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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

マイクル・クライトン&リチャード・プレストン『マイクロワールド(下)』(早川書房)

  マイクル・クライトンの未完原稿をリチャード・プレストンが二年がかりで完成させた『マイクロワールド』を読了。
 ベンチャー企業の陰謀に巻き込まれた生物学の院生たちが、身体を縮小されてジャングルに放たれるというのが上巻でのストーリー。下巻ではその院生たちがジャングルでの脅威に一人また一人と倒れてゆく壮絶な展開だが、思いがけない協力者たちの登場で起死回生を図る。

 マイクロワールド(下)

 完全なクライトンの作品ではないのでいろいろな不安はあったが、全体的にはまずまず楽しめた。初期や中期の傑作あたりに比べると全然だが、後期の作品と比べるならそこまで見劣りするものではない。
 科学的な知識をベースに壮大なホラ話を見せてくれるのがクライトンの得意技なので、そういう意味では人間がアリやクモ、ハチといった昆虫たちと同サイズになったとき、どのように対峙するかという興味は十分に満たしてくれたように思う。
 また、そういう状況を作り出した人間の責任、コントロールできない技術へのリスクとどう向き合うか等、これまでの作品でも再三語られてきた社会的メッセージもいつもどおりで、クライトンの精神はしっかり継承されているといえるだろう。

 ただ、上巻の記事でも触れたが、アイディアやプロットはクライトンだが、実際に原稿のほとんどを仕上げたのはプレストンになるため、最後まで読むと従来のクライトンの作品とはさすがに印象が異なった。
 解説でもプレストンとクライトンの担当箇所についていろいろと推測がされているが、大雑把に言うと、警察の捜査のパートはクライトン、物語の大半を占めるジャングルでのパートはプレストンという主張である。これはなかなか悪くない読みで、プレストンは色をつけすぎるというか、クライトンだったらここまで過剰にはしないかなというのがある。クライトンはあえて抑えることで恐怖を演出するイメージなのだ。今思いついたが、プレストンの描き方は、クライトンの小説というより、クライトンの映画化作品に近いのではないだろうか。
 他にも具体的なポイントを解説ではいろいろ挙げているので、興味のある方は現物でご確認あれ。

 ところで本作でもっとも気になったのが、下巻の前半あたりのストーリー展開。詳しくは書かないが、従来のクライトンだったら絶対ありえない展開である。
 しかしながらクライトンを尊敬するプレストンがここまでチャレンジするとは思えないので、おそらくはクライトンの意思だったのだろう。この意味だけは未だに理解できないでいるので、「こういうことなんじゃじゃないの?」と思う方あれば、ぜひご教授くだされ。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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