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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 05 2015

野村芳太郎『配達されない三通の手紙』

 1979年に公開された野村芳太郎監督によるミステリ映画『配達されない三通の手紙』をDVDで視聴。
 原作はあのエラリイ・クイーン中期の傑作にしてライツヴィルものの第一作、『災厄の町』である。名匠、野村芳太郎がエラリイ・クイーンの傑作を映画化するということで、当時はそこそこ話題になったものだが、いかんせん今ではミステリファンでも知っている人は少ないかも。
 映画史においてもミステリ史においてもすっかり影が薄くなった『配達されない三通の手紙』だが、久々に観直しての感想となる。

 まずはストーリー。
 山口県萩市で名家として知られる唐沢家。銀行を経営する光政を筆頭に、妻のすみ江、次女の紀子、三女の恵子とともに暮らしていた。そこへ日本文化を学ぶため、アメリカへから親戚のロバートという青年がやってきた。歓迎する一家だが、次女の紀子だけは気分がすぐれない様子。彼女は三年前に婚約相手だった藤村敏行が突如失踪して以来、自宅に引きこもる毎日だったのだ。
 そんなある日、藤村が突然、萩に帰ってきた。光政は娘に与えた悲しみと家の面子を傷つけられたことから、藤村を許すつもりはなかったが、紀子可愛さから二人の結婚を認めることにする。
 だがその幸福も束の間の出来事だった。結婚翌日から現れた藤村の妹、智子、そして紀子が見つけた三通の手紙の存在が、再び唐沢家に悲劇を招くことになる……。

 配達されない三通の手紙

 ううむ、大筋では確かに『災厄の町』だが、やはり日本に舞台を置き換えたことでいろいろと無理が目立つし、演出にも疑問が残る(むしろこちらが問題なのだが)。
 いいところで言うと、やはり俳優陣の熱演に尽きる。とりわけ紀子役の栗原小巻、智子役の松坂慶子は絶品。義理の姉妹という表面的な関係に隠された因縁の凄まじさを、天下の美女が熱演している。長女麗子役の小川眞由美も出番は少ないながら存在感はさすがだ。
 エラリー・クイーン役の蟇目良はずいぶん脇役的になってしまっているが、傍観者としての立ち振る舞いがいい距離感で思ったほど悪いイメージではなかった。

 まずいところは先に書いたとおりなのだが、一番の問題はドラマ性を強調するのか本格ミステリとしていくのか、あるいは(ハードルが高いけれども)それを両立させるのかがはっきりしていないことだろう。それらが中途半端なせいかアラばかりが目立ち、結果的に豪華な二時間サスペンスドラマのような効果しか生んでいないのである。
 具体例を挙げていくときりがないのだが、ミステリとしては、妹の存在を結婚相手に教えないとか、警察がヒ素の入手経路を調べないとか、被害者の身元も調べないとか、基本的なことを疎かにしているのはお粗末。また、推理の道筋をきちんと説明する場面が意外にさらっと流されているのは残念。探偵役が原作ほどには固定されていないこともあるのか、特にラストの事件を総括するシーンは物足りない。
 ドラマとしても恵子のロバートの関係性をまったく無視していることとか、智子の存在についての説明不足とか、後半に登場する記者の意義についての説明不足とかが非常に残念。原作『災厄の町』についてはかなり忘れたところも多いのであまり断言できないのだが、人間心理や宗教、共同体と個の関係などといったところが重点的に描写されていたはずで、だからこそ傑作たり得たはず。これをほぼ三人の愛憎の問題だけに絞ったところが、本作最大のマイナス要因となるのだろう。二時間サスペンスドラマと呼ばれるのもむべなるかな。

 クイーン原作とか野村芳太郎のミステリ映画とかの先入観なしに、できれば過度な期待を抱かず観れば、それなりには楽しめる一作である。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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