ピエール・ルメートルの『天国でまた会おう』をとりあえず上巻まで読む。カミーユ・ヴェルーベン警部三部作ですっかり日本での人気も定着した感のあるルメートルだが、本作は2013年に発表したノンシリーズ作品である。

第一次世界大戦も終わりが近づいてきた1918年11月。西部戦線においてフランス軍の青年アルベールは、上官ブラデルの悪事に気づいたことで、戦場で生き埋めにされてしまう。そのとき彼を助けたのが同じ部隊に所属する青年エドゥアールだった。しかし、その直後、二人を爆発が襲い、エドゥアールは顔に大怪我を負ってしまう。
やがて終戦。しかし顔の傷が原因なのか、エドゥアールはなぜか家族のもとには帰らず、それどころか家族とのつながりを絶ちたいと願う。命の恩があるアルベールはやむを得ず書類を偽造し、エドゥアールを戦死したことにさせ、二人で共同生活を始めるのだが……。
非ミステリであることは知っていたが、これはいってみれば大河ドラマの趣か。戦争によって人生を変えられた男たちのドラマである。
上記のアルベールとエドゥアールがとりあえずの主人公だが、これにおそらく上官ブラデルも加えてよいだろう。真面目だが優柔不断で気弱なアルベール。実は資産家の息子で画家としての才能もあり、反骨精神もあるエドゥアール。目的のためなら手段を選ばない典型的な悪玉のブラデル、この三者三様の生き方が、大戦後の混沌としたパリを舞台に交錯する。
今のところはこれまで読んできた著者のどの作品とも雰囲気は違うけれど、重い物語のなかに独特のアイロニーやペーソスが見え隠れするのはルメートルらしいといえばらしい。このあと物語がどう転んでいくのか、ルメートルのお手並み拝見といったところだろう。
詳しくは下巻読了時に。