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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 01 2017

島田一男『黄金孔雀』(ゆまに書房)

 本日の読了本は島田一男の『黄金孔雀』。サブカル系の評論家、唐沢俊一氏が監修した〈カラサワ・コレクション〉からの一冊である。
 〈カラサワ・コレクション〉とは古本を趣味とする唐沢氏が古い少女小説を復刊した選集である。2003年から2004年にかけて四冊刊行されたが、そのうちの西条八十 『人食いバラ』と本書『黄金孔雀』がミステリ寄りの作品となっている。
 ちなみに〈カラサワ・コレクション〉は四冊で刊行が終了しているのだが、実は本書の最後には次回配本である島守俊夫の『宇宙探偵・星に消える子』の広告が載っている。いま現在、刊行された形跡はまったくないので、おそらくは売れ行き不振で頓挫したのだろう。「あっ、きこえる!  エメラルドすい星の、地球に近づく音が……」という惹句がなかなかに素敵だったので(笑)、ちょっと気になっていたのだが、なんとも残念なことだ。

 いきなり話がそれたが、さて島田一男の『黄金孔雀』である。島田一男のジュヴナイルというだけでレア度は高いが、中身もなかなか他所ではお目にかかれないような代物であった。

 こんな話。誕生日を明日に控えた真夜中のこと。小玉博士の一人娘ユリ子は庭の方から聞こえるパタパタという音で目を覚ました。不思議に思って窓を見やると、なんとそこには孔雀の覆面をした怪人の姿が! しかもその孔雀の怪人は自ら「黄金孔雀」と名乗り、ユリ子を守るために現れたのだという。
 驚くユリ子であったが、さらにそこへ現れたのが、額に角を生やした不気味な「一角仙人」であった。黄金孔雀に宣戦布告をした一角仙人の笑い声に、ユリ子は恐怖のあまり気を失ってしまう……。

 黄金孔雀

 のっけから敵味方の怪人が登場するという派手なオープニングだが、まず驚かされるのはその造形である。
 上のカバー絵の右側が敵の親玉「一角仙人」、左に小さく描かれている方が正義の怪人「黄金孔雀」なのだが、典型的な悪人面の一角仙人はいってみれば予想どおりでそれほどの驚きはない。
 むしろ注目は正義の怪人「黄金孔雀」である。体に西洋の鎧もどきをつけているのはいいとして、孔雀の覆面がやはり異様。とにかく頭があれではすごい邪魔としか思えないのだが。しかもどういう構造かわからないが、ちゃんと羽も広げるし。

 で、このアブノーマルな二人がユリ子に隠された秘密をめぐってユリ子争奪戦を繰り広げるというのが一応メインストーリー。ただし、実はそれだけでは終わらず、さらにはここにユリ子の親友ルミ子とそのお兄さんの名探偵・香月先生(本職は少年少女新聞の編集長)が加わり、三つ巴の展開となるのがなかなか面白い。
 他にも黄金孔雀の部下の少年パンド・ランガ、一角仙人の手下・一つ目行者など、個性的なキャラクターが目白押し。そんな彼らの丁々発止のやりとりでラストまで一気に突っ走ってくれる。
 なんせ昭和二十五から二十六年にかけて連載された小説である。ツッコミどころは山ほどあるけれど、まあ、それも含めて楽しみながら、古き良き時代の少女活劇小説の世界にどっぷり浸るのがよいだろう。
 なお、ミステリとしても予想以上にトリックを使っていたり、怪人の正体なども工夫していたりで、レベルはともかく(笑)、サービス精神にあふれているところは好感度大である。

 島田一男には他にもいろいろジュヴナイルを書いているのだが、ううむ、それこそ論創ミステリ叢書あたりでまとめて出してもらえないものだろうか。


ジョルジュ・シムノン『メグレと老婦人の謎』(河出文庫)

 カウンターが本日(昨日だったかも? 適当なのでよくわからんw)、100万を突破。おお、われながら凄いじゃないか。
 2007年にブログを立ち上げ、ちょうど十年ほどで達成したので年平均10万、一日平均300弱といったところ。こんな辺境ブログをお訪ねいただき、見てくれている方々には感謝しかございません。特にキリ番企画などまったく考えてはおリませんが、今後ともご愛読いただければ幸いです。



 さて、本日の読了本はジョルジュ・シムノンの『メグレと老婦人の謎』。1970年の作品でメグレものとしては最後期にあたる。

 メジスリー河岸で暮らす一人の老婦人。その彼女がメグレに用があると警視庁に日参していた。自分の留守中に誰かが忍び込んでいるというのだ。その証拠に家具が僅かだが動いているというが、盗まれたものは何もない。メグレは自分が出る幕もないと思い、若いラポワント刑事を対応させ、型どおりの調査は行わせた。
 だが、その数日後、老婦人が自分の部屋で殺害される。死因は窒息死。メグレは老婦人に対して自分がしてやれなかったことを悔やみながら捜査に取り組むことになる……。

 メグレと老婦人の謎

 後期のメグレものらしく、あまりミステリとして凝った内容ではない。謎の中心は、家具が動かされている理由はなぜか、つまり犯人の目的は何かというところなのだが、登場人物が少ない上に早々と手がかりが与えられるため、真相や犯人を想像するのはそれほど難しい話ではない。

 シムノンもことさら謎解きを重視しているわけではなく、読みどころは老婦人に最善の対応ができなかったことを悔やむメグレの心情だろう。部下に対応をさせているし、メグレにそれほど責任があるわけでもないのだが、結果として喉に刺さった小骨のようにメグレを苛む老婦人の死。
 それが影響しているのだろう。メグレは珍しく妻を散歩に誘ったり、一日フルに休日の相手をしたりするのだが、おそらくそれによって精神のバランスをとっているのである。こういう間接的な描写がやはりシムノンならではの巧さだ。
 ミステリとしていまひとつでも、こういうメグレが読めるのなら、ファンとしてはそれでOKといったところか。


木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』(彩流社)

 ガイドブックがけっこう好きだという話は過去に何度か書いているが、またまた興味深いガイドブックがあったので紹介したい。
 ものは木原善彦の『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』。いわゆる「実権小説」に絞ったガイドブックである。著者は米文学者で、トマス・ピンチョンの研究者としても知られている人だ。

 実験する小説たち

 まず実験小説って何?という話なのだが、簡単にいうと、小説そのものの可能性を切り開き、創作上の実験的な試みを追求する小説のことである。
 純文学でも大衆文学でもいいのだけれど、いわゆる「普通の小説」は、人間の心理や営みを探求したり、物語の面白さを追求する。しかし、「実験小説」は言語による芸術としての存在そのものがテーマ。要は何を描くかではなく、どのように描くか。肝はここである。

 本書では、時系列、言葉遊び、メタフィクション、視覚的企て、マルチメディア性等々……さまざまな切り口で描かれた作品が、内容紹介、その狙い、読みどころ、おすすめの類書に至るまで、けっこうな濃度で解説されており、実に楽しい。
 相当踏み込んだところまで解説しているのだけれど、作品の性質上、ネタバレなどはあまり気にならず、むしろその詳細な解説のおかげで、ますますこれは読んでみたいという気持ちにさせてくれる。

 例えば、ウォルター・アビッシュの『アルファベット式のアフリカ』は、全五十二章から成っているのだけれど、第一章では a で始まる単語しか使わずに書かれている。そして第二章では a と b から始まる単語、そして第三章ではa と b と c という具合に、少しずつ使える単語が増えてゆく仕組みなのだ(ちなみに第二十六章ではすべての語が使えるようになるが、次の章からは逆戻りしてひとつずつ減ってゆく)。
 また、マーティン・エイミスの『時の矢』では、主人公の人生が死から誕生へと、まったく逆回しで展開される。

 こうした紹介だけではなかなかその面白さも伝わりにくいのだが、本書では訳文はもちろんときには原文も合わせて一部抜粋してくれるので助かる。とはいえ、これらの小説が本当に成立しているのか、よしんば成立しているとしても、果たして成功しているのか、正直、不明確なところも多いのは確かだ。
 ただ、小説の可能性を探る実験として、その試みはどれもこれもむちゃくちゃ面白い。少なくとも筒井康隆や清水義範あたりの作品が好きな人なら、この豊穣なる実験小説の恵みに身悶えして喜ぶことは間違いない。

 管理人も今でこそミステリ中心で読んでいるが、実は若いときはこういうものを好んで読んでいる時期があって、それは圧倒的に筒井康隆の影響だった。
 本書でも紹介されている『残像に口紅を』をはじめ『朝のガスパール』や『虚航船団』『虚人たち』など、筒井作品だけでも枚挙にいとまがないほどで、さらには筒井のエッセイ本をきっかけに南米文学やポストモダン文学なども読みふけった記憶がある。

 とはいえ管理人の文学的知識などたかが知れている。本書はそんな人間が読んでも理解できる程度にわかりやすく書かれているのもありがたい。
 とにかくわかりやすくて刺激的な一冊。むしろ普段は小説など読まない人、あるいは最近めっきり読書しなくなった人が読んだ方が、より楽しめるのかも知れない。


マージェリー・アリンガム『クリスマスの朝に キャンピオン氏の事件簿III』(創元推理文庫)

 マージェリー・アリンガムの『クリスマスの朝に キャンピオン氏の事件簿III』を読む。
 創元推理文庫で着々と進んでいる、アリンガムの生んだ名探偵アルバート・キャンピオン氏の日本版オリジナル短編集もこれで三冊目。バラエティに富んだ内容で、質の方も比較的安定しており、クラシック本格ファンには安心して読める数少ない良シリーズといえるだろう。

 さて、この短編シリーズはほぼ年代順に編まれているが、本書では趣を変えて、英国はサフォーク州キープセイク付近を舞台にした中編と短編一作ずつという構成とのこと。収録作は以下のとおり。

The Case of the Late Pig「今は亡き豚野郎(ピッグ)の事件」
On Christmas Day in the Morning「クリスマスの朝に」

 クリスマスの朝に

 クリスティやセイヤーズと並ぶ英国四大女流ミステリ作家の一人ながら、その本質は本格探偵小説とは異なるところにあるのがアリンガムの魅力。そのバラエティ豊かな作風や文学的な芳香などが混じり合って、最初の頃はどういう作家なのか本当に掴みにくかったのだが、最近ではこの短編集のおかげもあって、ようやく腹に落ちてきた感じである。
 ただ、本書に収められた中編「今は亡き豚野郎(ピッグ)の事件」は意外なほどにオーソドックスな本格ミステリであった。

 物語はキャンピオンの小学校時代の同級生の新聞の死亡記事で幕を開ける。卑劣ないじめっ子だった同級生の最期を見送ろうと葬式に出席したキャンピオンだったが、その半年後、ある事件の捜査に協力したとき、その同級生の死体にまたもや遭遇する……。

 そこまで際立ったトリックでもないので、だいたいのところは読めるのだが、魅力的な冒頭の謎や適度なユーモア、個性的な登場人物にも彩られて、リーデビリティは決して低くない。
 真犯人のアイディアもさることながら、キャンピオンを事件に導いていく手紙の存在と真相が味付けとして効いている。こういうサイドストーリーがあるだけで、物語の質がぐっと上がるのだ。

 短編「クリスマスの朝に」は小品ながらほのぼのとした余韻があり、クリスマス・ストーリーとしては申し分なし。前の短編集でもそうだったが、こういうハートウォーミングな物語、アリンガムは実に巧い。
 「今は亡き豚野郎(ピッグ)の事件」だけでも悪くはないのだが、本作との合わせ技で満足できる一冊となった。英国の本格好きならもちろん買いであろう。


森下雨村『消えたダイヤ』(河出文庫)

 森下雨村の『消えたダイヤ』を読む。
 昨年の夏頃、唐突に河出文庫から『白骨の処女』が刊行されたときも驚いたけれど、それから程なくして本書『消えたダイヤ』が出たときはもっと驚いた。つまりこれって『白骨の処女』がそこそこ売れたということだよねぇ?
 当時の他の探偵作家に比べると意外にクセの少ない作品という印象のある雨村だが、むしろそれがかえって今の読者には新鮮なのか、確たる理由はわからないが、とりあえずこの調子で今後も続いてくれると嬉しいが。

 消えたダイヤ

 さて、まずはストーリー。
 大正××年、ウラジオストックから一路敦賀を目指していた定期船鳳栄馬丸が、暗礁に乗り上げるという海難事故を起こした。沈みゆく船から懸命に救命ボートで脱出しようとする乗客たち。その阿鼻叫喚のさなか、一人の少女に話かける男がいた。ボートには女性子供が優先されるから自分はもう助からない、どうか自分の代わりにこの貴重品をある人物に届けてくれというのだ。少女はその頼みを聞きいれ、荷物を受け取るとボートに乗り込んだのであった。
 ところ変わって東京は銀座のとあるカフェ。若いカップルの敏夫と咲子は退屈な毎日を嫌い、どこかに面白い仕事はないものかと、新聞に求職広告を出そうという話になる。
 ところが敏夫と別れて買い物へ向かおうとした咲子に、いきなり謎の男が話しかけてきた。なんとカフェで二人の会話を立ち聞きし、さっそく仕事話をもちかけてきたのだ。話によると、関西・北陸方面の病院を巡り、人を探してほしいというのだが……。

 というのが序盤の展開。話はここからどんどん転がり、ロシア・ロマノフ王朝に伝わるダイヤモンドをめぐり、敵味方入り乱れてのダイヤ争奪戦が繰り広げられるという一席。
 初代「新青年」編集長を勤めた森下雨村は日本に探偵小説を定着させるべく、一般の読者に受け入れられやすい通俗的なスリラーを量産した作家でもあるのだが、本書もその例に漏れない。本格要素はほとんどないけれど、生きのいいキャラクターとスピーディーな展開で、読者を退屈させることなく物語を進めていく。

 もちろんそれなりの欠点はある。御都合主義は多いし、犯人の説明的すぎる独白やラストでようやく明らかになる事件の背景など、古くさい演出も少なくはない。
 しかし、それらに目をつぶれば、上でも書いたようにストーリーは走っているし、ラストでのどんでん返しもちゃんと用意されている(ほとんど予想どおりなのはご愛敬)など、スリラーとしては悪くない仕上がりである。総合点では『白骨の処女』のほうが上かなとは思うが、単に楽しさのみを求めるなら『消えたダイヤ』といったところか。

 ちなみに解説を読んでちょっと驚いたのだが、本作はもともと少女雑誌に連載された作品とのこと。
 雨村の作品は当時の探偵小説にしては珍しくスマートな印象があって、本作もとりわけ健全だなぁと感じていたのだが、まさか少女向けだとは。
 確かに言われると思い当たる点はいくつかあるのだけれど、文章自体もそれほど少女向けという感じでもないし、読んでいる間はまったく気がつかなかった。本書最大のトリックはもしかしたらこれかもしれない(苦笑)。


戸川安宣『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)

 いやあ、いい本を読んだ。どこをとっても興味深い記事が満載なのである。もう素晴らしいとしかいいようがない。
 その本というのが、戸川安宣による『ぼくのミステリ・クロニクル』だ。

 ぼくのミステリ・クロニクル

 著者の名前は、ディープなミステリマニアなら知っていて当然、一般的なミステリ好きでも一度はその名前ぐらい聞いたことがあるのではないか。
 かの東京創元社で長らく編集者として活躍し、数多くの企画や新人作家の発掘を通して、戦後の日本ミステリ界を引っ張ってきた名編集者である。最後は社長にも就任し、退社後もミステリ専門書店「TRICK+TRAP」の運営に携わるなど、ミステリに関する仕事のうち、ミステリを書くこと以外はすべて体験した人物。
 その日本ミステリ界の偉大なる黒子、戸川氏の歴史をまとめたのが本書である。

 ミステリを書くこと以外はすべて体験した、と書いたが、それは目次にも顕れている。
 すなわち第一章「読む」では、安宣少年が本と出会い、ミステリに目覚め、やがて立教大学に進学し、ミステリ・クラブを創設して積極的にミステリと関わる時代を回想する。
 続く第二章「編む」は、戸川氏が就職した東京創元社での編集者時代。ペーペーの新人時代から始まり、最後は社長にまで上り詰めるが、その活動の中心は常に編集業である。
 最後の第三章「売る」では、ミステリ専門書店「TRICK+TRAP」で、本を売る側として活動した体験が語られる。

 一章、三章もいいが、やはり二章で明らかにされる内容が圧倒的だ。
 管理人もミステリについては小学生時代から読んできており、当然ながら創元推理文庫にはずいぶんお世話になった。書籍番号の変更、ジャンルマークの廃止、「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」の誕生、ゲームブックの誕生、日本人著者の起用、イエローブックスや創元ノヴェルズなど新叢書の企画、雑誌の登場など、すべてリアルタイムで見てきている。
 そして、そういったムーヴメントのほとんどに関わってきたのが戸川氏なのであり、それらの裏側が惜しげもなく披露されている。これ書いて大丈夫なの?というような内容もあったり、ときには関係者やライバル社に対してチクリとやることもあったり。あるいは逆に旧態然とした経営や仕事っぷりなど自分たちのダメな部分も浮き上がったり、まあよくぞ書いてくれましたということばかり。
 また、立教ミステリ・クラブなどを通じて、のちにミステリの世界で名をあげる方たちとの人脈が広がっていくあたりも面白い。

 本書は戸川氏の自伝的な本でもあると同時に、ミステリ好きなら誰もが知っている東京創元社の裏側を紐解いた本でもあり、そして戦後のミステリ出版史の重要な記録である。
 翻訳ミステリ好きなら必読。とにかく興味を持った人は、書店の店頭で適当に途中のページを開き、ぱらぱらと中身を少し読んでもらいたい。面白さは保証する。


シャーリイ・ジャクスン『なんでもない一日』(創元推理文庫)

 シャーリイ・ジャクスンの短編集『なんでもない一日』を読む。
 “奇妙な味”の書き手として知られる作者だが、ストレートな超常現象や恐怖などには頼らず、もっぱら日常の中で垣間見える人間心理の異常さを描くことが多い。意外に心温まる作品も少なくはないのだが、やはり印象に残るのは読後感の悪いものか(苦笑)。

 本書はそんなジャクスンの作品から、これまで単行本に未収録だったものに加え、死後に見つかった未発表原稿から精選されて刊行された作品集をベースに、さらに日本向けに厳選した作品をまとめたもの。落穂拾い的なものかと思いきや、十分に読みごたえのある一冊である。
 収録作は以下のとおり。

Preface: All I Can Remember「序文 思い出せること」
The Honeymoon of Mrs. Smith(Version I)「スミス夫人の蜜月(バージョン1)」
The Honeymoon of Mrs. Smith(Version II)「スミス夫人の蜜月(バージョン2)」
The Good Wife「よき妻」
The Mouse「ネズミ」
Lovers Meeting「逢瀬」
The Story We Used to Tell「お決まりの話題」
One Ordinary Day, with Peanuts「なんでもない日にピーナツを持って」
The Possibility of Evil「悪の可能性」
The Missing Girl「行方不明の少女」
A Great Voice Stilled「偉大な声も静まりぬ」
Summer Afternoon「夏の日の午後」
When Things Get Dark「おつらいときには」
Mrs. Anderson「アンダースン夫人」
Lord of the Castle「城の主(あるじ)」
On the House「店からのサービス」
Little Old Lady in Great Needs「貧しいおばあさん」
Mrs. Melville Makes a Purchase「メルヴィル夫人の買い物」
Journey with a Lady「レディとの旅」
All She Said was Yes「『はい』と一言」
Home「家」
The Smoking Room「喫煙室」
Indians Live in Tents「インディアンはテントで暮らす」
My Grandmother and the World of Cats「うちのおばあちゃんと猫たち」
Party of Boys「男の子たちのパーティ」
Arch-Criminal「不良少年」
Maybe It was the Car「車のせいかも」
My Recollections of S. B. Fairchild「S・B・フェアチャイルドの思い出」
Alone in a Den of Cubs「カブスカウトのデンで一人きり」
Epilogue: Fame「エピローグ 名声」

 なんでもない一日

 前半はシリアス、後半はコミカルというのが大まかな構成で、やはり本領発揮は前者に集中しているようだ。
 「スミス夫人の蜜月」バージョン違い二連発をはじめとし、「よき妻」、「ネズミ」、「なんでもない日にピーナツを持って」、「悪の可能性」、「行方不明の少女」と続く作品群は圧巻である。
 特に「ネズミ」、「行方不明の少女」の二作は、理解できそうですとんと落ちてこないわかりにくさが魅力。読者が自分なりの解釈に到達することで、より深い読後感を得ることができるといえるのではないか。プロット作りが巧みなジャクスンのこと、このわかりにくさは狙ってやっているはずである。

 また、わかりにくくはないけれども、「なんでもない日にピーナツを持って」のラストも実に印象に残る。それほど驚くようなオチではないのだが、「あああ、こう来るのか!?」と思わせるまったく予想外の展開が絶妙。ラストまでのなんでもない展開が活きているんだよなぁ。

 対して後半はユーモアが効いた作品で構成されているのだが、実はこちらのタイプも決してつまらないわけではない。作品の狙いからか、どうしてもネタがわかりやすくなってしまうため軽く見られがちだが、読後に残るざらっとした感じはシリアス作品と共通するところである。
 とりわけエッセイなのか小説なのか判然としない「男の子たちのパーティ」以降の五作は、斜に構えた子育てエッセイといったふうでちょっと面白い。

 ということでさすがジャクスン、割りきれなさが存分に発揮された作品ばかりで、決して読者の期待を裏切ることはない。おすすめ。


J・J・コニントン『レイナムパーヴァの災厄』(論創海外ミステリ)

 今年最初の一冊はJ・J・コニントンの『レイナムパーヴァの災厄』。
 作者は本格ミステリ黄金期に活躍した英国のミステリ作家。一昔前までは幻の作家扱いだったが、この十年で四冊が刊行され、ようやくその存在が知られるようになってきたのは喜ばしい。
 ただ、論創社から出ている本書と『九つの解決』はともかく、長崎出版の『或る豪邸主の死』は版元倒産によりすでに入手できるのは古書のみ、『當りくじ殺人事件』は私家版ゆえ一般的な流通がないことや少部数ということもあり、こちらも入手は難しいかもしれない。
 もともとニッチな世界ではあるので、クラシックミステリは出たらとりあえず買う。まずはこの習慣をお忘れなく。

 それはともかく『レイナムパーヴァの災厄』。まずはストーリーから。
 元警察本部長のクリントン・ドリフィールド卿は、田舎に引っ越した姉のもとを目指し、車を走らせていた。その途中で出会ったのが、一人の女性をめぐって喧嘩している二人の男。そして一人残された女性を送ろうとするも拒否され、訝しく思いながらもその場をあとにするクリントン。
 やがて姉の家へ到着したクリントンだが、そこでも交通事故のような事件、姪の結婚問題などに巻き込まれる。果たして背後ではいったい何が起こっているのか……。

 レイナムパーヴァの災厄

 これはまあ何という異色作。作者の狙いは相当に面白く、しかもクリントン・ドリフィールド卿を探偵役とするシリーズものでこれをやったことが素晴らしい。
 なんせ、あの有名作家やこの有名作家の某趣向よりも早く発表されているのである。それどころかこれをシリーズ半ばでやってしまうという暴挙(笑)。個人的には大いに評価したいところである。

 ただ、ネットでの評判を見ると、必ずしも好評価ばかりではなく、なかなか辛い評価も多いようだ。
 まあ、その気持ちはわからないでもない。結局、これを本格でやることの難しさというか。ぶっちゃけ推理の部分は雑だし、プロットもこなれていない印象で、要はとてもフェアな本格ミステリとは言えないのである。また、掴みは悪くないものの、中盤の展開がダレ気味なのも気になる。

 要はそういう欠点とラストの衝撃を天秤にかけて、どちらを取るかというところだろう。
 個人的にはいろいろあれども作者の稚気をこそ買いたい。管理人もこれが初コニントンだったので、残りもできるだけ早いうちに読んでみよう。


ギャレス・エドワーズ『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』

 それほど期待はしていなかったのだけれど、けっこう評判がよろしいようで、本日は立川シネマシティへ『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を観にいく。
 監督はハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』も撮ったギャレス・エドワーズ。キャストは正直、それほどのメジャーどころは出ていないのだけれど、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』に連なる物語だけに、4のキャラクターがここかしこに顔を出しているのがファンには嬉しいところだろう。

 さて、本作はスピンオフ作品とか外伝とかいわれているが、ストーリーとしては密接に本シリーズにつながっており、ナンバリングでいえば3.9というところ。
 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』では、帝国軍の宇宙要塞デス・スターの設計図を盗み出した反乱同盟軍が、レイア姫にその設計図を託したものの、レイア姫が帝国軍のダースベイダーに捕獲され……というところから幕を開ける。本作ではそのデス・スターの設計図をいったいどうやって盗み出せたのかという物語だ。

 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

 結論からいうと、なかなか楽しめた。
 本作は従来のシリーズとはやや作風を異にしているというか、スペースオペラというより普通の戦争映画、あるいはスター・ウォーズ版『七人の侍』とでもいった雰囲気を醸し出していて、そこがうまくツボにはまった感じだ。
 その大きなポイントになっているのがストーリーライン。本シリーズの設定に主人公ジン・アーソのドラマを絡めるところまでは予想の範囲内なのだが、意外にもそのドラマを中盤で早々に片付け、以降をシンプルにチームの戦いのドラマとしたところが好感度大。終盤はそれぞれの見せ場を作りつつ、一人また一人と倒れる中、最後に目的を達成するというのはあまりにベタなのだけれど非常に胸を打つものがある。考えてみると大物俳優を起用しなかったのも、このストーリーを活かすためかなとも思った次第。

 スピンオフをあまりやられてもしらけるが、本作に関してはOK。個人的にはエピソード1〜3、7よりも楽しめて満足の二時間だった。


謹賀新年

 新年あけましておめでとうございます。
 本年も皆様が素晴らしい読書ライフをおおくりできるよう心よりお祈り申し上げます。

 さて、新年一発目の更新だが、結局はそれほど本が読めていない年末年始である。暮れは二十九日から休みだったのだが、二十九、三十日と大掃除、三十一は正月用の買い出しと準備で昼間はほとんど使えず。夜は夜で美味しいお酒を飲みすぎてしまい、早々に寝てしまうこという体たらくである。
 ちなみに大晦日はがっつり紅白を観ていたが、いやあ、けっこうな予算がかかっているだろうに、ゴジラとタモリの無駄遣い感はすごかったなぁ(笑)。これ、SMAPが出ていたら、どういうふうに絡ませるつもりだったのだろう。それともSMAPが出場しなかったから、ああいう企画になったのか。どちらにせよNHKは根本的にショーの見せ方を考え直した方がよい。

 年が明けて一日からは寝正月。とはいえ雑煮作りは自分の担当なので、起床後はせっせと台所で働き、完成したら午前中から酒盛りである。いい加減酔いも回った頃、酔い覚ましも兼ねて初詣に出発。帰宅後は録画してあったRIZINを観ながら再び酒盛り。いや、これじゃ本は読めんよなぁ(苦笑)。
 ちなみにRIZINはゾクゾクするようなカードがあまりなかったので録画にしたのだけれど、所vsアーセン、川尻vsグレイシー、中井vs村田は見応えあったな。

 とりあえず明日は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を鑑賞すべく、立川シネマシティにネット予約を入れて今年最初の一日は終わるのであった。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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