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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

斎藤光正『悪魔が来りて笛を吹く』

 1979年に東映系列で封切りされた映画『悪魔が来りて笛を吹く』をDVDで視聴。原作はもちろん横溝正史の同題作品。監督は『戦国自衛隊』や『伊賀忍法帖』でもメガホンをとった斎藤光正である。

 銀座の天銀堂という宝石店で、店員複数が毒殺され、多額の宝石が奪われるという事件が起こった。犯人と目されたのはあろうことか元子爵の椿英輔。アリバイがあるため釈放はされたが、その不名誉を恥じた英輔は娘の美禰子に遺書を残して自殺する。
  しかし、死んだはずの英輔が目撃される出来事が相次ぎ、その消息を確かめるため椿家で砂占いが行われることになった。美禰子は探偵の金田一耕助に同席を依頼するが、占いのさなかにフルートの音色が鳴り響く……。

 悪魔が来りて笛を吹く

 実は本作を観る前に一番危惧していたのが西田敏行演じる金田一耕助である。とにかくビジュアル的にコミカルさが先に立ち過ぎていて、別に耕助が二枚目である必要はないのだが、いくらなんでも西田敏行はないだろうと思っていたのである。
 ところが予想に反してこれがなかなか悪くなかった。石坂浩二や古谷一行の飄々とした金田一に対し、西田金田一は人懐っこさという武器があり、この因業な事件において非常にいい緩衝材となっている印象だ。ところどころ金田一らしからぬ荒さを感じさせる面もあってそこはいただけなかったが、個人的には概ね満足できる金田一耕助だった。

 ただ、褒めるべき点はそこぐらいか。そもそも原作自体も横溝の一級品に比べるとやや落ちる出来ではあるのだが、どうやら映画の方もそれに比例するようだ。映画としての小粒感はあまり言いたくないところだが、テレビドラマレベルのセットの安っぽさ、悪魔人形の用い方、終盤の濡れ場をはじめとした演出のチープ感はこちらの予想を下回るレベルでどうにもいただけない。
 また、フルートのネタや人間関係の描き方など、明らかな説明不足の箇所も少なくない。特に登場人物の描き方に差がありすぎるのは問題で、そのために椿家が抱える闇があまり浮かび上がってこない。横溝作品では血の抱える問題が事件の鍵を握ることが多いけれども、本作などはその最たるものなので、これは致命的とすら思える。
 駄作とまではいかないが、西田金田一が悪くないだけに残念な一本であった。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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