毎回、意欲的な企画でレア作品を復刻してくれている盛林堂ミステリアス文庫だが、今回の配本はなんと小説ではなく、戦後に人気を集めた少年少女向け探偵小説の資料集である。
名付けて『偕成社ジュニア探偵小説資料集』。編著者は森英俊、野村宏平のお二方。
これらの情報から思い出されるのが、かつて平凡社から出た
『少年少女 昭和ミステリ美術館』だろう。こちらは"美術館"と銘打っているとおり、書影を見せることに主眼が置かれていたようで、その内容に十分満足はしているものの、本や絵師さんについての解説が少ないという不満があった。
それは作り手の方々も同様だったようで、本書ではそんな心残りを解消すべく、少年少女向け探偵小説の中身もたっぷりと触れながら紹介しようという試みらしい。

さて、かくいう管理人も探偵小説の入り口は偕成社やポプラ社の少年少女向け探偵小説であった。本書に掲載されている本のなかにはリアルタイムで読んだものもいくつかあり、まずは懐かしさが先に立つ。
そういうときに思い出されるのが、名探偵や怪人といった魅力的で怪しげな登場人物、そして破天荒なストーリーだ。ただ、さすがに年を経た今となってはそのままの楽しみ方はできない。これらの小説は面白さ優先で細かいところは無視するから、大抵の場合は突っ込みどころも満載。先に挙げた魅力とこれらの突っ込みどころが混沌としているからこそ、実は少年少女向け探偵小説は今読むと面白いのである。
しかし、本書の「あとがき」によるとそんな混沌の中にも、後に通じる発見があったりするようで、ううむ、このジャンルも奥が深い。
本書ではそんな魅力的な探偵小説が山のように紹介されている(しかも偕成社の分だけだというのに)。読もうと思ったら、古書か図書館に頼るしかない今、こういう形で全貌が少しずつ明らかになっていくのは実にありがたい。
値段は少々高いが、この内容、掛けた時間や手間、少部数というところまで考えれば、これは致し方ないところだろう。あくまでマニア、好事家限定商品ではあるが、興味ある方はぜひどうぞ。