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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 04 2016

ジョルジュ・シムノン『メグレたてつく』(河出文庫)

 久々にメグレものから一冊。河出文庫版の『メグレたてつく』を読む。

 こんな話。ある日、メグレ警視は警視総監から出頭の要請を受ける。言葉を濁し、なかなか意図を明らかにしない総監だったが、どうやらメグレが犯した失策について自ら責任をとるよう求めているらしい。
 しかし、そもそも失策についての心当たりがないメグレ。総監から渡された書類に目を通し、ようやく事態に納得がいく。
  先日のこと。メグレは深夜に若い娘から電話を受けていた。地方からパリに出てきたが友人とはぐれ、お金もなく困り果てているという。そこでメグレはホテルを紹介してやったのだが、その若い娘はメグレに酒を飲まされてホテルに連れこまれたと供述していたのだ。
 何者かがメグレの失脚を狙っている。メグレは部下とともに背後で糸を引いている人物を探ろうとするが……。

 メグレたてつく

 1964年に書かれたものだからシムノン円熟期の作品といっていいだろう。
 内容的にはメグレ自身が今でいうセクハラ事件に巻き込まれるという異色作。書かれた時代もあるのでセクハラそのものが問題視されるというわけではなく、被害者とされる女性が政界の大物の関係者ということで、その筋から圧力をかけられるメグレがいかにして突破口を見出していくかが見せ場である。
 とはいえ、どんな設定であろうともメグレ・シリーズはメグレ・シリーズ。最近の英米の警察小説であれば政治的なテーマも多いし、それこそ政治的な決着も多いのだけれど、メグレものは基本まったり展開であり、その視線の先にあるものは常に人間の営みである。
 いつにないメグレ自身のピンチということで読者としては気が急くところもあるのだが、最後はきちんと犯罪者の心理にコミットしてゆくのが心地よい。

 また、本作のメグレは事件の当事者ということもあり、いつも以上にその心情を吐露しているのも興味深い。なんせ本作のメグレは三年後に定年を控えているのだ。その花道をこんな形で失ってしまうのか、怒りや情けなさ、プライドが入り混じったメグレと、上司や部下、妻との会話が味わい深い。
 メグレものは今更ミステリとして良いとか悪いとか評価する気もないのだが、うむ、これはおすすめ。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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