店頭で早川書房編集部/編『新・冒険スパイ小説ハンドブック』を見かけて購入。二十年ほど前に同編集部から出た『冒険・スパイ小説ハンドブック』をリニューアルしたもので、中身の方はタイトルどおり今現在でのおすすめ冒険・スパイ小説を紹介したハンドブック。

通常のハンドブックとの大きな違いは、「架空の冒険・スパイ小説全集全二十巻をつくる」というテーマで評論家諸氏が座談会を行い、その収録作を紹介する形をとっていること。全集は一応、二十巻という体裁をとって、その各巻に「裏切り」とか「脱出」のテーマを設け、そのテーマに沿った傑作をラインナップしていく。
そうした座談会+各作品解説が本作の柱であり、総ページ数の六割ほどを占める。では残りは何かというと、ジャンルを代表する作家の作家論が三割、国内作家のエッセイが一割といったところである。
さて、メインとなる「架空の冒険・スパイ小説全集全二十巻をつくる」だが、企画は面白いし、座談会という形式も悪くないのだけれど、ルール付けがゆるすぎて正直いまひとつ。
結局は全集云々ではなく、テーマに沿って冒険・スパイ小説の傑作をどれだけ紹介するかがポイントなのだが、作品を推す根拠があったりなかったり、テーマ別に馴染まない作品を全集とは別に三十五作も並べるなど、選出方法の基準がぐだぐだでお粗末極まりない。まずはハンドブックとして、これは読んでおけという方針をきっちり打ち出すべきだろう。
国内と海外を混ぜているのもン~という感じ。
後半の作家論はやることがはっきりしているだけに、さすがに読んでいて面白い。著作リストもついていて親切だし、これで取り上げる作家やページ数が多ければより良かった。
まあ、ちょっと腐してしまったが、このジャンルが一時期ほどの勢いを失っているのは明らかなので、こういう本をきっかけにまた盛り上がればよいとは思うが、それだけに本の作りが気になった。あ、もちろん紹介されている本は新旧取り混ぜて面白そうなものばかりなので、その点は信頼してよろしいかと。