怪獣映画ファン、特撮ファンとしてこの夏に観ておきたい映画はいくつかあるが、個人的にはやはり『シン・ゴジラ』である。初日は無理だったが公開二日目の本日、立川シネマシティ2で鑑賞。
ちなみに立川は『シン・ゴジラ』のストーリー内で臨時政府が置かれる場所。モノレールの車両基地とか昭和記念公園とか知っている場所がいくつも出てきて、ううむ、いつの間にそんなの撮影していたのか。
まあ、それはともかくストーリーから。
東京湾を走るアクアラインで原因不明の崩落事故が発生した。政府はただちに緊急会議を開き、海底火山等の自然災害という見方で決着しようとしたが、内閣官房副長官の矢口蘭堂だけは、海底に生息する巨大生物の可能性もあると提言。しかし非現実的な意見とばかりに周囲はこれを否定した。
だが矢口の予想は的中した。巨大生物が海面から姿を現したのだ。
巨大生物は古代の恐竜のようにも見えたが、エラをもち、四足歩行でそのまま東京大田区へ上陸する。その巨体は道路幅にとうてい収まらず、生物が移動するだけで市街地はたちまち破壊されてゆく。
前例のない想定外の事態に慌てふためく政府。何を決定するにも会議や根回しが必要な今のシステムではすべてが後手に回り、現場で対応にあたる警察や消防、自治体は苛だちを隠せない。
そんななか諸外国も事態の動向に注目していたが、なかでも米国のアプローチはなぜか積極的だった……。

総監督&脚本はエヴァでお馴染みの庵野秀明、監督&特技監督は『日本沈没』や実写版『進撃の巨人』等で知られる樋口真嗣という布陣。
2014年に公開されたハリウッド版第二弾の『GODZILLA ゴジラ』がなかなかの出来だったことを思うと、ここは本家ならではの意地を見せてくれと願うファンは多かったはず。庵野監督にも相当のプレッシャーがあったと思われるが、いやあ、この出来なら一安心。十分満足である。なんだ、日本、やればできるではないか。
何がいいといえば、やはり徹底したリアリティだろう。
ゴジラは戦争や核や災害などのメタファーになっていることが多いけれども、本作ではゴジラを災害と見做し、それに対して現代の日本政府や自衛隊はどのように対処するのか、そもそも対応できるのかというところを描いている。つまり「有事における危機管理」。
こういうアプローチは過去のゴジラ作品にもあり、決して初めてというわけではないのだが、庵野監督は変にSF的な要素を持ち込まず、あくまで現在の日本政府がこの未曾有の災害に直面したときどう対応するかを徹底的に描いていく。この軸がぶれないのがいい。
加えて注目したいのは、主人公を権力側に置いていることだろう。
得てしてこの手の映画というのは、主人公が現場側であり、保身や利益に走る権力側や体制側との対立を描くケースが多い。要は権力側というのはドラマを盛り上げるための悪役的役回りである。まあ、感情移入しやすいし、わかりやすい構図ではある。
本作ではこの見慣れている構図、即ち現場側=善=主人公という構図を捨てて、主人公を内閣官房副長官とし、権力側の苦悩にスポットをあてているのが興味深い。
まあ内閣や外国との板挟みにあう、いかにも中間管理職的な描き方もされているのだが、基本的には安保問題や核問題、東日本大震災などを想起させる様々な問題にどう対応していくかを浮き彫りにしている。現場の苦労もいいのだが、権力側でなければわからない苦悩をきちんと見せることもこういう映画では必要だろう。個人的にはここがけっこうツボでありました。
気になったのは、あえてやっていると思われる棒読み的な早口のセリフ使いである。
特に矢口がまとめる対ゴジラの緊急対策チームに所属する若手の政治家や学者や研究者などが、一様に専門用語を織り交ぜた長ゼリフを早口でまくしたてる。これがアメリカ映画だったら、感情に任せた怒鳴り声が交錯したのち、誰かが最後にきちんと説明的にまとめるところだが、これもある意味リアリティを感じさせる部分ではある。まあ、わかりにくいときも少なくないので、好みが分かれるところだろうけれど。
演じる役者さんはまあまあ悪くない。主役の矢口役には長谷川博己、準主役のカヨコ・アン・パタースンには石原さとみ、内閣総理大臣補佐官に竹野内豊。他にもかなりの有名どころが端役で出演しており、これもゴジラ映画ならでは。ただ、石原さとみがこういう役を演じるには、若干若すぎるかな。長谷川博己は好演。
異色なのは初日までシークレットだった、ゴジラのモーションキャプチャーを担当した野村萬斎だろう。今回のゴジラは巨大で非常にゆったりした動きであり、野村萬斎の能楽師としての動きに通じるところがあるかもしれないが、そこまで意味があるかどうかは疑問である。むしろ話題作りの方が大きいのかも。
ゴジラそのものについては、過去作をリスペクトしつつ新設定も織り込んで悪くない。第一形態が少々残念な感じだったけれど、巨大化してからは佇まいだけでも鳥肌ものだし、カット割りや絵コンテも相当しっかり練られている印象で、エヴァでの見せ方もかなり取り込まれているのだろう(ここ詳しくないので予想だが)。
ちなみに自衛隊は結局ゴジラに手も足も出ないのだけれど、ゴジラに向かってゆくヘリや戦車の見せ方は実にかっこよく、そういう表面的なところだけでなく、その存在意義について言及されるシーンもまたよし。
取り止めがなくなってきたので、そろそろまとめ。
本作は歴代ゴジラ映画でもトップクラスとみていいだろう。映像の進化はもとより、設定やストーリーもしっかりしており、巨大生物の存在以外は徹底したリアリティの追求で楽しめる。ここまで真面目に作ってくれた庵野秀明、樋口真嗣両監督に感謝したい。