Posted in 11 2015
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ダニエル・フリードマン『もう過去はいらない』(創元推理文庫)
今週は仕事が忙しなく読書時間が思ったほど取れず。かろうじてダニエル・フリードマンの『もう過去はいらない』を読み終える。第一作『もう年はとれない』が好評を博した伝説の元殺人課刑事、バック・シャッツを主人公にしたシリーズの第二作である。
八十八歳となる元メンフィス署の殺人課刑事バック・シャッツ。前回の事件の傷がまだ癒えず、施設でリハビリに励みながらも歩行器を手放せない毎日に苛立ちを募らせている。そんな彼のもとへ、かつて浅からぬ因縁のあった銀行強盗イライジャが訪ねてきた。
身構えるバックにイライジャが話した内容はまたく意外なものだった。何者かに命を狙われているので、助けてほしいというのだ。
しかし、そんな言葉を額面通りに受け散るわけにはいかない。思わずバックの脳裏に1965年のあの事件が浮かびあがってきた……。

元刑事の老人が主人公、しかもそのキャラクターが徹底的な独自の正義感に支えられたマッチョタイプ、加えてユダヤ系というマイノリティをバックボーンにしていることもあり、前作はとにかくキャラクターが際立った面白いハードボイルドに仕上がっていた。
ただ”老い”や”正義”といったテーマは魅力的なのだが、いかんせんアプローチがあくまでエンタメの範囲内であり、さらにはここに宗教観や家族の問題までメインストーリーに絡んでくるとやや散漫な印象もあり。
それはそれでいい面もあるのだが、著者にはやはりもう少しテーマを絞ってもらって、より突っ込んだものを書いてもらいたいというのは、あながち無理な注文というわけでもないだろう。
著者のダニエル・フリードマンもその辺は意識していたのかもしれない。物語の推進力をキャラクターに任せているところは前作と同様だが、本作ではシリアスの度合いが増し、よりテーマの掘り下げに注力している印象。
具体的には本当の”正義”というものについて様々な角度から検証を企てている。国家と個人、宗教、親子など、そのアプローチはなかなか多彩。まあ前作でも表面的な要素は似たような感じなのだが、やはりそれぞれの絡め方が粗すぎたり浅かったりという具合で、本作ではこれらが事件とうまくミックスされており、小説としての完成度は上がっている印象だ。
ミステリとしても過去と現代、二つの事件を並行して描くのは悪くない。ただ、これをあまりやられるとそもそもシリーズ本来のテーマの意味が無くなりそうなので連発は控えてほしいけれど。
ということで前作から確実にレベルアップした作品。シリアスに進むほどバック・シャッツの個性がやや曇る心配はあるものの、このテーマのまま進めるのは著者にも相当の覚悟が必要なはず。シリーズがあと何作続くかわからないが、ぜひとも期待したいところである(あとがきによると、第四作目までは出る予定らしい)。
八十八歳となる元メンフィス署の殺人課刑事バック・シャッツ。前回の事件の傷がまだ癒えず、施設でリハビリに励みながらも歩行器を手放せない毎日に苛立ちを募らせている。そんな彼のもとへ、かつて浅からぬ因縁のあった銀行強盗イライジャが訪ねてきた。
身構えるバックにイライジャが話した内容はまたく意外なものだった。何者かに命を狙われているので、助けてほしいというのだ。
しかし、そんな言葉を額面通りに受け散るわけにはいかない。思わずバックの脳裏に1965年のあの事件が浮かびあがってきた……。

元刑事の老人が主人公、しかもそのキャラクターが徹底的な独自の正義感に支えられたマッチョタイプ、加えてユダヤ系というマイノリティをバックボーンにしていることもあり、前作はとにかくキャラクターが際立った面白いハードボイルドに仕上がっていた。
ただ”老い”や”正義”といったテーマは魅力的なのだが、いかんせんアプローチがあくまでエンタメの範囲内であり、さらにはここに宗教観や家族の問題までメインストーリーに絡んでくるとやや散漫な印象もあり。
それはそれでいい面もあるのだが、著者にはやはりもう少しテーマを絞ってもらって、より突っ込んだものを書いてもらいたいというのは、あながち無理な注文というわけでもないだろう。
著者のダニエル・フリードマンもその辺は意識していたのかもしれない。物語の推進力をキャラクターに任せているところは前作と同様だが、本作ではシリアスの度合いが増し、よりテーマの掘り下げに注力している印象。
具体的には本当の”正義”というものについて様々な角度から検証を企てている。国家と個人、宗教、親子など、そのアプローチはなかなか多彩。まあ前作でも表面的な要素は似たような感じなのだが、やはりそれぞれの絡め方が粗すぎたり浅かったりという具合で、本作ではこれらが事件とうまくミックスされており、小説としての完成度は上がっている印象だ。
ミステリとしても過去と現代、二つの事件を並行して描くのは悪くない。ただ、これをあまりやられるとそもそもシリーズ本来のテーマの意味が無くなりそうなので連発は控えてほしいけれど。
ということで前作から確実にレベルアップした作品。シリアスに進むほどバック・シャッツの個性がやや曇る心配はあるものの、このテーマのまま進めるのは著者にも相当の覚悟が必要なはず。シリーズがあと何作続くかわからないが、ぜひとも期待したいところである(あとがきによると、第四作目までは出る予定らしい)。