Posted in 02 2016
Posted
on
石沢英太郎『視線』(講談社文庫)
石沢英太郎の短編集『視線』を読む。
著者は1960年代前半から1980年代後半にかかけて活躍した推理作家である。まさに『本格ミステリフラッシュバック』ど真ん中の世代であり、同書にも本作をはじめ二作が取りあげられている。
以下、収録作。
「視線」
「その犬の名はリリー」
「五十五歳の生理」
「アドニスの花」
「ガラスの家」
「一本の藁」
「ある完全犯罪」

これはよい。全体的には小粒な印象はあるし、大がかりなトリックとかはないけれど、仕掛けをきちんと盛り込んで、ラストできれいにサプライズを味わえる良質の短編集である。
しかもただの推理ゲームに終わらせず、しっとりとした人間ドラマをベースにしているのがまたよい。真相から浮かび上がる犯罪者の心情が切なく、作品によってはそれを描くことでミステリの部分にも貢献しているという、まさにひとつの理想型だろう。
また、小粒とは書いたが、内容的にはバラエティに富んでいるのも好印象である。
そんな著者の魅力が最大限に発揮されているのが巻頭の「視線」。銀行強盗に拳銃を突きつけられた銀行員が走らせた視線の先には、非常ベルに手をかけようとした同僚の姿が。結果、強盗はその同僚を銃殺してしまう。単純な事件ではあったが、捜査を担当した刑事には気になることがあった……。人間の心理を読み解く面白さがある。
「その犬の名はリリー」も悪くない。隣家の飼い犬リリーを巡って明らかになる真相はけっこうパンチ力があり、どんでん返しも効いている。
「五十五歳の生理」は定年退職がテーマ。退職で生き甲斐をなくしたかに見えた男の自殺に秘められた真相はそれほど驚くべきものではないが、ユーモラスにまとめつつもほろ苦い味わいがなかなか。
「アドニスの花」は主人公(と思われる人物)が最終的にカヤの外となる構成が珍しい。すぐにネタは割れてしまうだろうが、その背後のどろどろが読みどころ?
「ガラスの家」は今読んでも、というか今だからこそジワッとくる物語。事件が起こるたびに評論家やミステリ作家が意見を求められることはままあるが、それが与える影響を深く考えずに続けていると、やがては悲劇を招く。SNSやブログも然りである。こちらもミステリとしては弱いけれど、実に印象的な作品。
会社で使っていた料亭の女中が自殺した。彼女を死に至らしめたものはなんだったのか、というのが「一本の藁」。これは巧い。
「ある完全犯罪」は正当防衛を利用した完全犯罪を企む銀行員の物語。巻頭の「視線」と対になったような作品で、こういう構成も含めて良質の一冊といえるだろう。
梶龍雄のような変なプレミア価格もまだついていないし、古書店で見かけた方はぜひ。
著者は1960年代前半から1980年代後半にかかけて活躍した推理作家である。まさに『本格ミステリフラッシュバック』ど真ん中の世代であり、同書にも本作をはじめ二作が取りあげられている。
以下、収録作。
「視線」
「その犬の名はリリー」
「五十五歳の生理」
「アドニスの花」
「ガラスの家」
「一本の藁」
「ある完全犯罪」

これはよい。全体的には小粒な印象はあるし、大がかりなトリックとかはないけれど、仕掛けをきちんと盛り込んで、ラストできれいにサプライズを味わえる良質の短編集である。
しかもただの推理ゲームに終わらせず、しっとりとした人間ドラマをベースにしているのがまたよい。真相から浮かび上がる犯罪者の心情が切なく、作品によってはそれを描くことでミステリの部分にも貢献しているという、まさにひとつの理想型だろう。
また、小粒とは書いたが、内容的にはバラエティに富んでいるのも好印象である。
そんな著者の魅力が最大限に発揮されているのが巻頭の「視線」。銀行強盗に拳銃を突きつけられた銀行員が走らせた視線の先には、非常ベルに手をかけようとした同僚の姿が。結果、強盗はその同僚を銃殺してしまう。単純な事件ではあったが、捜査を担当した刑事には気になることがあった……。人間の心理を読み解く面白さがある。
「その犬の名はリリー」も悪くない。隣家の飼い犬リリーを巡って明らかになる真相はけっこうパンチ力があり、どんでん返しも効いている。
「五十五歳の生理」は定年退職がテーマ。退職で生き甲斐をなくしたかに見えた男の自殺に秘められた真相はそれほど驚くべきものではないが、ユーモラスにまとめつつもほろ苦い味わいがなかなか。
「アドニスの花」は主人公(と思われる人物)が最終的にカヤの外となる構成が珍しい。すぐにネタは割れてしまうだろうが、その背後のどろどろが読みどころ?
「ガラスの家」は今読んでも、というか今だからこそジワッとくる物語。事件が起こるたびに評論家やミステリ作家が意見を求められることはままあるが、それが与える影響を深く考えずに続けていると、やがては悲劇を招く。SNSやブログも然りである。こちらもミステリとしては弱いけれど、実に印象的な作品。
会社で使っていた料亭の女中が自殺した。彼女を死に至らしめたものはなんだったのか、というのが「一本の藁」。これは巧い。
「ある完全犯罪」は正当防衛を利用した完全犯罪を企む銀行員の物語。巻頭の「視線」と対になったような作品で、こういう構成も含めて良質の一冊といえるだろう。
梶龍雄のような変なプレミア価格もまだついていないし、古書店で見かけた方はぜひ。