高城高の『夜より黒きもの』を読む。
バブルに沸きかえる1980年代後半の札幌ススキノ。その夜の世界を描いた連作短編集『夜明け遠き街よ』の続編である。すでに三作目『眠りなき夜明け』も今年の六月頃に刊行されており、ススキノ三部作として完結しているようだ。
収録作は以下のとおり。独立した作品としても読めるが、エピソードや登場人物が相互にかかっているので、やはり通して読むほうがおすすめである。
「猫通りの鼠花火」
「針とポンプ」
「6Cのえにし」
「悲哀の黒服」
「企業舎弟の女」

主人公はキャバレー〈ニュータイガー〉の黒服・黒頭悠介。夜の街に生きるさまざまな男女のトラブルに巻き込まれる黒頭の活躍を通し、バブル当時のススキノのイメージが浮かび上がってゆくという趣向は前作どおり。
国全体がバブルに翻弄されていた時代、今とは比べ物にならないほど金が動いていた時代である。夜の世界の住人はそれを肌で感じていたはずで、堕ちてゆくもの、野心を実現させるもの、その落差もまた激しい。そんな人間模様を著者は比較的淡々とした筆致で描いてゆく。シャブ、地上げ、横領、ホステスの引き抜き合戦……そういう世界に縁がない人間にも、どこか惹きつけられる危険な魅力がそこにはある。
夜の世界を描く割には、それほど激しい事件が描かれるわけではない。また、上でも書いたように、その筆致も比較的淡々としている。
世の中自体が狂っていたようなバブルの時代を描くにしては意外な感じも受けるが、それはもちろん本作がハードボイルドであるからに他ならない。簡潔で乾いた文体、そしてあくまで客観的に。事実のみを第三者の目でクールに描くことで、内面や感情を表現していく。
前作ではそれでもまだピリピリした空気もあったが、本作はさらに洗練されている印象で、正直、管理人などはこの語り口だけでも十分満足。日本のハードボイルドは本場に比べるとどうしてもウェットな印象があるのだけれど、高城高はやはり別格である。
さて、残すは『眠りなき夜明け』となったが、ううむ、読むのがもったいないなぁ。