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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 12 2017

極私的ベストテン2017

 2017年も本日でお終い。仕事も読書もまずまず順調な一年ではあったが、今月は諸般の事情で例年以上に忘年会が多く、ややグロッキー気味である。仕事納めは28日だったが、その週もほぼ連日飲み会が続き、ようやく休暇になっても29日、30日は自宅の大掃除でもうヘロヘロ。大晦日の本日はようやく少しゆっくりできて、こうして今年最後のブログ更新などやっている。

 さて、今年最後のブログ更新は年末恒例「極私的ベストテン」。
 管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶというもの。近年のベストテン級作品の読み残しをさらったせいで、今年は昨年に続いて非常に苦労したのだが、なんとかまとめてみた十冊がこちら。

1位 陳浩基『13・67』(文藝春秋)
2位 ケン・リュウ『母の記憶に』(新ハヤカワSFシリーズ)
3位 デニス・ルヘイン『夜に生きる』(ハヤカワミステリ)
4位 アンデシュ・ルースルンド、ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』(ハヤカワ文庫)
5位 陳舜臣『炎に絵を』(出版芸術社)
6位 ジョー・ネスボ『その雪と血を』(ハヤカワミステリ)
7位 ジョルジョ・シェルバネンコ『虐殺の少年たち』(論創社)
8位 吉屋信子『鬼火・底のぬけた柄杓』(講談社文芸文庫)
9位 アレクサンル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』(創元SF文庫)
10位 笹沢左保『人喰い』(中公文庫)

 いやあ、苦労した。今年はとりわけ選ぶのに苦労してしまった。上でも書いたがここ数年の翻訳ものの読み残しをぼちぼち拾っていったせいでむちゃくちゃハイレベルになってしまい、R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』まで圏外という始末である(苦笑)。
 もちろん『フロスト始末』がつまらないというわけではなく、管理人の好みがあったり、その作品がもつオリジナリティやユニークさをけっこう意識して選んでいるため、なかには他人が読んだら「え?」というものも入っている。まあ、そういうところも含めて、極私的ベストテンなのであしからず。

 1位の『13・67』は今年の翻訳ものの大収穫。香港発の警察小説ということで、その稀少性はもちろん警察小説としてもハイレベル、しかも本格としてもキレッキレの一作。これだけのオリジナリティを高いレベルで発揮されては、さすがに一位以外は考えようがなかった。

 2位はケン・リュウの邦訳短編集第二作。バラエティ感やエンタメ度の高さでは、大ブレイクを果たした『紙の動物園』以上である。

 3位&4位はは犯罪小説枠。前者はプロフェッショナル、後者はアマチュアが主人公だがどちらも読みどころ満載でこれまた文句なしに楽しめる作品である。

 翻訳物に押されがちな今年の極私的ベストテンだが、その一角を崩したのが5位に入った陳舜臣。シリーズものも悪くはないが、この作品は別格であろう。

 6位は初めて読んだネスボ作品。殺し屋を主人公にしたパルプ・ノワールで叙情性にあふれる作品だが、それに身を委ねていると思わぬ背負い投げを食らってしまうこの快感。

 7位の『虐殺の少年たち』はイタリアミステリ界の父の傑作。知名度は落ちるが、もっと読まれてほしいし、もっと翻訳されてほしい作家だ。

 8位の吉屋信子は昨年もちくま文庫の怪談傑作選を入れたが、この人の狙う間接的な恐怖へのアプローチがとにかく怖いし巧い。

 9位は子供向けで読んだときの印象が強く、かなり思い出補正はかかっているのだが、いやいや今読んでも十分素晴らしい。序盤のSF的な設定の興味から中盤以降の冒険小説的な展開まですべてが面白い。

 ラストは今年の個人的注目株、笹沢左保から。初期長編を立て続けに読んでいずれもよかったが、サスペンスのお手本として本作をチョイス。

 以上十作が2017年のベスト。ただし、涙をのんで外した作品もまた多いわけで、以下、順不同で挙げておくと、シャーリイ・ジャクスン『なんでもない一日』(創元推理文庫)R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』(創元推理文庫)R・オースティン・フリーマン『オシリスの眼』(ちくま文庫)梶龍雄『リア王密室に死す』(講談社ノベルス)フリードリッヒ・デュレンマット『約束』(ハヤカワ文庫)新羽精之『新羽精之探偵小説選II』(論創社)マーガレット・ミラー『雪の墓標』(論創社)多岐川恭『お茶とプール』(角川小説新書)J・J・コニントン『レイナムパーヴァの災厄』(論創社)マイクル・コナリー『転落の街(下)』(講談社文庫)あたりは読んで損はない。

 さらに小説以外では、戸川安宣『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』(彩流社)フランシス・M・ネヴィンズ『エラリー・クイーン 推理の芸術』(国書刊行会)喜国雅彦、国樹由香『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(講談社)がいずれも力作ぞろい。ミステリや小説のお勉強をするなら、こういう本もぜひ、という一冊である。

 ということで今年も探偵小説三昧、いよいよお別れの時間となりました。今年も管理人のお遊びにおつきあいいただき、本当にありがとうございます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは皆様、よいお年を!

笹沢左保『六本木心中』(角川文庫)

 この数年、昭和の推理作家を意識して読んでいるが、今年その魅力を実感できたのは笹沢左保か。特に『招かれざる客』、『霧に溶ける』、『人喰い』あたりの初期長編は、トリックなどにはやや難もあるが本格魂にあふれ、どれも凝ったプロットで非常に楽しめた。

 本日の読了本はそんな笹沢左保の短編集『六本木心中』。まずは収録作。

「六本木心中」
「純愛碑」
「向島心中」
「鏡のない部屋」
「銀座心中」

 六本木心中

 初期の短編集で、いずれの作品も何らかの死や犯罪を扱っており、犯罪小説的な香りは濃厚なのだがミステリとしての興味は薄い。どちらかというと風俗小説や中間小説というほうが適切なのだが、そもそも本作は笹沢左保がそういう方向性に挑戦した作品集だ。
 中心に据えられたのは人の死に秘められたさまざまな人間模様。著者自身の女性観や愛憎、人間不信などがいろいろな形で綴られている。初期のミステリ作品を見ても、そういった要素は少なからずあったのだが、本作を読むとむしろこちらのほうが著者の本領ではないかといういう感が強い(いや実際そのとおりなんだろうけれど)。
 まあ、それぐらい力作ぞろいの短編集である。

 表題作の「六本木心中」は、孤独を募らせる若い男女の六本木での出会いを描く。新興の盛り場として急速に人が集まりだしていた六本木と、主人公たちの抱える寂寥感の対比が印象的。

 「純愛碑」は本書中のベスト。女性不信に陥っている男が、愛について考え直すきっかけになった事件とは……。決してミステリではないのだけれど、この皮肉なオチのつけ方によって、何ともいえない読後感を残す。

 「向島心中」は、向島で無理心中した売れっ子芸者と新進シャンソン歌手の物語。元同級生の二人はいまや立場が逆転した形で再会したが、それだけでは済まされない因縁があった……。

 「鏡のない部屋」は醜女の女性を主人公にした悲惨な物語。現代では考えられないような周囲の言動がさすがに時代を感じさせる。後味も苦くて、これはちょっと好みではないな。

 「銀座心中」は銀座のとあるデパートで起こった心中事件を描く。これまたほろ苦い真相が待ち受け、ラストシーンではなんともいえない余韻を残す。


ケネス・ブラナー『オリエント急行殺人事件』

 「クリスマスにはクリスティを」というわけでもないのだが、本日は四十三年ぶりに再映画化されたアガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』の感想を。

 オリエント急行殺人事件

 クリスティの代表作として非常に有名な作品ではあるが、中身はほぼ聴き取り捜査に終始し、実はストーリーとしてはいたって地味な作りの本作。それでもどこかワクワクしてしまうのは、寝台列車オリエント急行という魅力的な舞台装置と、豪華俳優陣によるそろい踏みがあるからだろう。

 本作でも監督にしてポワロを演ずるケネス・ブラナーをはじめ、ジョニー・デップ、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチ、ミシェル・ファイファー、デイジー・リドル、ジョシュ・ギャッドなどなど、まあよく集めたもんだというラインナップ。
 一人一人の見せ場もそれほど多くないのにこれだけのキャストが出演するのは考えるとすごいことだが、そこは制作サイドも抜かりはなく、まず大御所ジュディ・デンチの出演をとりつけたらしい。言葉は悪いが、彼女がいってみれば撒き餌。ほかのキャストは「彼女が出るならぜひ」ということで決まっていったのだという。

 お話しそのものは説明するまでもないだろう。たまたまポワロが乗車していたオリエント急行内で大富豪ラチェットが全身を十二個所も刺されて殺害されるという事件が起こる。犯人は車内にいる乗客か乗務員の誰かのはず。しかし全員にアリバイがあり……というもの。

 まあ、言わずとしれたクリスティの傑作だから、原作を読んだことがない人であれば文句なしに楽しめるはずだが、問題は原作や以前の映画ですでに結末や真相を知っている人だ。
 その割合は決して低くないと思われるが、ケネス・ブラナーはそんな人たちに対して、オリジナルのシーンや解釈を付け加えることで新味を出そうとしたようだ。それがいくつかのアクションシーンやテーマの掘り下げとなって表れている。

 だが個人的にはここがかなり微妙な感じであった。
 たとえばポアロがおそろしいほど活動的で、その挙げ句に銃弾による傷を負ったりする。はたまた終盤では正義と悪の狭間で苦悩するポワロの姿がクローズアップされる。そのどちらの姿もシリアスすぎていまひとつポワロのイメージに合致しない。
 全般的にはコアなファンはとりあえず脇に置いといて、一般の映画ファンにアピールすべくエンタメ性を向上させたというのが本作の大きな方向性だとは思うが、ううむ、悪くはないのだけれどキャラクターの性質までいじるのはどうなんだろうなぁ。そこそこよく出来ている映画なので、そういう部分がよけいに気になってしまった。

北原尚彦『シャーロック・ホームズ 秘宝の研究』(宝島SUGOI文庫)

 北原尚彦の『シャーロック・ホームズ 秘宝の研究』を読む。熱烈なシャーロキアンとして知られる北原氏がこれまで集めてきたシャーロック・ホームズ関係の映画・ドラマ・翻案小説・コミックスなどのコレクションを紹介する本。
 まあ、それ以上でもそれ以下でもないのだけれど、ホームズファンはもちろん単なるミステリファンであっても十分に楽しい一冊だろう。

 シャーロック・ホームズ秘宝の研究

 管理人はミステリマニアだとは自覚しているが、決してシャーロキアンではない。それでもホームズという存在は別格であり、その映画やコミックなどがあるとやはり気になるわけで、ホームズ本がたびたび出版されるのも、そうしたミステリマニアの奥底に響くものがあるからだろう。
 個人的には映像系の話が興味深く 、特にソ連系ホームズのネタはなかなか。反対にカンバーバッチの『SHERLOCK(シャーロック)』はいい加減食傷気味で、人気にあやかりたい気持ちはわかるが、他にもっと紹介すべきものはあると思うけどね。

 ところで、こういう本が出るとたびたびマニアの自己満足本みたいな書かれ方をすることもあるのだが、その道のマニアの成果がこうした形で一般に還元されるというのは非常にいいことである。ともすれば本当に所有者個人で楽しんで終わりという美術品などもあるわけで、どんなジャンルにせよ、やはりそれぞれの方面の研究を進めるうえで、こうした発表はどんどんやったほうがよい。
 惜しむらくはせっかくこれだけのモノを集めているのだから、もう少し巻末資料などでデータベースとしての機能を加えてほしかったところだ。


バート・スパイサー『ダークライト』(論創海外ミステリ)

 年の瀬はもともと忙しいけれど、仕事もプライベートもイレギュラーな出来事が立て続けに起こって実にしんどい。本日、参加を予定していたブログ「奇妙な世界の片隅で」のkazuouさん主催「怪奇幻想読書倶楽部 第11回読書会」も残念ながらキャンセルする。今年最後だったのでぜひにと思っていたのだが、なんとも残念。

 そんなこんなで読書も捗らず、ようやくバート・スパイサーの『ダークライト』を読み終える。
 論創海外ミステリの一冊だが、著者についてはまったく知識がなく、解説によると主に1950年代に活躍したハードボイルド作家で、本書は1949年に刊行されたデビュー長編に当たるとのこと。

 こんな話。私立探偵カーニー・ワイルドのもとに、ある新興宗教団体のもとで執事を務める黒人男性が現れた。伝道師のキンブル師が伝道本部に現れなかったため、その行方を確かめてほしいのだという。カーニーはキンブル師が最後に姿を見せたニューヨークへ向かうが、そこで不審な状況が浮かび上がり、ついには殺人事件へと発展する……。

 ダークライト

 失踪人の捜索という導入部からも予想できるように、ハードボイルドとしては比較的オーソドックスなタイプである。ハメットが産み、チャンドラーが育てたハードボイルドだが、本作が発表された1949年はハードボイルドというスタイルがいよいよ多様化・爛熟していく時代。本作はそんな時代にあって、逆に奇を衒わず、しっかりと事件を物語の中心に据えて堅実にまとめあげた印象である。

 キャラクターも同様で、絵に描いたような私立探偵。軽口をたたき、腕っ節にも自信があり、大事なところでは一歩も引かない。
 ちょっと面白いのは主人公の探偵カーニーが意外なほど警察ともうまくやっていくところか。ただ、年齢が二十代後半という設定なので、この要領の良さがいまひとつピンとこない。言動などからなんとなく四十代ぐらいを連想していたので、この辺はもう少し訳者がセリフなどに気を配るべきだったかもしれない。

 とはいえ、それぐらいは大した疵ではなく、むしろ気になったのはオリジナリティの不足というか著者ならではのウリに欠けるところか。デビュー作でこれだけ安定した作品を書きながら日本でこれまで紹介されなかったのも、その辺りに原因がありそうだ。なんせ同時期に登場した作家にはミッキー・スピレインとかもいるし、インパクトではどうしても分が悪すぎるものなぁ。


陳浩基『13・67』(文藝春秋)

 陳浩基の『13・67』を読む。作者は香港生まれの推理作家で、台湾で開催されている島田荘司推理小説賞の第二回受賞者。
 だからといって、これまでは特に興味を引かれることもなかったのだが、本作はしばらく前からインターネット上でもかなり評判がよかったこと、内容が香港を舞台にした警察小説、しかも本格テイスト満載ということで気にはなっていた作品である。おまけに蓋を開ければ今年の年末ランキングで軒並み上位入賞だから、とりあえずこれは読んでおくしかない。

 13・67

 ジャンル的には警察小説といってよいのだろう。香港警察きっての名刑事と呼ばれたクワンとその部下ローを主人公にした連作中編集である。しかし、単なる警察小説にとどまらず、その内容は本格ミステリ、社会派、ノワールなど、さまざまな要素を含んでおり一言では表しにくい。
 ただ、間違いなく言えるのは、本作がエンターテインメントとして一級品であるということ。今年のベストといってよいし、海外ミステリのオールタイムベスト100をやるなら、今後は絶対に入れておくべき作品である。

 収録作は全六作。作品によっては二人の役割が多少変わったり、どちらかが登場しないこともあるため、普通の連作集とは少し趣が違うのだが、実はこれが重要である。
 というのも本作の収録作品は、作中の時代が2013年、2003年、1997年……という具合に遡っていく逆年代記という形をとっており、その時代に合わせたクワンとローの姿、そして香港の歴史が描かれているからである。しかも、各作品の関係性もしっかりと展開され、このスタイル自体が作品の大きな仕掛けとなっている。

 本作の魅力はいくつかあるのだが、まずこの歴史を遡って描かれる香港の姿は外せない。
 ご存知のように香港はアヘン戦争後に英国の植民地と化したが、1997年に中国に返還され、特別行政区となった。そんな香港で暮らす人々にとって、常に頭の片隅にあるのが自分たちはどういう存在なのかという意識の持ちようである。それは時として暴力行為やテロ行為となって爆発するのだが、実はそれを取り締まる側の警察官もまた同様なのである。そんなカオスの状況で、絶対的な正義を追い求める主人公クワンとローの姿には誰でも心惹かれるだろう。
 著者自身は本作を本格と社会派の融合として認識しているようだが、香港の警察組織やシステム自体に疑問を投げかけているところも多く、そういう意味では本格と警察小説の融合というほうがしっくりくるだろう。

 さて、本作もうひとつの大きな魅力は、その本格ミステリとしての部分だ。
 警察小説としての魅力、逆年代記というスタイルの魅力だけでも佳作レベルには十分に達していると思うのだが、本作が圧倒的な傑作となりえたのは、本格としての魅力があればこそ。

 とにかく、まず巻頭の一作目、「黒と白のあいだの真実」を読むべきである。
 この作品は、主人公クワンが末期ガンで昏睡状態にあるという驚愕的事実で幕を開ける。しかしローは最新の脳波測定機を使ってクワンとの交信を試み、クワンの指示によって謎解きを進めるのである。これぞ究極の安楽椅子探偵だが、実はこういう話ですら二重三重に仕掛けがあり、超絶テクニックが披露される。
 といっても「黒と白のあいだの真実」を除けば、それほど一般的な本格ミステリとしての雰囲気はない。これまでも触れてきたように、表面的には警察小説のスタイルなのである。
 とはいえトリックやどんでん返しをたっぷり盛り込み、それをきっちり解き明かしていくクワンの推理は間違いなく本格探偵小説の香りを醸し出している。加えてその内容も実に幅広い。
 少々やりすぎの部分もあって、複雑すぎる真相にリアリティが薄れる場合もないではないが、それでもほぼ全作にわたって趣向を凝らしているところ、連作を通した遊びも入れてあるのはさすがである。

 おすすめ。個人的にも今年のベストワン候補である。


ミステリベストテン比較2018年度版

 この一週間ほどでだいたいランキング本も出揃ったようなので、一昨年からやっている各誌ベストテンのランキング比較(ただし海外部門のみ)を今年もやってみる。
 ルールは『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」、『週刊文春』の「ミステリベスト10」、宝島社の『このミステリがすごい!』の各ランキング20位までを対象に平均順位を出すという、いたってシンプルなもの。ちなみに講談社の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」と『本格ミステリ・ベスト10』は扱う範囲がそれぞれ文庫のみ、本格のみと限定されているので取扱対象外。
 また、ランキングによって対象となる刊行期間が異なるため(ミステリマガジンのみ10月1日から9月31日、他は11月1日から10月30日)、1つしかランクインしていないものは省き、ふたつのランキングにランクインしているもののみ取り上げている。
 ただ、1つしかランクインしていないものでも、それがむしろランキングの個性ということにもなるので、参考資料としてそちらも並べてある。
 ではランキングどうぞ。

2018年ランキング比較

 昨年、一昨年と同様、今年もまた上位は似たような顔ぶれで、やはりそれほど面白くない結果となってしまった。基本的にはR・D・ウィングフィールの『フロスト始末』と陳浩基『13・67』の一騎打ちの様相で、これにケイト・モートン『湖畔荘』、ビル・ビバリー『東の果て、夜へ』が絡むという構図である(例によってミスマガが対象期間を早めすぎているので、ここだけ『13・67』は入っていないけれど)。

 そのかわり、というわけでもないのだが、下位は思った以上にバラツキが見られ、各紙の個性は上位より下位の作品で見る方が楽しい。
 たとえば『週刊文春』の「ミステリベスト10」は相変わらず知名度や話題作が好物で、大物、ベテランに甘い。権威主義的ともいう。キングやディーヴァーあたりはどんな作品でも必ずランクインするし、ディヴァインやエリス・ピーターズがいつもより落ちる出来なのにしっかりランクインするのも文春っぽい。
 「このミス」はSFから古典まで間口が広いのだけれど、裏を返せば、奇を衒う目立ちたがりの投票が多いともいえる。ただ、こちらが知らない作品やノーマークだった作品がが割と多く入ってくるので参考にはなる。
 「ミスマガ」はランキング云々より、頼むから対象期間を他と合わせてくれとしかいいようがない(笑)。昨年のランキングで上位だった『傷だらけのカミーユ』や『煽動者』、『その雪と血を』あたりが今年に入っていても、やはり不自然極まりない。あと、なぜか「ミスマガ」のランキングは古典が異常に弱いのも特徴である。まあ、早川書房はこの数年クラシックの出版についてはかなり減少しているので、それがそのまま反映されている感じではある。

 ということで検証終了。あとは実際に気になる本を読んで、ランキングの確かさを確認するだけである。個人的には『13・67』は早めに読んでおきたいところだ。

『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2018年版』(宝島社)

 今年も早いもので、もう年末の各種ミステリベストテンがほぼほぼ発表されたようだ。
 だいたいいつもは講談社の『IN★POCKET』が「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で先陣を切り、続いて『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」、『2018本格ミステリ・ベスト10』、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」あたりが雪崩れ込んできて、ラストを『このミステリーがすごい!』が締めるという感じだろう。
 このなかで個人的にチェックしているのは、「ミステリが読みたい!」、「ミステリーベスト10」、『このミステリーがすごい!』ぐらいか。
 講談社の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」は露骨な自社本推しに嫌気がさして読むのを止め、『2018本格ミステリ・ベスト10』はジャンルの狭さが好みではないこともあって読んでいない。

 このミステリーがすごい!2018年版

 で、昨日は『このミステリーがすごい!2018年版』をようやく買ってパラパラと眺めていたのだが、まず目を惹いたのは30周年記念企画として「誕生号」を丸ごと巻頭に収録していること。今読むと実にコンパクトなものだが、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」しかなかった当時としては、これでも十分なインパクトと情報量だった。一時期は内容的にも先鋭化したものだったが、最近では他ランキングとそれほど差別化もできておらず、マンネリ化は避けられないようだ。
 本書の「誕生号を丸ごと収録」にしても、インパクトは多少はあれども企画としては安易この上ないし、そのほか力の入っているのは作家らによる座談会や対談ばかりで、まあ、これは内容としては面白く読めたのだけれど(綾辻×宮部とか、新人作家7人とか)、企画や独自性というほどのものでもない。編集部も集計やら原稿収集の手間やらでけっこう大変だとは思うが、もう少し頑張ってもらいたいものだ。

 肝心のランキングにも少し触れておくと(例によって本ブログでは海外編のみ)、 どうやら今年は『フロスト始末』と『13・67』の一騎打ちの様相を見せており、ここに『湖畔荘』と『東の果て、夜へ』がどこまで絡むかといったところが基本的構図のようだ。
 ということで、このミスの結果も先行したランキング本とそれほど変わらない結果で面白みは少ない。ライバルであるべき『週刊文春』の「ミステリーベスト10」とはベストテンのうち六作がかぶるのはまあ仕方ないにしても、上位四作の顔ぶれがまったく同じなのはいかがなものか。昨年もこういう状況に少し文句を垂れたのだけれど、このままではほんと意味ないよなぁ。


R・D・ウィングフィールド『フロスト始末(下)』(創元推理文庫)

 R・D・ウィングフィールドの『フロスト始末』読了。
 著者の遺作にしてフロスト警部シリーズの最終作ということで、もしやこれまでの作風とは少し趣も変わるかなと予想していたのだが、――実際、フロストの転勤というそれらしいサイドストーリーの展開、そして亡き妻の思い出というこれまでにない過去の回想シーンがあったりもするのだが――終わってみれば、やはりいつものフロスト警部シリーズであり、十分に楽しむことができた。

 フロスト始末(下)

 一番の魅力はやはりフロストをはじめとする登場人物と、彼らのやりとりにある。事件そのものへの興味より、捜査を通じて彼らが見せるドタバタに笑い、時折見せる人情ドラマにほろりとくる。
 ただ、そんな面白さを支えるのは、登場人物たちをそういった状況に誘ってくれるモジュラー型の警察小説というスタイルであり、それをなし得るプロットの緻密さであるといってよい。おそらく一本道のストーリー、単独の事件というだけでは、ここまで面白い物語にはならないはず。

 モジュラー型の警察小説は別にウィングフィールドの専売特許というわけではなく、もちろん過去に他の作家も書いてはいる。しかしながらウィングフィールドはフロスト警部シリーズでその分野を極めたといってもよく、モジュラー型警察小説の頂点という地位を不動のものにした印象である。
 警察小説にもいろいろあって、主人公は一応、警察官ではあるが、その実は本格というようなタイプ(たとえばコリン・デクスターのモース警部のような)もあれば、一匹狼の刑事が自分の信念で突っ走るハードボイルドに近いもの(たとえばマイクル・コナリーのボッシュもののような)、あるいは主人公を一人に限定するのではなく、警察のチームによる捜査に主眼を置いたもの(たとえばエド・マクベインの87分署のような)など、さまざま。
 まあ、一般には警察官が主人公であることは大前提としても、本当の意味での警察小説は、物語の根幹に警察という組織や警察官という職業にスポットをあてていることがポイントである。そういう意味ではモースやボッシュのシリーズは、決して警察小説ではない。
 その点、チーム捜査によるモジュラー型を採用したフロスト警部シリーズは、実は警察小説としてはもっともリアル志向であり、王道といっても良いわけである。

 ただ、このスタイルを駆使して作品を書き続けるというのはさぞや大変だったろう。
 ひとつひとつの事件はそこまで複雑ではないけれども、事件同士の絡みやつながりがとにかく見事で、バランスや展開の仕方は圧巻である。よく収束できるものだと毎回感心するところで、ただ面白いだけの物語ではないと強調しておきたい。

 なお、本作は年末の各種ミステリランキングでほぼ上位入賞を果たしているようだ。本作は確かに傑作なのだけれど、パターン自体はそれほど初期作品から変わらないだけに、いまだに一位とかに挙げるのはどうなんだろうなぁという気持ちになるのも事実。
 まあ、遺作ということで、有終の美、みたいな意味合いで投票した人も多いのだろうが。


R・D・ウィングフィールド『フロスト始末(上)』(創元推理文庫)

  R・D・ウィングフィールドの『フロスト始末』をとりあえず上巻まで。おなじみデントン署のダメ警部フロストを主人公にしたシリーズだが、ご存知のように作者のウィングフィールド氏は2007年で亡くなっているため、本作はシリーズ最終作にして遺作となる。

 フロスト始末(上)

 しかし最終作とはいっても、特別、作風やスタイルが変わるわけではない。フロストやマレット署長をはじめとしたレギュラー陣のやりとりは絶妙だし。ストーリーもいつもどおりのモジュラー型ということで、そのカオスっぷりも相変わらず。
 そういうわけで上巻を読んだかぎりでは、いつもどおり盤石の出来といえそうなのだが、最終作ならではと思われる場面もちらほら。それがフロスト警部のいつになく弱気な発言や過去の回想シーンだ。
 事件もさることながら、このあたりが下巻でどのように巻き取られるのか、気になるところである。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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