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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

R・オースティン・フリーマン『オシリスの眼』(ちくま文庫)

 R・オースティン・フリーマンの『オシリスの眼』を読む。数多いシャーロック・ホームズのライバルとしては文句なしにトップグループの一人だが、その割には紹介が進まなかったフリーマン。この十年ほどでようやくいくつか翻訳は進み、最近はじわじわと再評価の機運も高まっている(気がする)のは嬉しいかぎりである。
 本作はそんなフリーマンの1911年の作品。探偵役はもちろんソーンダイク博士である。

 こんな話。エジプト学者のベリンガム氏が不可解な状況で姿を消すという事件が起こる。その真相が闇に包まれたまま二年が過ぎたころ、関係者に相続問題が持ち上がる。時を同じくして各地でバラバラになった人骨が発見され、その人骨がベリンガムではないかと推測されたが……。

 オシリスの眼

 おお、なかなかの出来ではないか。まずはフリーマンの持ち味が十分に発揮された一作といってよいだろう。
 その魅力については本書の「訳者あとがき」でもたっぷり書かれているとおり。著者は奇をてらうトリックとか読者の裏をかくとか、そういうことにはあまり興味がなかったようで、もちろん結果的にそういうことになればなお良しだったとは思うのだけれど、著者の考えるミステリはまず論理ありき。謎が科学的かつ論理的に解明されることこそ、著者の考えるミステリの重要な要件だったのだ。
 本作のラスト、ソーンダイク博士の謎解きではそれが最大限に活かされており、まさに圧巻。本書中でも最大の見せ場である。
 また、奇をてらうトリックに興味がなかった云々とは書いたけれど、本作のメイントリックにはなかなか面白い趣向が凝らされており、他の作品に比べると大きなアドヴァンテージにもなっている。

 ただ、個人的には悪くないと思ってはいるが、それだけに作風の地味さ、ストーリーの起伏の少なさがつくづく惜しい。フリーマンの作品全般にいえることではあるのだが、意外性やサプライズまでは求めないにしても、もう少し読者のウケを意識しても良かったのかなと思う。
 本作でも序盤は悪くないけれど、そのあとが非常にゆったりしたテンポになってしまい、物語が動き始めるのは全ページの半分も過ぎたところである。それまでは物語の背景の地固めみたいな感じで、ここに文学的香りを感じる向きもあるようだが、ううむ、そこまでのものかな。語り手のロマンスを味付けにしているから、著者もサービス精神がないわけではないのだろうけれど。

 まあ、その点さえ目をつぶれば、先に挙げたようにフリーマンの持ち味は十分に発揮されており、ケレン味のない手堅い本格探偵小説といえるだろう。クラシックミステリのファンならやはり読んでおきたい。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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