ピエール・ルメートルの『天国でまた会おう』下巻読了。
第一次大戦で顔に大怪我を負ったエドゥアールと、そのエドゥアールに命を救われたアルベールは共同生活を送るが、エドゥアールは薬に溺れ、アルベールは生活費と薬代を稼ぐために疲弊していた。しかし、あるときエドゥアールは戦死者を悼む記念碑を利用した途方もない詐欺計画を思いつく。
一方、二人の元上官ブラデルはエドゥアールの姉と結婚し、彼もまた戦死者を利用した埋葬事業に乗り出していたが……。

戦争に翻弄された男たちやその家族の姿を描くことで、人間の素晴らしさ、そして同時に愚かさを描く雄大なドラマである。
物語の背景が第一次世界大戦におけるフランスということもあり、やや日本人には馴染みの薄いところもあるが、ほどよく流れのなかで説明されているので、理解に困ることはないだろう。
それにしてもルメートルは達者な作家である。本作にしても重いテーマではあるのだが、語り口は比較的軽く、しかも軽いイコールわかりやすさというのではなく、カミーユ・ヴェルーベン警部シリーズでも感じられた、シニカルな笑いやアイロニーが見え隠れする。
だから軽いとはいいながら、ストーリーの表面だけを追うのは実にもったいない話で、登場人物たちが何をどのように感じているのか、じっくりと噛み締めながら読むのがおすすめ。そもそも戦争に対する思い、家族に対する思い、そんな感情は一言で説明できるものではなく、ルメートルは繰り返し繰り返し登場人物たちを通してそれらの感情を積み重ねてゆく。そこを味わいたい。
気になる点もないではない。これは作者があえてやっているのかどうかは不明なのだが、キャラクターの造形が少々デフォルメしすぎではないかということ。 たとえばブラデルなどはちょっと敵役としては深みが足りない感じである。
全体ではぎりぎりのところで抑えてはいる感じだが、それでも少々わざとらしい言動が目につく。これをやりすぎてしまうと、結局はステレオタイプな登場人物ばかりになり、それこそ軽いだけの物語になってしまう。
これはカミーユ・シリーズでも感じたことだが、あちらはシリーズものの面白さとしてまだ効果的にも思えたのだが、ううむ、やはりこちらではやりすぎかな。
まあ、その点を除けばルメートルの味わいや良さは堪能できるし、おおむね満足。でも、やはり次はミステリを読みたいかな。