判が低迷する中、二人の関係は最悪を迎えるが……という展開である。
ただし、残念ながらこの人間ドラマが意外に薄っぺらい。退屈はしないけれどもそれほどの盛り上がりもなく、例えばアルマの積年の葛藤がもっと序盤から表現されていればまた印象も変わるのだが、単なる痴話喧嘩レベルに見えてしまうのが残念だ。
アンソニー・ホプキンス演じるヒッチコックの再現度、『サイコ』の裏話など見るべきところもそれなりにあるが、結局、メインテーマの掘り下げが浅いので、全体的な印象はちょっと弱い。
題材が題材だけにもう少し気合いを入れて撮ってほしかった。何とももったいない。