Posted in 01 2016
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中町信『田沢湖殺人事件』(徳間文庫)
ひと頃は改題復刊されてプチブームを起こしていた中町信だが、最近はすっかり御無沙汰。このあともけっこう復刊が続くのかと思っていただけに残念なところだが、こういうこともあろうかと古本でコツコツ集めておいた中から、本日は『田沢湖殺人事件』。
東和大学の助教授でもある脳外科医・堂上富士夫のもとへ警察から連絡が入った。ミステリ作家として有名な妻の美保が、中学校の同窓会に向かった先の秋田県田沢湖で、水死体となって発見されたのだ。
堂上は美保の死が殺人ではないかと疑い、自ら調査を開始する。そして美保が十五年前に起こったある事件を調べていたことに気がついた。だが調査を進めるうち、事件の関係者が次々と不可解な死を遂げていく……。

トラベルミステリー然としたタイトル、いかにも昭和の香り満載のカバーイラスト。ぱっと見はいかにも安手の二時間サスペンスドラマのテイストである。当時はこういう方が売れると判断されたのだろうが、その価値を間違った方向へ誘導したのは何とも残念なことだ。
というのも本作の中身はガチガチの本格。しかも創元から『〜の殺意』として復刻された傑作群に勝るとも劣らない力作なのである。
堂上の妻、美保の事件をきっかけにして繰り広げられる連続殺人、しかもこれに十五年前に起こった事件が絡み、フーダニット、密室、アリバイ崩し、そしてお得意のアレなど、とにかく本格につきもののガジェットがこれでもかというぐらい詰め込まれている。
さらにはひとつの推理が導き出されるごとに、事件の様相がガラリと変わり、それが一度や二度ですまない展開も素晴らしい。特に後半、真相がほぼ見えたかと思わせておいて、美保の手紙とともに展開するパートは圧巻。ページ数はそこそこ残っているので、もう一波乱やってくれるのだろうとは思ったが、まさかここまでとは。
よくもまあこれだけトリックを仕込み、緻密なプロットを構築したものだ。しかも読者に対してはけっこうあからさまな伏線も貼ってあるところなど心憎い。伏線であることはすぐに気づいたけれど、その意味まではなかなか思い至らず、ラストで思わず唸ってしまったよ。とにかく本格にかける著者の執念のようなものが感じられる一作。
当時、ただのトラベルミステリだと思って読んだ人は、どんだけ驚いたことやら。
難をあげるとすれば、プロットの複雑さのせいか、あるいはネタを詰め込みすぎたせいか、ストーリー展開がやたらゴチャゴチャしていることが惜しまれる。主人公も完全に固定されているわけではなく、メインの人物がところどころで入れ替わり、その比重がばらばらなのも気になった。謎の興味で引っ張ってくれるからよいけれど、ストーリーの流れの悪さという点ではいまひとつだ。
まあ、本作に関してはそういうマイナスは気にせず、著者の意気をこそ買っておきたい。
トータルではもちろんおすすめ……と書きたいところだが、本作は現在、古書でしか入手できないのがなんとも残念。創元はせっかくあれだけ紹介を進めたのだから、これはぜひ復刊しておくべきではないかな。
東和大学の助教授でもある脳外科医・堂上富士夫のもとへ警察から連絡が入った。ミステリ作家として有名な妻の美保が、中学校の同窓会に向かった先の秋田県田沢湖で、水死体となって発見されたのだ。
堂上は美保の死が殺人ではないかと疑い、自ら調査を開始する。そして美保が十五年前に起こったある事件を調べていたことに気がついた。だが調査を進めるうち、事件の関係者が次々と不可解な死を遂げていく……。

トラベルミステリー然としたタイトル、いかにも昭和の香り満載のカバーイラスト。ぱっと見はいかにも安手の二時間サスペンスドラマのテイストである。当時はこういう方が売れると判断されたのだろうが、その価値を間違った方向へ誘導したのは何とも残念なことだ。
というのも本作の中身はガチガチの本格。しかも創元から『〜の殺意』として復刻された傑作群に勝るとも劣らない力作なのである。
堂上の妻、美保の事件をきっかけにして繰り広げられる連続殺人、しかもこれに十五年前に起こった事件が絡み、フーダニット、密室、アリバイ崩し、そしてお得意のアレなど、とにかく本格につきもののガジェットがこれでもかというぐらい詰め込まれている。
さらにはひとつの推理が導き出されるごとに、事件の様相がガラリと変わり、それが一度や二度ですまない展開も素晴らしい。特に後半、真相がほぼ見えたかと思わせておいて、美保の手紙とともに展開するパートは圧巻。ページ数はそこそこ残っているので、もう一波乱やってくれるのだろうとは思ったが、まさかここまでとは。
よくもまあこれだけトリックを仕込み、緻密なプロットを構築したものだ。しかも読者に対してはけっこうあからさまな伏線も貼ってあるところなど心憎い。伏線であることはすぐに気づいたけれど、その意味まではなかなか思い至らず、ラストで思わず唸ってしまったよ。とにかく本格にかける著者の執念のようなものが感じられる一作。
当時、ただのトラベルミステリだと思って読んだ人は、どんだけ驚いたことやら。
難をあげるとすれば、プロットの複雑さのせいか、あるいはネタを詰め込みすぎたせいか、ストーリー展開がやたらゴチャゴチャしていることが惜しまれる。主人公も完全に固定されているわけではなく、メインの人物がところどころで入れ替わり、その比重がばらばらなのも気になった。謎の興味で引っ張ってくれるからよいけれど、ストーリーの流れの悪さという点ではいまひとつだ。
まあ、本作に関してはそういうマイナスは気にせず、著者の意気をこそ買っておきたい。
トータルではもちろんおすすめ……と書きたいところだが、本作は現在、古書でしか入手できないのがなんとも残念。創元はせっかくあれだけ紹介を進めたのだから、これはぜひ復刊しておくべきではないかな。