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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

村上春樹『村上さんのところ』(新潮社)

 シルバーウィークは普段読めないものを読もうと思っているのだが、いまひとつ調子が上がらず、急遽、軽いもので調整すべく『村上さんのところ』を読んでみる。
 本書は村上春樹が期間限定で開設したサイト「村上さんのところ」を書籍化したもの。3ヶ月半にわたって読者から受けた質問37465通のうち3765問に村上春樹が答え、その中から473問をセレクトして収録した傑作選である。

 村上さんのところ

 質問の内容は千差万別。作家・村上春樹に創作の秘密を聞いたり、人生相談するあたりはまあ予想に難くないが、とにかく質問の量が多いので、あえて息抜きに入れたと思われるようなしょうもない質問もけっこう多い。
 そんな質問も含めて楽しめるのは、村上春樹がどんな質問に対しても誠実に丁寧に、そしてユーモラスに答えるからだろう。ときには「自分で考えることです」と少し厳しい言葉もあったりするが、それだけ真摯に答えている証しともいえる。返事の多くは自然体で書いているようで、実はかなり考えて答えているのだろう。
 そんな問答が繰り返され、そして積み重ねられることで、人生との向き合い方のひとつの形がそこに示され、本書の余韻は素敵な随筆を読んだそれに近い。

 個人的に興味深かったのは、やはり創作に関する記述。「時系列は表で確認する」「チャートで事実関係などを管理する」「結末は決めないで書き始める」「自分の中の異界(深層意識)にアクセスする」などなど、ときにはぼかして答える場合もあるけれど、こういう流れのなかで書かれていると、思わずハッとすることも少なくない。
 読者との交流本といった軽いイメージで読み始めてはみたものの、ちょっと横っ面を張られるぐらいのショックもあってこれは侮れない。うん、これもひとつの代表作と言っていいのではないか。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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