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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 12 2015

極私的ベストテン2015

 早いもので今年ももう大晦日である。年末はとりあえず二十八日まで仕事をこなしていたが、祝日やら土日が変なところで入ってくるので何だかいまひとつスッキリしないまま終わった感じ。
 仕事の調子と読書の調子というのはけっこう比例するところがあって、そんなわけで今月は読書も捗らず。ま、本当の理由は風邪をこじらせていたのと忘年会のほうが大きいんだけど。
  ちなみに今年の読書量は百冊弱といったところで昨年並み。全盛時の読書量には遠く及ばないものの、この数年では悪いほうではなく、だいたい月七~八冊といったペース。これ以上読むとなるといろいろと犠牲にする部分も出てくるので、今の生活リズムだとこのあたりが限界のようだ。


 さて、今年最後のブログ更新は、毎年恒例の「極私的ベストテン」。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶというもの。なんと今年で九回目、ということはブログも今年で九年目ということで、我ながらよく続いているなぁと自分を褒めつつ今年のベストテンどうぞ!

1位 大河内常平『九十九本の妖刀』(戎光祥出版)
2位 連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』(宝島社文庫)
3位 トム・ロブ・スミス『チャイルド44』(新潮文庫)
4位 ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(文春文庫)
5位 ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫)
6位 橘外男『私は呪われている』(戎光祥出版)
7位 小松左京『石』(出版芸術社)
8位 ケン・リュウ『紙の動物園』(新ハヤカワSFシリーズ)
9位 蘭郁二郎『怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像』(ちくま文庫)
10位 ジョルジョ・シェルバネンコ『傷ついた女神』(論創社)

 ベストテンを組んでみたものの今年は泣く泣く圏外に落とした作品が多く、そういう意味では昨年に比べると、好みの作品に多く出会えた一年といえるかもしれない。
 そんな激戦の一年で1位に選んだのは、大河内常平『九十九本の妖刀』。「珍本ミステリ全集」からはこれまでも魅力的な作品は多く出ていたが、発想の面白さやトンデモ度の高さに比べてどうしても完成度が劣るため、ベストテンに入れるところまでは至らなかった。本作の場合、日本刀に絡む独特の世界観が爆発しつつも、きちんとミステリの体裁も保っているのがミソ。結果的に類を見ない伝奇ミステリの傑作とあいなった。まあ、あくまで管理人のベストワンなので、人にはおすすめしないけれど(笑)。
 2位はこの数年の極私的ベストテンの常連になった連城三紀彦の短編集。今年は『人間動物園』もベストテン候補だったのだが、同じ誘拐物の短編「過去からの声」があまりに良かったので、こちらの短編集を優先した。
 3位は遅ればせながらの読了。ソ連という体制のなかで苦しむ個人の生き様がリアルに描かれるが、そこにミステリ的サプライズをきっちりと噛み合せているのが見事。
 4位は今年の話題作。見立て殺人やプロットの妙や猟奇的な部分など、注目すべきところは多いが、結局優れた警察小説という評が一番ぴったりくるんではなかろうか。
 5位は管理人お気に入りの作家の一人で、本作は狙いに狙った趣向が鮮やか。この数年、安定して紹介が続いているのは嬉しい限りである。
 6位も「珍本ミステリ全集」からランクインの一冊。こちらはミステリというより完全に伝奇小説の世界だが、化け猫の話でここまで盛り上がるとはなぁ。プロットには残念なところもあるのだが、テンションの高さで買い。
 7位から9位は短編集を固め打ち。まず7位は久々に読んだ小松左京のホラー系短編集。SFファンには何を今更なのだろうが、あらためて氏の巧さを痛感した一冊。どれをとっても素晴らしいが、とりわけ「くだんのはは」と「牛の首」はお気に入り。
 8位はSFながらノスタルジックな味わいが感じられる短編集。ブラッドベリにも通じるようなウェットなところも好みである。
 そして9位は古典どころ。海野十三同様、探偵小説とSF小説をまたにかけた才人だったが、若くして亡くなったのが惜しまれる。
 10位は珍しやのイタリアン・ミステリ。ノワールやハードボイルド的な味わいがメインだが、主人公の設定がとにかく秀逸。本作だけでいうと正直ベストテンからはちょっと落ちる印象なのだが、これが忘れられるのはあまりに惜しいということで、おまけでランクイン。

 上で書いたように、今年のベストテン選びは非常に悩んだ。特に惜しいものを挙げておくと……アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』A・E・コッパード『郵便局と蛇』フェルディナント・フォン・シーラッハ『禁忌』ロバート・ブロック『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』戸川昌子『黄色い吸血鬼』ダニエル・フリードマン『もう過去はいらない』あたりか。
 この辺はその日の気分で変わる可能性もあるので、後日ベストテンを選んだら普通にランクインしてもおかしくないレベル。気になった方はぜひこちらも読んでいただければ。

 また、評論での収穫は、霜井蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』紀田順一郎『乱歩彷徨』横田順彌『近代日本奇想小説史 入門篇』浅木原忍『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド【増補改訂版】』新保博久『ミステリ編集道』といったところ。
 作家個人に焦点を当てたガイドや評論は、よほどの大御所でないとビジネス上は難しいのだろうが、ネットで連載された『アガサ・クリスティー完全攻略』や同人の『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド【増補改訂版】』などを読むと、既存の版元はもう少し頑張れないのかなと思わずにはいられない。

 さて、本年の『探偵小説三昧』もそろそろ営業終了。今年もご訪問いただき、誠にありがとうございました。来年もなんとか更新ペースを落とさずやっていく所存ですので、何卒よろしくお願いいたします。
 それでは皆さま、よいお年を!

新保博久『ミステリ編集道』(本の雑誌社)

 日本のミステリ史に大きな影響を与えた雑誌や叢書がある。もちろんその功績の大元は作家にあるだろうが、実はそれ以上に重要な役割を担っていたのが編集者たちだ。本日の読了本『ミステリ編集道』は、そんなミステリの歴史を作ってきた名編集者たちへのインタビュー集である。取り上げられているのは以下の十三人。

原田裕……東都書房
大坪直行……宝石社
中田雅久……久保書店
八木昇……桃源社
島崎博……幻影城
白川充……大衆文学館
佐藤誠一郎……新潮ミステリー倶楽部
北村一男……EQ、ジャーロ
山田裕樹……集英社
宍戸健司……角川書店
戸川安宣……東京創元社
染田屋茂……早川書房
藤原義也……国書刊行会

 ミステリ編集道

 通して読めばそのまま日本ミステリ史にもなろうかというぐらい豪華な布陣。これは実に刺激的で面白いインタビュー集であった。こういう懐古的インタビューだと、当然ながら宝石や幻影城あたりの古いところに興味が集中するのだが、そちらはなんだかんだで様々な情報があふれている(もちろん本当に濃い話は別として)。
 むしろそのちょっとあと、東都書房や桃源社、大衆文学館といったところに情報が少なく、その背景や裏話などがこういうまとまった形で当時の編集者の口から直接聞けるのはありがたい。いやほんと楽しいの一言に尽きる。
 また、ミステリに関する情報だけでなく、その時代その会社にあっての編集についての考え方、やり方が聞けるのは職業柄、興味深いところ。まあ、正直けっこうむちゃくちゃな話も多いので参考にはならないところも多いが(笑)。その精神は見習いたい。

 なお、インタビュアーを務める新保博久氏はもちろんミステリ評論家として知られる方だが、変に出過ぎることなく、あくまで編集者をメインに押し出しているところが好印象。各インタビューごとに関連資料を付けているのも親切設計である。
 人生にミステリをちょっと深く関わらせたいなぁ、などと考えている人は必読。良書です。


ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(文春文庫)

 昨年、『その女、アレックス』で話題をさらったピエール・ルメートルの『悲しみのイレーヌ』を読む。著者のデビュー作にしてヴェルーヴェン警部シリーズの第一作だが、『~アレックス』以上の傑作という声も聞かれ、今年の各種ベストテンでも上位に名を連ねている。
 まあ、先に『~アレックス』を読んだ身としては、本書の邦題を見ただけで陰々滅々な気分にしかならないわけだが、まあ、ここまで評判がいいからにはさっさと読んでおくしかあるまい。

 こんな話。パリ警視庁に勤務するカミーユ・ヴェルーヴェン警部のもとへ、部下から緊急の連絡が入った。二人の女性が異様な手口で惨殺されるという事件が起こったのだ。カミーユは腹心の部下たちと捜査にとりかかるが、その手がかりは少なく捜査は難航する。ジャーナリストの取材攻勢も凄まじく、カミーユのイライラは募るばかりだが、そんな疲れを癒してくれるのが妻イレーヌの存在だった。
 やがて第二の事件が発生するが、そのときカミーユは事件に共通する奇妙な共通点に気づくのだった……。

 悲しみのイレーヌ

※以下、ネタバレには気をつけておりますが、作品の性質上、なかなか難しいところもあり、本書未読の方はご注意ください。

 ははぁ、これはなんとまあ刺激的な作品であることか。 『その女、アレックス』の出来は決してフロックなどではなく、ルメートルはデビュー作からして、このレベルを書けるだけの力量があったのだ。
 “刺激的”と書いたが、これはもちろん猟奇殺人やサイコパスを描いているからといった、表面的な理由では決してない。 ミステリを構成するする要素のひとつひとつにおいて様々なチャレンジを仕掛けてくる、その企てが刺激的なのである。各要素はそれほど斬新というわけではないのだが、その枠をなんとか破ろうとする意識はひしひしと伝わってきて、それが心地良いし、結果的にも非常に成功しているのだ。

 具体例をあげると、まずは見立て殺人を扱っていること。マザーグースとか聖書、言い伝えなどをモチーフに、筋立てどおりりに行われる犯罪をミステリ用語で見立て殺人というが、本作はなんとミステリそのものを見立てているところがミソ。古今東西の有名なミステリ、犯罪小説をそのまま使うなど、普通は思いついたとしてもなかなかできるものではない。フランスの作家、しかもデビュー作だから可能だったのだろう。
 また、この見立て殺人を見抜き、他の事件にまで可能性を探っていく部分は本作のハイライトのひとつ。警察小説ながら、この辺りは本格の味わいもあり、それが生きているからこそ本作は傑作となったのだと思う。

 全体の構成も刺激的な要素のひとつである。プロットに凝る作家だというのは『その女、アレックス』やノンシリーズ『死のドレスを花婿に』で十分に学習してはいたが、まさかデビュー作からだとは。
 さすがに『~アレックス』のようなメインディッシュとまではいかないし、絶対に必要な演出ではないのだけれど、著者はやらずにはいられないのだろう。マニア的な嗜好を感じられて興味深いところである。

 そして、本作でもっとも刺激的なのは警察小説としての部分。より厳密に言うなら登場人物の造形だろう。『その女、アレックス』の感想でも書いたが、読むべきはプロットの妙よりも、むしろ個性的な刑事たちがどのような捜査活動を見せてくれるかにある。
 最近、流行りの北欧系では徹底してシリアスな路線が多いけれども、本作でもシリアスはシリアスながらキャラクター造形にはそれなりのデフォルメがなされており、そのままだと滑稽になりかねないところを、チームプレイという形の中で程よく中和して独自のリアリティを創っているように思う。この匙加減が絶妙というか、コメディに陥ることなくスパイスとして最大限に生きるところで決めてくれているという印象なのである。
 特に本作は第一作ということもあって、それがストーリー的にも効果を発揮していて素晴らしい。

 ということで個人的には十分に満足できた一冊。『その女、アレックス』のような爆発力はないけれど、トータルではこちらのほうがミステリとしてのまとまりがよく、本書のほうがよりマニア好みな感じはする。

 なお、ラストについては普通に嫌悪感を覚える人もいるだろうが、ここは著者のミステリに対する最大の問題提示でもあるし、これはこれでアリだろう。
 この点について書き始めると長くなるのでさらっと流すけれど、読書は常に自己責任。ミステリは娯楽であるけれども、文学でもあるわけで、死や生命についての思想や文章と向き合う側面は常に孕んでいる。読者はその覚悟をもって読むべきである。ましてや本作では著書のメッセージはかなり明確に打ち出されているし、管理人などはシリーズ一作目でこれをやった著者の決断を評価したい。


佐藤信介『図書館戦争』

 仕事で疲れているせいか風邪が長引いているせいか、読書があまり進まない。時間はとれないこともないのだが、通勤電車や寝る前のベッドでもページがなかなか進まず、すぐに落ちてしまう。本日も休みだったが、家事をこなした後にグッタリしてほぼ1日中を寝て過ごす始末である。

 だが睡眠だけは久々に取れたせいか、夕方頃に少し体が楽になり、録画してあった実写版『図書館戦争』を観ることにする。監督は佐藤信介、公開は2013年。
 もちろん有川浩の原作は知っていたし、本に対する規制というテーマ自体は面白そうだったが、いかんせんラノベ臭が強そうで敬遠していた作品である。だが、実写版であれば、それほどクセもなかろうと思った次第。

 何を今更ではあるが一応、ストーリーなど。
 昭和のあとが平成ではなく、正化という時代になったパラレルワールドの日本が舞台。公序良俗を乱す表現を規制するため、政府はメディア良化法を制定し、メディア良化委員会が不適切な創作物を取り締まっていた。だがときには武力も駆使するなど、その行為はエスカレートする一方。ついに図書館は弾圧に抵抗するため、「図書館の自由に関する宣言」を元に「図書館の自由法」を制定。本の自由を守るべく、図書隊による防衛制度を確立する。
 そして正化31年、笠原郁は関東図書隊の図書特殊部隊に抜擢された。かつて高校生の頃、良化隊員に本を奪われそうになったとき、図書隊員に助けてもらったのが図書隊に入った動機だった。彼女は教官である堂上篤の部隊に配属され、訓練と図書館業務に励んでいたが……。

 ええと、ほとんど予想どおりというか(笑)。
 本の検閲といえばすぐに思い浮かぶのがブラッドベリの『華氏451』。まあ、さすがにそこまでは期待していなかったけれど、本に関する部分というのは想像以上に薄くて、もっぱら主人公たちの恋愛がテーマ。やはりラノベテイストというかラブコメがメイン、あとはアクションがそこそこ頑張っている程度である。要は図書館でなくても全然かまわない映画なのだ。

 まあキャラで見せる映画でもいいのだけれど、せっかくこんなに特殊な世界観にしているのだから、まずは設定をストーリーにしっかり馴染ませてほしいものである。
 図書館とメディア良化委員界だけが武装して、表現の自由のために死者まで出すというレベルなのに、それ以外の部分はなんら今と変わらない普通の日本というのがあまりに不思議。要するに公務員同士が局地的かつ合法的に戦闘しているということなのだが、この不思議な状況が映画ではいっさい理屈として説明されていないのが問題。少なくとも国全体がファシズムとか戦争状態に晒されているぐらいの背景がないとバカバカしくてどうしようもないだろう。

 これらの弱点を果たして原作はどう処理しているのか気になるところだが、少なくとも映画版はあかん。メディア良化委員会に真っ先に処分される内容である。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)

 週刊文春、ミステリマガジンのベストテンに続いて、『このミステリーがすごい!2016年版』を購入。例によって海外編のみ目を通すと、1位の『スキン・コレクター』をはじめとして、案の定ほとんどの作品がかぶっており、昨年あたりから顕著になってきたランキングの同一化はますます進んでいるような印象だ。

 このミステリーがすごい!2016年版

 しかし印象だけではなんなので、今回は各ランキングの20位までを見比べてみることにした。ついでに平均順位も。データの正確性をできるだけ高めるために、このミスでしか発表していない20位以下は割愛。あくまで20以内にランクインしている作品のみ対象にしている。また、ランキングによって対象となる刊行時期が異なるため(ミステリマガジンのみ1ケ月早いのである)、1つしかランクインしていないものは省き、2つのランキングにランクインしているもののみ取り上げている。

2016年ランキング

 で、その結果がこちら。
 ミステリマガジンでは刊行時期の対象になっていない『悲しみのイレーヌ』と『スキンコレクター』が1位を分け合っている。ミステリマガジンのみ『ありふれた祈り』なのだが、この上位二作品がミステリマガジンでも対象になっていれば、ランキングはますます似たような結果になったことだろう。
 下位ランクになれば多少のばらつきはあるが、まあベストテンあたりまでは本当にそっくりで、この傾向はここ数年で一気に加速した感があり、これではわざわざ三つもランキングを発表する意味がない。少なくとも以前は、このミスと文春に関してはきっちりと違いがあって比較するのも面白かった。そもそもこのミス誕生のきっかけが、文春ランキングに対する批判精神から出たことを思うと寂しいかぎりだ。
 昨年も書いたが、原因はやはり情報の共有化が進みすぎていること、また、これは調べてみないとわからないが、ランキングの投票者がかなりかぶっているのではないかということも考えられる。
 まあ、所詮遊びなんだけれど、遊びだからこそ真剣にやってほしい。

 あと、今年だけの問題でもないのだが、ミステリマガジンの対象期間だけはなんとかしてほしい。
 そもそもどれも2016年版と謳っているのだから、本来は2015年中に刊行された作品が対象になっていなければならない。しかし商売上、他社よりも早く出したいのだろう。文春とこのミスは10月末までが対象で、これだって11月12月の作品は来年度にこぼれるというのに、ミステリマガジンに至っては9月末で締めている。おかげで他のランキングではワンツーフィニッシュの圧倒的二作品がミステリマガジンでは欠片も触れられていないという始末。
 版元も暮れにかけて目玉作品を出すところは多いと思うのだが、それがせっかくのランキングに載らないのはもったいない話で、なんのためのランキングなのかよくわからなくなってくる。来年度版に載るからいいじゃないか、なんてのは単なる言い訳にすぎず、2016年版というなら2016年に出た作品でやってくれよというシンプルな話である。読者にとっては迷惑でしかない。

 『このミステリーがすごい!2016年版』に話を戻すと、こちらもいっこうに士気が上がらない。ここ数年の劣化は目に余るものがあり、企画ものはほとんどなし。作家と出版社の隠し球ぐらいしか読むところがない。
 ランキング載せてよしとするならネットや雑誌でいいものなぁ。なんでこんなにしょぼくなったのかなぁ。


ミステリベストテンの季節到来

 先週から今週にかけて、『ミステリマガジン』と『週刊文春』で年末恒例のベストテンが発表されている。さすがに昨年のように海外版ベスト3までがまったく同じということはなかったが、やはりその顔ぶれは似通っており、この二誌のランキング差はほとんどなくなっているようなイメージ。
 差が出ているとすれば対象時期が一ヶ月ずれていることによる違い、そして版元による違いぐらいだろうか。『ミステリマガジン』ではハヤカワミステリの『ありふれた祈り』、『週刊文春』では文春文庫の『悲しみのイレーヌ』と、見事なまでに自社本が一位となっているところは笑えてしまう。まあ、それをいったら講談社の『IN★POCKET』のベストテンなんて、毎年のように講談社文庫の作品が一位を占めているのだが、あれはランキングではなくて単なる販促媒体だと思っているので、基本的には真面目に受け取ってはいけないものだろう。

 まあ、『IN★POCKET』の例は極端としても、良い作品はどのランキングであろうと評価されるべきだし、結果的にそのランキングが似通ってしまうのは当然といえば当然。だがそれではいくつものランキングが存在する意味がない。特に後発組は積極的に差別化や独自性を打ち出してほしいものだ(そもそもそうしないと売れ行きにも影響するはず)。
 『ミステリマガジン』あたりはベストテンの形態もひんぱんに変えており試行錯誤してきたイメージはあるけれど、雑誌に取り込んだあたりから企画色も薄れ、かなり難しいところにきているのではないか。雑誌の在り方も含め、この十年ほどはやや迷走気味である。
 原書房の『本格ミステリ・ベスト10』は本格ものに絞ったところで特色を打ち出しており、その姿勢は評価できるが、いかんせん頭数も減ってしまうから、質的にそれほどのものでなくてもランクインしてしまうという弱みがある。
 一方で、今やベテラン組といったほうがしっくりくる『このミステリーがすごい!』。そのランキング内容で独自性なら間違いなく突出していたが、昨年はやはり三位までが同じ結果だったように、最近はすっかり保守的。来週あたり2016年版が出るはずだが、なんとか初期の熱い誌面を取り戻してほしいものだ。巻き返しに期待したい。

 2015年ミステリマガジン&文春

 ランキング自体の内容に少し触れておくと(例によって海外部門だけだが)、今年は昨年の『その女、アレックス』のような絶対的本命がいないこともあって、常連が独占しそうな雰囲気である。
 先ほどのピエール・ルメートルの『悲しみのイレーヌ』、ウィリアム・ケント・クルーガー『ありふれた祈り』を中心に、インドリダソン『声』、ミネット・ウォルターズ『悪魔の羽根』、トム・ロブ・スミス『偽りの楽園』、フェルディナント・フォン・シーラッハ『禁忌』、ニック・ハーカウェイ『エンジェルメイカー』、ダニエル・フリードマン『もう過去はいらない』あたりが追いかける状態といったところだろう。正直、悪い作品はないのだろうが、やや新味に欠けるのは否めない。
 個人的にはこれまで興味のなかったウィリアム・ケント・クルーガーが気になる存在か。『ありふれた祈り』はノンシリーズだからお試しにはちょうどよさそうだ。今週中頃には『このミステリーがすごい!』も発売されるようだし、これで今年最後の購入本を決めるとしよう。

ジョルジョ・シェルバネンコ『傷ついた女神』(論創海外ミステリ)

 ジョルジョ・シェルバネンコの『傷ついた女神』を読む。おなじみ論創海外ミステリの一冊だが、今回はちょっと変わり種。イタリアの作家によるミステリである。
 まあ、ちょっと変わり種といっても、それは日本で知られていないだけのこと。本国ではイタリア・ミステリの父と呼ばれるほど活躍した作家である。1930年代の半ばから小説を発表し始め、40年代からミステリにも着手した。
 だが当時のイタリアはファシストの政権下。ミステリを書くにも様々な制限があったようで(例えば犯人は外国人であること、とか)、ついにはミステリそのものが発禁となってしまう。結局、シェルバネンコはスイスに亡命し、ミステリで本領を発揮するのは戦後、亡命から戻って以後のこととなった。ううむ、同盟国側のミステリ事情はどこも似たようなものだったようで。

 それはともかく、まずはストーリー。
 かつて患者を安楽死させ、三年の実刑を受けた元医師のドゥーカ・ランベルティ。ようやく刑期を終え、釈放された彼のもとへ、仕事の依頼が舞い込んでくる。それはアル中の息子ダヴィデを立ち直らせてほしいという、ある高名な資産家からの切実な相談だった。
 自らの置かれた立場もあるため、ドゥーカはその仕事を引き受け受けることにし、ダヴィデとの共同生活が始まった。
 ドゥーカは段階的に酒量を減らすプログラムを進めつつ、同時にダヴィデがなぜアル中となったのか原因を聞き出そうとするが、そこである事件の存在に気づく……。

 傷ついた女神

 おお、これはいいじゃないか。イタリアンの古いミステリなんてほとんど期待していなかったのだが、いやあ、この出来栄えはちょっとした驚きである。まあ期待していなかった分、逆に評価が甘くなっている嫌いはあるけれど、それにしても。

 作風としてはイタリアン・ノワールと言われるように、謎解きメインではなく犯罪小説寄り。ただ、読んだ感じではノワールや犯罪小説というより、むしろハードボイルドにより近い印象である。
 心に傷を持つ主人公が、やまれぬ理由から事件を引き受け、いつしか事件と自己の傷を同化させつつ、真実から何かしらを得て回復してゆくという構図。そう、これは紛れもなく70年代から始まったネオ・ハードボイルドの世界なのだ。
 主人公ドゥーカが安楽死に手を出して実刑判決を受けた元医師というだけで、設定としてはそれだけで相当に魅力的なのだが、おまけに亡くなった父親が警察官だったとか、シングルマザーの妹の存在だとかが加わり、それぞれは詳しく語られないものの、メインストーリーの合間に断片が描かれ、うまく事件とシンクロする。この加減が絶妙。シェルバネンコはドゥーカの心象を通し、命や正義といった、実にストレートなテーマについて語ってくるのである。

 事件そのものは、ダヴィデのアル中に転落するきっかけになったある事件の背景に、組織的な犯罪が隠されていたという按配。これ自体のアイディアは悪くない。
 ただ、前半ではあくまでダヴィデを中心に物語が展開し、実際ダヴィデの存在感、キャラクターの面白さがあったのだが、それが後半、事件に押し出されるような形でその輝きが薄れていくのはもったいない。
 ぶっちゃけ、中盤以降、事件はダヴィデのものではなく、ドゥーカとヒロインのものになっていく。ここの比重を上げるのはかまわないのだけれど、ダヴィデの問題は真相と別のところでもっとしっかり処理してほしかった。

 ということで惜しいところもあるのだが、本作についてはまさしく拾い物という感じで非常に満足。イタリア・ミステリの父らしいので、拾い物という表現は失礼なのかもしれないが(苦笑)。
 ちなみに今月、論創社からシェルバネンコ第二弾の『虐殺の少年たち』が出ているようなので、これも早く入手せねば。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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