fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 06 2016

江戸川乱歩『明智小五郎事件簿 I 「D坂の殺人事件」「幽霊」「黒手組」「心理試験」「屋根裏の散歩者」』(集英社文庫)

 昨年は江戸川乱歩の没後五十年を記念して、テレビやアニメ、漫画、サイト、イベント等でいろいろな企画があったが、これも(一年遅れとはいえ)その一環だろう。集英社文庫からスタートした「明智小五郎事件簿」全十二巻の刊行である。
 乱歩が創出した日本で最も有名な探偵・明智小五郎が絡む全作品を、事件発生順にまとめたシリーズで、本書はその第一巻。明智登場第一作目の「D坂の殺人事件」を皮切りに、以下の五短編を収録している。

「D坂の殺人事件」
「幽霊」
「黒手組」
「心理試験」
「屋根裏の散歩者」

 明智小五郎事件簿I

 登場作品をすべて物語の発生した順番でまとめるという試みは、言うまでもなくシャーロキアンのひそみに倣ったもの。ちくま文庫『詳注版シャーロック・ホームズ全集』が、それを実践した全集として知られているが、本書はこれを明智小五郎でやってみたというわけである(ただし、あそこまで詳細な註釈はない)。

 なお、企画そのものは本邦初というわけではない。
 というのも本書で年代記を担当されている平山雄一氏は、もともとネット上で同様の記事を公開していたようだし、さらにはそれらがまとめ直されて、2009年に出た驚愕の明智研究本、住田忠久/編著『明智小五郎読本』(長崎出版)にも収録されている。
 とはいえ作品を実際に順番に読める形として出版してくれるのは、やはりありがたい。乱歩の全集はいくつか持っているので、今さら明智ものだけ集められてもなぁと最初は思ったのだが、年代学、つまりなぜこの作品がこの日付になったのかという推察が合わせて収録されているので、随時、並行して確認できるのはなかなか便利だ。
 まあ、コレを便利だと思う人が世の中に何人いるのかは置いといて(苦笑)。

 ただ、昨今はキャラクターで小説にアプローチするファンも少なくない、というか、むしろメインストリームかもしれないので、明智もののドラマやアニメ、漫画で興味を持った人が、この切り口なら小説も読んでくれる可能性は決して少なくないだろう。
  また、乱歩作品を久々に読み直すきっかけになった人もいるだろうし(管理人です)、それらの意味で、本書は出るべくして出た一冊なのかも知れない。

 あまりにメジャー作品が並ぶので今更な感じではあるが、一応は作品ごとのコメントも。
 明智デビュー作の「D坂の殺人事件」は書生風明智のキャラクター的な面白さもさることながら、二段構えの推理シーンが読みどころ。語り手の推理が真相でも、これはこれで面白かった気がする。
 「幽霊」はラストのサプライズが本書の形だと通用しないのはもったいないが、こればかりはさすがに仕方ないか。
 「黒手組」は暗号ネタだが、むしろ事件の構図に妙がある。
 「心理試験」は昔から好きな作品で、個人的には乱歩短編のベスト3に入れたい。この頃の明智の捜査や推理は人間の心理に着目することが多いが、これは何といってもその代表作。人間心理の盲点を描いた傑作で、探偵対犯人という構図がコンパクトながらガチッとはまっているところもお気に入りの理由の一つだ。
 「屋根裏の散歩者」もベスト3級。 「心理試験」と同様に、犯罪者の心理に着目した推理、探偵対犯人という構図も魅力的だが、加えて犯人役が徐々にエスカレートしていく倒叙ものとしても絶品である。

 全体的には猟奇風味を持たせつつも本格に寄っている作品が多く、初期作品の素晴らしさを手軽に堪能できる一冊といえる。


« »

06 2016
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー