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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 10 2015

ミステリー文学資料館/編『古書ミステリー倶楽部III』(光文社文庫)

 ミステリー文学資料館が編んだ『古書ミステリー倶楽部』は、その名のとおり古書をテーマにしたアンソロジー。なかなか好調なようで、この春に三巻目『古書ミステリー倶楽部III』が発売されたので読んでみた。まずは収録作。

江戸川乱歩「口絵」
宮部みゆき「のっぽのドロレス」
山本一力「閻魔堂の虹」
法月綸太郎「緑の扉は危険」
曽野綾子「長い暗い冬」
井上雅彦「書肆に潜むもの」
長谷川卓也「一銭てんぷら」
五木寛之「悪い夏 悪い旅」
小沼丹「バルセロナの書盗」
北村薫「凱旋」
野村胡堂「紅唐紙」
江戸川乱歩「D坂の殺人事件」〔草稿版〕

 古書ミステリー倶楽部III

 同一テーマで三巻目ともなるとさすがに苦しいものがある。扱うテーマを拡大したり、そもそもミステリではない作品も混ざっていたりという具合で、内容的にも一般向けなものとマニアが喜びそうなものが混在している。迷走気味というか苦労している感じが伝わってくるラインナップである。
 個々の作品でいえば見逃せないものもあるのだけれど、全体的にややバランスの悪い一冊といえる。
 以下、簡単に作品ごとのコメントなど。

 「のっぽのドロレス」は自殺した妹のマンションを整理しにきた姉が、本の置かれた場所から妹の死に疑問を抱いて……という話。宮部みゆきらしく姉の心の流れは読ませるが、謎のレベルがイージーすぎてものたりない。ポケミスをギミックとして使うのもむしろ興ざめ。

 「閻魔堂の虹」は時代物の人情噺。嫌いな作品ではないけれど、まったくミステリではないのが困ったものである。

 法月綸太郎ものの一編「緑の扉は危険」は古書マニアをネタとした密室殺人。アンソロジーのテーマにこれ以上ないぐらいピッタリの内容だが、悲しいかなトリックがつまらなすぎる。

 「長い暗い冬」は各種アンソロジーで有名な作品。これもミステリとは言い難いが、怪奇小説としては文句なしの傑作。未読のかたはぜひどうぞ。

 「書肆に潜むもの」は井上雅彦らしい凝りまくった造りが微笑ましい。著者の稚気炸裂の一編。

 「一銭てんぷら」もミステリというよりは幻想小説の範疇に入る。似たような作品はけっこう多いのだが、全体的に漂うノスタルジーとコミカルさがなんとなく気に入った。

 またまた非ミステリの「悪い夏 悪い旅」は懐かしや五木寛之の作品。スナックでアルバイトをする学生がふとしたことからお客の女性と関係をもち、北海道へ大麻を求めて旅をしようと計画するが……という物語。ふわっとした学生の意識とヒロインの感覚が合いそうで合わない。このすれ違いがいかにも五木寛之っぽくていい。

 小沼丹「バルセロナの書盗」は内容的には面白い。ただ、すでに同じミステリー文学資料館/編の『名作で読む推理小説史 ペン先の殺意 文芸ミステリー傑作選』で収録されているんだよねえ。

 「凱旋」は安定株の北村作品。と言いながら既読作品はあまりないのだけれど、これは印象的な作品であった。

 「紅唐紙」は野村胡堂『奇談クラブ』からの一作。銭形平次の作者というだけではないことは以前に『野村胡堂探偵小説全集』を読んで理解していたが、こちらも捨て難い味がある。そのうち読んでみよう。

 「D坂の殺人事件」〔草稿版〕は資料的に重要であることはもちろんなのだが、あえて本書に収録する必要があったのかは疑問。最初に書いたように本書の収録作はバランスが悪く、読者の想定がややぶれているようにも感じた次第である。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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