エラリー・クイーン名義で書かれたパイパーバックから、本格テイストの傑作?を集めた「エラリー・クイーン外典コレクション」の三冊目、『熱く冷たいアリバイ』を読む。
『チェスプレイヤーの密室』、『摩天楼のクローズドサークル』と読んできて、いずれもまあまあの出来だったが、掉尾を飾る本作の出来は果たしてどうか。
舞台はアメリカのとある小都市。その一角で暮らす四組の夫婦がいた。高校教師デイヴィッドとナンシーの夫妻、会計士ラリーとライラのコナー夫妻、医師ジャックとヴェラのリッチモンド夫妻、靴屋店主スタンリーとメイのウォルターズ夫妻である。
互いに思うところもあれど表面的にはなんとかご近所づきあいを保つ四組は、今宵も揃ってホームパーティーを催していたが、コナー夫妻の仲がどうやら危うくなっているらしく、最後は何やら気まずい雰囲気でお開きとなる。
その翌日。隣家のライラの様子が気になったナンシーがデイヴィッドやジャックを誘って様子を見にいくと、そこには何とライラの死体が。しかも夫のラリーまでもが事務所で死体となって発見される。
一見、ラリーがライラを殺害し、その後自殺を図ったかに見える事件だったが、捜査を担当したマスターズ警部補には納得できないところがあった……。

本作の代作者はフレッチャー・フローラ。ほとんど知らない作家だったが、〈マン・ハント〉や〈ヒッチコックマガジン〉等で活躍し、クイーンの代作も三冊ほどあるらしい。
ただ、ミステリ専業というわけではなく、また、ミステリにしても犯罪小説やサスペンス系がメインのようで、その評価も人物描写や文体というところにあったようだ。
実際、本作でも人物描写はなかなか達者で、ともすれば混乱しがちな四組の夫婦について、しっかり個性を持たせて描き分けている。
肝心のミステリとしての出来だが、タイトルにもあるとおりアリバイ崩しがメイン。フーダニット要素もちゃんと加えられており、本格プロパーでない割には手堅くまとめている。
だが、いかんせん中身が淡泊というか小粒というか。ストーリーや事件自体に魅力が乏しく、また、手堅くまとめてはいるものの、先が読みやすいという弱点はあるだろう。
ただ、実は一番気になったのは、そんな弱点よりも、むしろ四組の夫婦のキャラクターである。いまひとつ感情移入しにくい、どころか理解できない面があって、それはアメリカならではの人間関係のベタベタ感。全組、子供がいない夫婦とはいえ、他所の夫や妻に興味持ちすぎである(苦笑)。
極めつけはホームパーティーの場面。多少ハメを外すのは理解できるが、四組入り交じってキス合戦になるとか、もう意味がわからん(笑)。
当時のアメリカ中流家庭においてこれぐらいは普通だったのか、それとも誇張しているのか判断に迷うところだが、他の翻訳小説でもこんな描写はあまりないように思うので、もしかするとペイパーバックゆえのサービス精神の表れだったのかも。
というわけで、「エラリー・クイーン外典コレクション」のなかでは最も本格成分が高い気もするのだけれど、むしろクイーンらしさは一番感じられなかった作品。