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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 08 2016

エラリー・クイーン『熱く冷たいアリバイ』(原書房)

 エラリー・クイーン名義で書かれたパイパーバックから、本格テイストの傑作?を集めた「エラリー・クイーン外典コレクション」の三冊目、『熱く冷たいアリバイ』を読む。
 『チェスプレイヤーの密室』、『摩天楼のクローズドサークル』と読んできて、いずれもまあまあの出来だったが、掉尾を飾る本作の出来は果たしてどうか。

 舞台はアメリカのとある小都市。その一角で暮らす四組の夫婦がいた。高校教師デイヴィッドとナンシーの夫妻、会計士ラリーとライラのコナー夫妻、医師ジャックとヴェラのリッチモンド夫妻、靴屋店主スタンリーとメイのウォルターズ夫妻である。
 互いに思うところもあれど表面的にはなんとかご近所づきあいを保つ四組は、今宵も揃ってホームパーティーを催していたが、コナー夫妻の仲がどうやら危うくなっているらしく、最後は何やら気まずい雰囲気でお開きとなる。
 その翌日。隣家のライラの様子が気になったナンシーがデイヴィッドやジャックを誘って様子を見にいくと、そこには何とライラの死体が。しかも夫のラリーまでもが事務所で死体となって発見される。
 一見、ラリーがライラを殺害し、その後自殺を図ったかに見える事件だったが、捜査を担当したマスターズ警部補には納得できないところがあった……。

 熱く冷たいアリバイ

 本作の代作者はフレッチャー・フローラ。ほとんど知らない作家だったが、〈マン・ハント〉や〈ヒッチコックマガジン〉等で活躍し、クイーンの代作も三冊ほどあるらしい。
 ただ、ミステリ専業というわけではなく、また、ミステリにしても犯罪小説やサスペンス系がメインのようで、その評価も人物描写や文体というところにあったようだ。
 実際、本作でも人物描写はなかなか達者で、ともすれば混乱しがちな四組の夫婦について、しっかり個性を持たせて描き分けている。

 肝心のミステリとしての出来だが、タイトルにもあるとおりアリバイ崩しがメイン。フーダニット要素もちゃんと加えられており、本格プロパーでない割には手堅くまとめている。
 だが、いかんせん中身が淡泊というか小粒というか。ストーリーや事件自体に魅力が乏しく、また、手堅くまとめてはいるものの、先が読みやすいという弱点はあるだろう。

 ただ、実は一番気になったのは、そんな弱点よりも、むしろ四組の夫婦のキャラクターである。いまひとつ感情移入しにくい、どころか理解できない面があって、それはアメリカならではの人間関係のベタベタ感。全組、子供がいない夫婦とはいえ、他所の夫や妻に興味持ちすぎである(苦笑)。
 極めつけはホームパーティーの場面。多少ハメを外すのは理解できるが、四組入り交じってキス合戦になるとか、もう意味がわからん(笑)。
 当時のアメリカ中流家庭においてこれぐらいは普通だったのか、それとも誇張しているのか判断に迷うところだが、他の翻訳小説でもこんな描写はあまりないように思うので、もしかするとペイパーバックゆえのサービス精神の表れだったのかも。

 というわけで、「エラリー・クイーン外典コレクション」のなかでは最も本格成分が高い気もするのだけれど、むしろクイーンらしさは一番感じられなかった作品。


多岐川恭『異郷の帆』(講談社文庫)

 ぼちぼち進めている多岐川恭読破計画の四冊目として、本日は『異郷の帆』を読む。著者の代表作というだけでなく、鎖国時代の長崎出島が舞台ということでも気になっていた一冊である。

 まずはストーリーから。
 時は元禄。鎖国政策をとる幕府によって、諸外国との交流は一切禁じられていたが、唯一の例外が長崎出島であった。その交易相手はオランダに限定され、しかも女性の同行は厳禁。また、オランダ人も出島以外への外出はすべて禁止されていた。さらに正規な交易品以外の持ち込みは認められず、武器の所持も一切禁止である。
 だが、そんな厳重な監督下においても裏はある。一部のオランダ人と出島の役人は結託し、不正な密輸入で私服を肥やしていた。
 その出島で通詞として働く浦恒助がいた。欲もなく世襲のままに淡々と職務をこなす浦だったが、オランダ商館に住むハーフのお幸には惹かれるものがあった。しかし、オランダ人甲比丹と日本の遊女のハーフという出自では、世間体を気にする母親の反対は間違いなく、しかも安定した職すら失いかねない。その先へ踏み出すことに浦の躊躇は大きかった。
 そんなある日のこと。オランダ商館のヘトルが刺殺されるという事件が起こる。もともと黒い噂のある人物だったが、犯人は特定できず、凶器すら発見できなかった。奉行が警戒にあたるなか、今度は通詞の一人が殺害される……。

 異郷の帆

 いやあ素晴らしい。まあ、代表作ばかりを読んでいるのだから当たり前っちゃ当たり前だが、多岐川恭に今のところ外れなし。
 ミステリの部分ばかりではなく、それ以上にしっかりした人間ドラマも堪能させてくれるところが多岐川作品の魅力だけれど、本作では日本の歴史上でもとびきり特殊な出島という舞台設定もあって、それがいっそう花開いている印象である。

 まずはミステリとしての部分。
 出入りが徹底的に制限されたこの狭小空間は、いうなれば大きな密室。あるいは嵐の山荘である。部外者の犯行はあり得ず、すべての人間が顔見知りというなかで凶器はどのように消え失せ、アリバイはどのように構築されたのか。
 謎の導入としては申し分なく、出島という地を活かした仕掛けもまたよし。正直、トリックはそれほど大したものではないけれど、真相はかなり意外であり、出島でなければ成立しないミステリを楽しめる。

 また、出島ならではの人間模様が物語に奥行きを与えている。
 とにかく登場人物が多彩である。主人公の通詞、浦恒助は周囲からは覇気に欠けるように見られているが、実は海外への憧れを秘めた青年。お幸は美人で気立ても良いが、合いの子と蔑まされ、その出自から出島から出ることもできない悲しい身である。
 さらには日本人やオランダ人からも疎まれている、転びキリシタンのポルトガル人通詞。植民地から奴隷として連れてこられた現地民、隠れキリシタンの遊女、色狂いで吝嗇の通詞、暗躍する大工、貿易の実権を握るひと癖ありそう商人などなど。
 まさに出島でなければ登場できない人物たちばかり。本作ではそんな人々の生活、そして生き様が実に丁寧に描かれており、それだけでも楽しく読めるほどだ。

 最後に出島そのものがもつ負の魅力という側面。海外への唯一の門となる出島だが、その華やかなイメージとは裏腹に本質は閉鎖的であり、暗黒面もまた多い。そのため出島で暮らす人々の間には、どこか閉塞感や厭世観に似たものが漂っている。
 人々はその中でそれぞれの宿命を抱えて生きている。そして各人の思惑が出島という空間と相容れなくなったとき、悲劇が起こる。多岐川恭はその絡め方がとてつもなく巧いのである。ひとつの事件を通して、当時の出島が抱えていた問題が次々と明らかになる展開はまさに職人技である。
 真相が明かされ、ラストへとつながるくだりに至ってはもう圧巻。ほろ苦さと希望がないまぜになり、言いようのない感動を味わえるだろう。

 ※蛇足
 本作を読むにあたっては出島についての予備知識が多少あると、スムーズに物語世界に入り込めてよろしいかと。
 通詞=通訳を主とする役人、甲比丹(カピタン)=オランダ商館長、ヘトル=オランダ次席商館長、乙名=出島の交易にあたった役人、といった具合に固有の用語が多いし、出島の地図や制度まで頭に入っているとかなり入りやすい。
 管理人などは20〜30ページほど読んだあたりでこりゃまずいと、恥ずかしながら以下のページで少し学生時代の復習をしたほどである(苦笑)。
http://www.city.nagasaki.lg.jp/dejima/


マイクル・コナリー『証言拒否 リンカーン弁護士(下)』(講談社文庫)

 マイクル・コナリーの『証言拒否 リンカーン弁護士』、下巻も読了。

 今回は徹底した法廷ミステリである。2011年の作品だが、当時アメリカで大きく取りあげられていたサブプライムローンの問題を背景に、持ち家の差し押さえを受けた女性が、その恨みから銀行副社長を殺害したという事件を扱っている。
 この容疑者の女性がなかなか癖のある人物で、殺人容疑を受けているにもかかわらずスタンドプレーが多く、事件の映画化の誘いに乗って後援者まで獲得したリする。
 そんな中で我らがリンカーン弁護士のミッキー・ハラーは遂に本作で事務所を構え、スタッフとともにチームでこの難事件に取り組んでいく。

 証言拒否(下)

 基本的にはいつもどおり安心して読める作品である。
 上下巻ながらほぼだれることなく読ませる力はさすがにコナリー。特にミッキー・ハラーものはボッシュものよりライトな味付けということもあって、非常にテンポ良くストーリーを運んでいく。
 もちろん読みどころは、メインストーリーとなる検察側と弁護側の攻防である。最初はジャブの応酬ながら、徐々に決まる互いのクリーンヒット。そして最終的にハラーが狙っていた逆転パンチが明かされるところは非常に鮮やかだ。

 また、メインストーリー以外にも物語を膨らませるサイドストーリーたるエピソードがいくつかあるのだが、それらエピソードの出し入れと本筋への絡ませ方が巧い。
 例えばハラーと元妻の検事補マギーとのロマンスなどは、愛情と仕事上の関係が入り混じって、最終的にはハラーの生き方や考え方そのものを問う流れとなる。シリーズとしては決して小さくない要素なのだが、決して本筋を邪魔することなく、それでいて事件にも影響を与える部分もあり、このバランスが絶妙なのである。

 これだけでも十分法廷ミステリとしては成功なのだが、コナリーは例によって駄目押しともいうべきどんでん返しを加えている。ところが、この駄目押しが実はいただけない。
 もちろんストーリーとしての驚きはあるけれど、肝心のトリックがしょぼいのである。そもそもそんな程度の仕掛けなら公判中に誰も言い出さない方がおかしいし、そういう不安定な要素を含んだまま判決がおりてしまう裁判制度にも疑問が残る。
 ストーリーやテーマとしては非常に意味あるものなのだが、その手段がコナリーらしくない拙さ。実に残念。

 したがって全体に満足できる作品ではあるが、今回ばかりはラストが大きく足を引っ張って、個人的には70点といったところ。
 ちなみにやや古い作品ではあるが、本作を読んでウィリアム・ディール『真実の行方』を思い出した。リチャード・ギア主演で映画化もされたはずだが、法廷ミステリとサイコミステリを合わせたようなタイプでおすすめ。


マイクル・コナリー『証言拒否 リンカーン弁護士(上)』(講談社文庫)

 本日の読了本はマイクル・コナリーの『証言拒否』を上巻まで。リンカーンを事務所代わりにして刑事弁護に奔走するミッキー・ハラー・シリーズの四作目。
 ハリー・ボッシュとの共演がしばらく続き、どうしても事件とは別方面の興味で引っ張ってきた印象もあるが、本作は久しぶりにハラー独自の物語のようだ。

 証言拒否(上)

 今回の依頼人はシングルマザーの女教師リサ。ローン未払いを理由に家を差し押さえられた彼女に対し、ハラーは銀行の違法性を主張して訴訟に乗り出す。だがひとつ問題があった。彼女は同じような立場の仲間を集め、銀行の違法性に抗議するデモを繰り返すなど暴走癖があり、非常に取り扱いが難しい依頼人だったのだ。
 そんな中、当該銀行の副社長を撲殺した容疑でリサが逮捕される。ハラーは新人弁護士や腕利きの調査員とともに弁護に打って出るが、彼女の暴走は止まらず、事件の映画化を狙うプロデューサーまでを後継者として引き入れてしまう……。

 今回はシリーズ原点に立ち返るというか、本格的な法廷ミステリの様相である。検察側との対決も法廷内外でばちばち行われ、上巻ではまさに一進一退。ここに想定外の問題が降りかかってきて……というのはある意味お約束だが、それらをバランス良く配して非常にリーダビリティが高い。
 ま、詳しい感想は下巻読了時に。


ダリオ・アルジェント『サスペリアPART2/紅い深淵』

 DVDで『サスペリアPART2/紅い深淵』を視聴。ダリオ・アルジェント監督による1975年の作品である。何を今頃こんな中途半端に古い映画を観たかというと、先日読んだ『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』の影響である。実は同書で数あるミステリ映画の一位に輝いたのが、この『サスペリアPART2/紅い深淵』なのだ。

 おいおい、ちょっと待て、『サスペリア』ってホラー映画じゃなかったっけ?という方もいると思うが、本作は原題を『Profondo rosso』といい、何を隠そう(いや別に隠す必要もないのだが)、『サスペリア』よりも以前に作られた純粋なサスペンス映画であり、オカルト要素は一切ない。それどころか『サスペリア』とストーリ−的な関係もまったくなく、完全に別物の映画なのである。
 ホラー映画のファンには常識なのだが、日本では先に公開された ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』がヒットしたせいで、日本での配給会社がその人気にあやかるべく、同監督のすでにあった映画『Profondo rosso』を引っ張り出していかにも続編的なタイトルをつけて公開したのである。

 で、『サスペリアPART2/紅い深淵』だが、先に書いたように本作は純粋なサスペンス映画である。しかも『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』で一位に輝いたように、ミステリとしてかなり上質の作品なのである。
 などと知ったようなことを書いている管理人も、実はこの映画がそこまで凄かったという印象はあまりなかった(苦笑)。もちろん面白かった記憶はあるのだが細部はほとんど覚えておらず、一位と言われてもピンとこなかったのが正直なところである。
 これではいかんだろうというわけで、わざわざDVDを購入し、あらためて視聴した次第である。

 サスペリアPART2:紅い深淵

 まずはストーリー。
 プロローグとして挿入されるのが、ある家でクリスマスの夜に起こった出来事である。レコードで子供の楽しげな歌が流れる中、子供の叫び声が響き、床には血まみれの包丁。そして、その包丁に近づく子供の足。何らかの惨劇が行われたことを暗示しつつ、物語はとあるホールへと変わる。
 そのホールで行われているのは超心霊学会で、テレパシーの持ち主であるヘルガの公演の真っ最中であった。ところが突如、ヘルガが悲鳴をあげる。聴衆のなかに過去に殺人を犯した者がいて、その人物は再び人を殺そうとしているというのである。
 その夜のこと。ヘルガがホテルの一室で電話をしていると、どこからともなく子供の歌が聞こえてきた。不審に思ったヘルガは邪悪な者の存在に気づいたが時すでに遅く、彼女は何者かの手によって惨殺される。
 その場面を屋外から目にしていた一人の男がいた。たまたまホテルの前で、しがないピアニストの友人カルロと立ち話をしていた同じくピアニストのマークだった。マークはヘルガがホテルの窓際で殺される瞬間を目撃し、急いで部屋に向かうが、現場には事切れたヘルガの姿しかなかった。
 やがて警察も駆けつけ、警察と部屋を検分していたマークはある違和感を覚える。それは部屋にかけられた不気味な絵の数々だった。自分が現場に来たときにあったはずの絵が一枚なくなっているのではないか?
 事件に興味を持ったマークは独自に調査を開始するが……。

 いやあ、なるほどねえ。こう来ましたか。
 犯人と真相はなんとなく覚えていたが、あらためて観るとけっこう衝撃的ではないか。しかも、ただびっくりするだけではない。プロットが非常に練られているうえに、伏線をガンガン張りまくっているのが凄い。真相を知ったときに、ああ、あれはああいう意味であったかと、すとんと腹に落ちていく。
 ミステリ的なギミックもなかなかのもので、特に冒頭から引っ張る殺人現場の絵の謎はうまい。これなど小説でやっても大した効果は得られないが、映画では実に有効。映像ならではの強みである。
 また、映画ならではの部分でいうと、中盤で提示される殺人場面を描いていると思われる子供の描いた絵のネタもいい。主人公たちが発見するその絵が、実は全体の一部でしかなく、これを効果的に見せて、なおかつ新たな疑問を観る側に生じさせるテクニックなど実に心憎い。
 他にもバスルームのダイイング・メッセージなども仕掛けとしては面白い(ただ、その中身はいまひとつであるが)。

 世界観の作り方も実に堂に入ったものだ。原題にもある”rosso”(赤)、さらには”絞首刑”というイメージを全編に擦り込ませて雰囲気を盛り上げるが、実はもっと素晴らしいのが、それらの表面的なイメージの下に性や男女の問題を隠しテーマとして含ませていることだ。これがまたいくつものエピソードを何層にも重ねることで、物語に奥行きを与えている。
 ここを詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが、こういう描き方をすることでより世界観がしっかり構築されているように思える。

 疵もないではない。完全に余計としか思えないアクションシーンを入れたり、BGMがちぐはぐだったり、主人公がどうにも不用心過ぎるなど、全体に作りが荒っぽいし、バランスも多少悪い。早い話がいかにもB級然とした作りなのである。
 ただ、そんなところは多少なりとも我慢して観るべきだろう。そういう欠点を含めてもお釣りは十分にくる。
 まあ、正直な話、さすがにすべてのミステリ映画で一位とは思わないが(笑)、ベスト20クラスの力は確かにある。どんでん返しの効いたミステリ映画が好きなら、一度は見ておいて損はない。


ジョン・ロード『ラリーレースの惨劇』(論創海外ミステリ)

 ジョン・ロードの『ラリーレースの惨劇』を読む。おなじみ論創海外ミステリからの一冊。

 まずはストーリー。王位自動車クラブが主宰する英国ラリー大会。ロバートは友人のリチャード、さらにはナビゲーターとしてプリーストリー博士の秘書ハロルドとチームを組み、上位入賞を狙っていた。
 ところが霧のせいでチェックポイント通過は大幅に遅れ、挙句に溝に脱輪したラリーカーを発見する三人。おまけにその事故現場では死体まで発見し、とうとうレースを中断する羽目になる。
 しかし、厄介事はそれだけでは終わらなかった。当初はレース中の単純な事故と思われた一件だったが、不審な点が浮かび上がってきて……。

 ラリーレースの惨劇

 ジョン・ロードといえば英国の本格探偵小説を代表する一人ながら、作風の地味さや物語の単調なところが勝ちすぎて、日本では人気・評価ともいまひとつの作家である。
 しかしながら本作はなんとカーラリーをネタにした作品。素材としてはなかなか派手なので、「もしかするとこれは今まで読んだものとは異なるかも」とは思っていたが、まあ、結論からするとそれほど大きな違いはなかった(苦笑)。
 序盤こそラリーを舞台にしており動きもあるので、掴みとしては悪くない。ところが二十ページあまりで事件が発覚すると、あっという間にいつものロード、すなわち地道な捜査や推理の積み重ねに逆戻りである。トリックや犯人の意外性なども含め、甘くつけてもせいぜい六十点ぐらいであり、決して期待して読むような作品ではないだろう。

 ただ、『ハーレー街の死』や『プレード街の殺人』などに比べると、多少は読ませる感じは受けた。その理由を聞かれても、実ははっきり答えるのが難しいのだが、強いて言えばストーリーのテンポの良さか。
 いつものパターンだと推理による試行錯誤がストーリーの流れまで止めたり分断したりするところがあるのだが、本作では探偵役こそいつものプリーストリー博士ながら、実際に捜査を進めるのは警察のハンスリット警視や秘書のハロルド。彼らの捜査がまずまず良いテンポで、それを受けてのプリーストリー博士の推理という展開が、地味ながらストーリーに一定のリズムを作ったのではないだろうか。まあ、あくまで印象なので断言はできないけれど。

 まあ、管理人などはクラシックなミステリであれば、とりあえず読んでみたいと考える人間なので、今後も質がどうあれロードの作品は読みたいのだが、ううむ、どこまで続けてくれるのやら。

 なお、蛇足ながら本作の邦題にある「ラリーレース」という用語は気になる。確かに厳密にいうとラリ−はレースの一種なのだが、通常、モータースポーツではレースとラリーは別物である。
 つまりサーキットで走行タイムを競うのがレース、一方のラリーは一般公道を用い、決められたタイムにしたがって走るというものである(これ以外にもラリーにはいろんな勝敗ルールがあるけれど)。
 だから邦題をつけるならラリーとレースの並記は明らかにおかしい。邦題を活かすならそのまま『ラリーの惨劇』、語呂が悪ければ『カーラリーの惨劇』あたりだろう。まあ、個人的には「惨劇」というのも少々大げさな感じはするのだが。


『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』(洋泉社MOOK)

 先週に続いて、今週も『シン・ゴジラ』を観てしまう。今回はいろいろ復習もしたので、さらにポイントを細かく楽しめたのがよかった。
 帰りには買い逃していた『横溝正史&金田一耕助シリーズDVDコレクション』の38巻と39巻を購入。買ってはいるが、これいつ観るんだ。007鑑賞計画も途中で止まってしまっているのでそろそろ再開したいのだけれど、映画やDVDは読書以上に時間をガッツリとられるので面倒だ。

 書店では、たまたま店頭で『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』を見つけ、最近、この手のガイドブックを買っていなかったなぁと思い、とりあえず購入。

 最強ミステリ映画決定戦

 中身は映画ミステリのオールタイムベスト本で、このミスの映画版と思えば話が早い。ただ、構成はこのミスに比べてもはるかにシンプルで、映画関係者100人のアンケートをもとにしたランキングでベストテンまで紹介し、あとは各人のベストテン+コメントがほぼすべて。これに対談やコラムがいくつかといった案配である。

 基本的には映画秘宝らしく、とんがったというかやんちゃというか、要はウケ狙いのランキングが多くてこれが楽しい。オーソドックスなランキングは大手に任せ、やはり映画秘宝はこの路線でなくては。構成的には芸がなくても、ランキングとコメントだけでも十分に堪能できる。
 この手のガイドブックで一番求められるのは、未見の映画を見たくなる衝動をどれだけ駆り立ててくれるかだと個人的には思っているのだが、それは間違いなく満たしてくれるだろう。

 ちなみに一位にはかなり意外な作品が入ってきて、メジャーどころでランキングをやってもまずこの結果にはならないだろう。もちろん作品自体は素晴らしいけれども、なんとなく一位にしにくい作品なんだよなぁ(苦笑)。
 まあ、どんな作品が一位になったのか、気になる人は店頭でご確認を。

 最後にひとつだけ注文をつけておくと、相変わらず洋泉社MOOKの誌面デザインやレイアウトのセンスはひどくて損をしている。このB級のノリを活かしたいという意向もあるのだろうが、それにしても。
 ファッショナブルに作れとかは言わない。せめて普通に読みやすいデザインにできないものだろうか。ほんと、もったいない。


江戸川乱歩『明智小五郎事件簿 II 「一寸法師」「何者」』(集英社文庫)

 江戸川乱歩が生んだ名探偵・明智小五郎の活躍を物語の発生順に並べたシリーズの第二巻『明智小五郎事件簿 II 「一寸法師」「何者」 』を読む。

 明智小五郎事件簿II

  「D坂の殺人事件」で明智小五郎を颯爽とデビューさせた江戸川乱歩は、以後1925年から1926年にかけて矢継ぎ早に傑作を発表している。「心理試験」 「黒手組」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「火星の運河」『パノラマ島奇談』などなど、もう枚挙にいとまがないほどだが、トリックやアイディ アに優れた本格もの以上に目立ったのが、エログロや猟奇、残虐趣味を押し出した変格ものだった。
 これらの要素をストーリーの面白さに組み込んで昇華させたものが、後の『蜘蛛男』をはじめとした通俗長篇につながるのだが、そんな通俗長篇の先駆け的な作品が本書に収録されている中篇 「一寸法師」だろう。

 こんな話。小林紋三はある夜、浅草公園で子供のような背丈の男が風呂敷包みから人間の腕を落としたところを目撃する。小林が思わず男の後を追跡すると、男は養源寺という寺に入っていった。
 翌朝、昨夜のことが気になった小林は養源寺を訪ねるが、寺の住職はそんな男に見覚えはないという。その帰り道、小林は実業家・山野大五郎の夫人・百合枝に出会う。彼女は娘の三千子が行方不明になったため、小林の友人でもある探偵の明智小五郎を紹介してほしいと頼み込む。

 うむむ、久々に読んだが、やはり強烈だ。
 今となっては差別表現のオンパレードだが、そこに乱歩の問題意識などはない。あえて人間のダークな部分をかざしてみせるとか、そんな感じでもない。自分の嗜好をストレートに押し出し、単に怪奇的な雰囲気を盛り上げるためだけの材料として使っている。だからこそ凄い。
 もちろん当時は乱歩に限らず、世間全体の差別問題に対する意識は相当低いし、むしろ奇形の見せ物小屋など、皆が普通に愉しんだことは理解しておくべきだろう。実際、本作もこの内容ながら朝日新聞に連載され、しかも読者には非常に好評だったという。
 今、読んでみても、そういったエログロ猟奇趣味の面白さは確かにあって、人には表立っていえない秘密の愉悦といったところだろう。

 また、明智の存在も面白い。一巻に収録されている作品ではまだ何となく浮世離れしたというか胡散臭さのある印象が強かったが、本作ではそういう味を残しつつも、既に名探偵然とした立ち振る舞いも多く見られる。
 この猟奇的な事件に恐れや怒りを特別見せることもなく、むしろ論理を前面に打ち出して飄々と謎解きするところなどは、まさに絵に描いたような古典的名探偵の姿である。この事件と明智の空気感の違いが絶妙で、結果的にいい味を出している。

  ちなみに乱歩自身はこの作品があまりに通俗的で、探偵小説として恥ずかしく出来であると思い、以後しばらくの間、休筆することになる。
 まあ探偵小説としてはぐだぐだなところもあるのだけれど、大衆の求めるところを的確につかんでいたことは間違いないし、猟奇要素を省くとプロットなどは意外にしっかりしており、そこまで卑下するものではないだろう。むしろ猟奇趣味と本格趣味が程よくミックスされており、明智の存在がその接着剤の役目を果たしているようにも思える。

 もうひとつの収録作「何者」は、乱歩がその休筆期間を経て、『陰獣』で華々しく復活した後に発表された短編。こちらは打って変わって、猟奇趣味を排した真っ当な本格探偵小説である。
 すでに『蜘蛛男』の連載も始まり、本格的に通俗長篇にシフトし始めた頃に書かれているのだが、こういう両極端な作品を同時進行しているのは面白い。乱歩自身もこちらは気に入っていたようだが、実際、かなりのハイレベルな作品で、明智と犯人の対決というお馴染みの構図も鮮やか。

 なお、このあたり解説で法月綸太郎氏が上手いことを書いているので、興味ある方はぜひどうぞ。また、平山雄一氏の「明智小五郎年代記」も痒いところに手が届く解説ぶりで、物語の時代特定だけでなく、時代背景を理解する上でも大変重宝する。解説含めておすすめのシリーズである。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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