Posted in 08 2015
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横田順彌『近代日本奇想小説史 入門篇』(ピラールプレス)
横田順彌の『近代日本奇想小説史 入門篇』を読む。
本業はSF作家ながら、今ではすっかり明治文化や古典SF研究家としてのイメージが強くなった感のある横田順彌氏。本書も正しくその方面の一冊である。正統派の近代日本文学史には決して登場しない大衆小説、その中でもひときわ異彩を放つSF小説や奇想小説の数々にスポットを当て、その歴史や作品の内容に踏み込んでいく。
実は本書の前に、著者はすでに同じ内容の『近代日本奇想小説史 明治篇』という大著を上梓している。なんと日本SF大賞特別賞、大衆文学研究賞、日本推理作家協会賞を総なめにしたSFファン必携ともいえる恐るべき一冊なのだが、いかんせんボリュームや価格も恐るべきレベルとなってしまった。著者や版元もその点は気にしていたようで、それならお試し版はどうだろうという位置づけで生まれたのが本書らしい。タイトルに「入門書」とある所以である。
ただし、お試し版とはいえ、『~明治篇』を単に抜粋しただけとか、平易にまとめ直したという本ではない。著者がさまざまな雑誌等に発表した『近代日本奇想小説史』に関係する文章を収録したもので、重複はまったくない。また、『~明治篇』があくまで明治に絞って時間軸でまとめているのに対し、『~入門篇』はテーマ別に編まれており、時代も明治に限定せず戦後作品も扱っているという按配。つまり『~明治篇』を既に持っている人も楽しめるということらしい。
ということで、興味はあるけれどそこまでSFにどっぷりなわけでもない管理人のような輩にはむしろ好都合。買ってから少し時間がたってはしまったが、ようやく手に取ってみた次第である。

で、感想だが、入門編というから多少は軽く見ていたのだが、こりゃ充実の一冊である。その情報量たるやよくぞここまで集め、調べあげたものだと感心するのみ。
管理人も押川春浪ぐらいなら少しは読んだし、彼が日本SFの祖だということぐらいは知っていたが(実はどうやらそれも間違いらしいということが本書でわかるのだが)、いやほんと、明治時代にここまでSF小説や冒険小説が出ていたとは思わなかった。
さすがにこの本のために書かれた文章ではないから、同主旨の内容が重複するところはあるのだが、全体にはテーマに沿った内容で編まれているので、そこまで気にするほどではない。
参考までに目次を挙げておこう。
第一部 さまざまな角度から
日本SF英雄群像
古典SFに描かれた日本人の宇宙像
明治の冒険小説と民族解放思想
日本秘境冒険小説の発掘
少年スーパー・ヒーローの誕生と系譜
少年小説に見る悪漢・怪人・怪物たち
近代日本奇想小説史 番外篇 児童向け戦後仙花紙本の奇想小説
明治冒険雑誌とその読者たち 〈探検世界〉を中心に
〈新青年〉とSF 海野十三を中心に
幕間 古書収集の舞台裏
なぜ、古書なのか? ぼくの超私的古書収集論
第二部 個人研究
日本古典SFを見直す 杉山藤次郎とは何者か?
明治のSFと井上円了
押川春浪と〈日露戦争 写真画報〉
民間マルチ学者・中山忠直という人
海野十三の執筆媒体
『新戦艦高千穂』へのノスタルジック・アプローチ
当時はSF小説といっても確とした概念があるわけではなく、探偵小説やら冒険小説やら何やらが入り交じったカオスである。それでも上のように、英雄譚、宇宙をテーマにしたもの、戦記物、秘境冒険小説、少年小説、仙花紙、 〈新青年〉等々、さまざまなテーマを設けることで、何となく全体像を俯瞰できるのはありがたい。
引用や図版が多いのも○。いかんせん現在入手できる本はごくごく一部なので、その小説の雰囲気を掴むには、やはりある程度のボリュームの引用は必須だろう。このあたりさすが著者はツボを心得ているというか、たいていは今読むと厳しい本が多いはずなのだけれど、そこを上手く面白そうに紹介してくれる。文章も軽妙だし、いろいろな意味で読者に親切設計なのが嬉しい。
管理人のような探偵小説好きにとって見逃せない記事も少なくない。 日本ではもともとSFもひっくるめて探偵小説といっていた時期もあったぐらいなので、作家も当然かぶる。海野十三や蘭郁二郎などはその代表格だし、乱歩以前の探偵小説を語る際、黒岩涙香らとともにやはり押川春浪の名前は外せないのである。
とりわけ「児童向け戦後仙花紙本の奇想小説」、 「〈新青年〉とSF海野十三を中心に」、「海野十三の執筆媒体」あたりは要注目。仙花紙本ネタなど、普通に探偵小説のコラムとしても楽しめる。
ということで本書はSFファンのみならず、探偵小説好きにも積極的におすすめしたい一冊である。
唯一の欠点は、『~明治篇』を買いたくなるということぐらいか(笑)。
本業はSF作家ながら、今ではすっかり明治文化や古典SF研究家としてのイメージが強くなった感のある横田順彌氏。本書も正しくその方面の一冊である。正統派の近代日本文学史には決して登場しない大衆小説、その中でもひときわ異彩を放つSF小説や奇想小説の数々にスポットを当て、その歴史や作品の内容に踏み込んでいく。
実は本書の前に、著者はすでに同じ内容の『近代日本奇想小説史 明治篇』という大著を上梓している。なんと日本SF大賞特別賞、大衆文学研究賞、日本推理作家協会賞を総なめにしたSFファン必携ともいえる恐るべき一冊なのだが、いかんせんボリュームや価格も恐るべきレベルとなってしまった。著者や版元もその点は気にしていたようで、それならお試し版はどうだろうという位置づけで生まれたのが本書らしい。タイトルに「入門書」とある所以である。
ただし、お試し版とはいえ、『~明治篇』を単に抜粋しただけとか、平易にまとめ直したという本ではない。著者がさまざまな雑誌等に発表した『近代日本奇想小説史』に関係する文章を収録したもので、重複はまったくない。また、『~明治篇』があくまで明治に絞って時間軸でまとめているのに対し、『~入門篇』はテーマ別に編まれており、時代も明治に限定せず戦後作品も扱っているという按配。つまり『~明治篇』を既に持っている人も楽しめるということらしい。
ということで、興味はあるけれどそこまでSFにどっぷりなわけでもない管理人のような輩にはむしろ好都合。買ってから少し時間がたってはしまったが、ようやく手に取ってみた次第である。

で、感想だが、入門編というから多少は軽く見ていたのだが、こりゃ充実の一冊である。その情報量たるやよくぞここまで集め、調べあげたものだと感心するのみ。
管理人も押川春浪ぐらいなら少しは読んだし、彼が日本SFの祖だということぐらいは知っていたが(実はどうやらそれも間違いらしいということが本書でわかるのだが)、いやほんと、明治時代にここまでSF小説や冒険小説が出ていたとは思わなかった。
さすがにこの本のために書かれた文章ではないから、同主旨の内容が重複するところはあるのだが、全体にはテーマに沿った内容で編まれているので、そこまで気にするほどではない。
参考までに目次を挙げておこう。
第一部 さまざまな角度から
日本SF英雄群像
古典SFに描かれた日本人の宇宙像
明治の冒険小説と民族解放思想
日本秘境冒険小説の発掘
少年スーパー・ヒーローの誕生と系譜
少年小説に見る悪漢・怪人・怪物たち
近代日本奇想小説史 番外篇 児童向け戦後仙花紙本の奇想小説
明治冒険雑誌とその読者たち 〈探検世界〉を中心に
〈新青年〉とSF 海野十三を中心に
幕間 古書収集の舞台裏
なぜ、古書なのか? ぼくの超私的古書収集論
第二部 個人研究
日本古典SFを見直す 杉山藤次郎とは何者か?
明治のSFと井上円了
押川春浪と〈日露戦争 写真画報〉
民間マルチ学者・中山忠直という人
海野十三の執筆媒体
『新戦艦高千穂』へのノスタルジック・アプローチ
当時はSF小説といっても確とした概念があるわけではなく、探偵小説やら冒険小説やら何やらが入り交じったカオスである。それでも上のように、英雄譚、宇宙をテーマにしたもの、戦記物、秘境冒険小説、少年小説、仙花紙、 〈新青年〉等々、さまざまなテーマを設けることで、何となく全体像を俯瞰できるのはありがたい。
引用や図版が多いのも○。いかんせん現在入手できる本はごくごく一部なので、その小説の雰囲気を掴むには、やはりある程度のボリュームの引用は必須だろう。このあたりさすが著者はツボを心得ているというか、たいていは今読むと厳しい本が多いはずなのだけれど、そこを上手く面白そうに紹介してくれる。文章も軽妙だし、いろいろな意味で読者に親切設計なのが嬉しい。
管理人のような探偵小説好きにとって見逃せない記事も少なくない。 日本ではもともとSFもひっくるめて探偵小説といっていた時期もあったぐらいなので、作家も当然かぶる。海野十三や蘭郁二郎などはその代表格だし、乱歩以前の探偵小説を語る際、黒岩涙香らとともにやはり押川春浪の名前は外せないのである。
とりわけ「児童向け戦後仙花紙本の奇想小説」、 「〈新青年〉とSF海野十三を中心に」、「海野十三の執筆媒体」あたりは要注目。仙花紙本ネタなど、普通に探偵小説のコラムとしても楽しめる。
ということで本書はSFファンのみならず、探偵小説好きにも積極的におすすめしたい一冊である。
唯一の欠点は、『~明治篇』を買いたくなるということぐらいか(笑)。