DVDで『サスペリアPART2/紅い深淵』を視聴。ダリオ・アルジェント監督による1975年の作品である。何を今頃こんな中途半端に古い映画を観たかというと、先日読んだ『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』の影響である。実は同書で数あるミステリ映画の一位に輝いたのが、この『サスペリアPART2/紅い深淵』なのだ。
おいおい、ちょっと待て、『サスペリア』ってホラー映画じゃなかったっけ?という方もいると思うが、本作は原題を『Profondo rosso』といい、何を隠そう(いや別に隠す必要もないのだが)、『サスペリア』よりも以前に作られた純粋なサスペンス映画であり、オカルト要素は一切ない。それどころか『サスペリア』とストーリ−的な関係もまったくなく、完全に別物の映画なのである。
ホラー映画のファンには常識なのだが、日本では先に公開された ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』がヒットしたせいで、日本での配給会社がその人気にあやかるべく、同監督のすでにあった映画『Profondo rosso』を引っ張り出していかにも続編的なタイトルをつけて公開したのである。
で、『サスペリアPART2/紅い深淵』だが、先に書いたように本作は純粋なサスペンス映画である。しかも『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』で一位に輝いたように、ミステリとしてかなり上質の作品なのである。
などと知ったようなことを書いている管理人も、実はこの映画がそこまで凄かったという印象はあまりなかった(苦笑)。もちろん面白かった記憶はあるのだが細部はほとんど覚えておらず、一位と言われてもピンとこなかったのが正直なところである。
これではいかんだろうというわけで、わざわざDVDを購入し、あらためて視聴した次第である。

まずはストーリー。
プロローグとして挿入されるのが、ある家でクリスマスの夜に起こった出来事である。レコードで子供の楽しげな歌が流れる中、子供の叫び声が響き、床には血まみれの包丁。そして、その包丁に近づく子供の足。何らかの惨劇が行われたことを暗示しつつ、物語はとあるホールへと変わる。
そのホールで行われているのは超心霊学会で、テレパシーの持ち主であるヘルガの公演の真っ最中であった。ところが突如、ヘルガが悲鳴をあげる。聴衆のなかに過去に殺人を犯した者がいて、その人物は再び人を殺そうとしているというのである。
その夜のこと。ヘルガがホテルの一室で電話をしていると、どこからともなく子供の歌が聞こえてきた。不審に思ったヘルガは邪悪な者の存在に気づいたが時すでに遅く、彼女は何者かの手によって惨殺される。
その場面を屋外から目にしていた一人の男がいた。たまたまホテルの前で、しがないピアニストの友人カルロと立ち話をしていた同じくピアニストのマークだった。マークはヘルガがホテルの窓際で殺される瞬間を目撃し、急いで部屋に向かうが、現場には事切れたヘルガの姿しかなかった。
やがて警察も駆けつけ、警察と部屋を検分していたマークはある違和感を覚える。それは部屋にかけられた不気味な絵の数々だった。自分が現場に来たときにあったはずの絵が一枚なくなっているのではないか?
事件に興味を持ったマークは独自に調査を開始するが……。
いやあ、なるほどねえ。こう来ましたか。
犯人と真相はなんとなく覚えていたが、あらためて観るとけっこう衝撃的ではないか。しかも、ただびっくりするだけではない。プロットが非常に練られているうえに、伏線をガンガン張りまくっているのが凄い。真相を知ったときに、ああ、あれはああいう意味であったかと、すとんと腹に落ちていく。
ミステリ的なギミックもなかなかのもので、特に冒頭から引っ張る殺人現場の絵の謎はうまい。これなど小説でやっても大した効果は得られないが、映画では実に有効。映像ならではの強みである。
また、映画ならではの部分でいうと、中盤で提示される殺人場面を描いていると思われる子供の描いた絵のネタもいい。主人公たちが発見するその絵が、実は全体の一部でしかなく、これを効果的に見せて、なおかつ新たな疑問を観る側に生じさせるテクニックなど実に心憎い。
他にもバスルームのダイイング・メッセージなども仕掛けとしては面白い(ただ、その中身はいまひとつであるが)。
世界観の作り方も実に堂に入ったものだ。原題にもある”rosso”(赤)、さらには”絞首刑”というイメージを全編に擦り込ませて雰囲気を盛り上げるが、実はもっと素晴らしいのが、それらの表面的なイメージの下に性や男女の問題を隠しテーマとして含ませていることだ。これがまたいくつものエピソードを何層にも重ねることで、物語に奥行きを与えている。
ここを詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが、こういう描き方をすることでより世界観がしっかり構築されているように思える。
疵もないではない。完全に余計としか思えないアクションシーンを入れたり、BGMがちぐはぐだったり、主人公がどうにも不用心過ぎるなど、全体に作りが荒っぽいし、バランスも多少悪い。早い話がいかにもB級然とした作りなのである。
ただ、そんなところは多少なりとも我慢して観るべきだろう。そういう欠点を含めてもお釣りは十分にくる。
まあ、正直な話、さすがにすべてのミステリ映画で一位とは思わないが(笑)、ベスト20クラスの力は確かにある。どんでん返しの効いたミステリ映画が好きなら、一度は見ておいて損はない。