アルフレッド・エドガー・コッパードの短編集『郵便局と蛇』を読む。コッパードを読むのは光文社の古典新訳文庫で出た『天来の美酒/消えちゃった』以来だが、相変わらず満足度の高い読書を満喫できた。
まずは収録作。国書刊行会版の文庫化だが、ちくま文庫版には「アラベスク 鼠」がボーナス収録されている。
Silver Circus「銀色のサーカス」
The Post Office and the Serpent「郵便局と蛇」
Simple Simon「うすのろサイモン」
The Fair Young Willowy Tree「若く美しい柳」
The Field of Mustard「辛子の野原」
Polly Morgan「ポリー・モーガン」
Arabesque: The Mouse「アラベスク 鼠」(ちくま文庫版のみ収録)
The Drum「王女と太鼓」
A Little Boy Lost「幼子は迷いけり」
Marching to Zion「シオンへの行進」

生前、コッパードは誰も書いたことがない物語を書きたかったと話していたらしいが、まさしく本書に収録されている作品は、オリジナリティが極めて高いものばかりだ。一読すると、神話や民話、宗教的な寓話みたいな話が多いのだけれど、もちろんそれは表面的なスタイルの話であって、着地点はそれらの物語とはずいぶん異なっている。
また、オチが鮮やかだとか、キレがあるとかいうのとも違う。確かにこちらの予想を外してはくれるのだが、コッパードの場合、それを狙っているのではなく、自然な流れのなかで結果的にそうなったに過ぎないという印象である。だからときとしてモヤモヤばかりが残ってしまうのだが、実はそのモヤモヤが心地よかったりするわけである。
管理人などはついついそんな味わいを「奇妙な味」とまとめてしまいがちなのだが、実はこれもちょっと違う。無理やりいうなら、コッパードの作品を読むことは、コッパードの意識を読むことに等しいのだ。ときには意図が読み取りにくい作品もあったりするが、それも含めてコッパードの短編を読む楽しみといえるだろう。
どれも非常に味わい深い作品ばかりだが、あえてベストを挙げるなら、電信柱と柳の木の恋愛と人生を描いた「若く美しい柳」に一票。