マイクル・コナリーの『ブラックボックス』読了。
二十年前のロス暴動事件の際に発生したデンマークの女性ジャーナリストが殺害された事件を追うボッシュ。ついに突き止めた凶器の拳銃から、なんと湾岸戦争との関わりが浮かび上がってくる。この拳銃こそ、ボッシュが信念とする“ブラックボックス”になる存在なのか?

なるほど。上層部の圧力にも屈せず、あくまで一匹狼の姿勢を変えることなく捜査にこだわるボッシュの姿はこれまでどおり。娘や恋人との人間関係も彩りを添え、今回も安定の面白さではあるのだが、同時に物足りなさも感じないではない。
その最たる原因は事件の弱さだろう。湾岸戦争の影が浮上するあたりではかなり期待させるのだが、その後の広がりが緩いうえに小粒である。国際的な陰謀にしろとまではいわないけれども、結局このレベルの事件かと思わせる肩透かし感。
また、重要な情報が何でもかんでもインターネットで集まってしまい、ボッシュの捜査がとんとん拍子に進みすぎるのも気になる。 あっと驚くようなどんでん返しもなく、ひと昔前のネオ・ハードボイルドっぽい感じか。
そんななかクライマックスだけはかなりのページを割いて、久々にボッシュの活劇が楽しめる。ここで一気にフラストレーションを解消させたいところだが、これはこれでボッシュが強引すぎたり、唐突に“助っ人”が登場したり、やや無茶な展開ではある。
この“助っ人”の扱いをもっと掘り下げておけば、より可能性を感じる作品になった気もするのだが。
ただ、それらがすべてマイナス要素というわけではなく、普通に楽しめるレベルであることはいっておこう。他の作家が書いていれば、おそらくもっと褒めていたはず。
しかしながらシリーズを通してボッシュの変遷を追っている読者としては、これぐらいでは大満足とは言い難いのである。前作『転落の街』がなかなかの出来だっただけに、余計その思いが強くなった次第。