日本のミステリ史に燦然と輝く名探偵といえば、なんといっても乱歩が創り出した明智小五郎を忘れてはならない。集英社文庫の〈明智小五郎事件簿〉は、そんな明智の活躍を事件発生順にまとめたシリーズであり、本日の読了本『明智小五郎事件簿XI「妖怪博士」「暗黒星」』は、その十一巻目にあたる。

まずは「妖怪博士」から。
少年探偵団の一員、相川泰二君が帰宅途中のこと。曲がり角に差し掛かるたび、何やら道路にマークを記している奇妙な老人と遭遇する。その怪しげな様子が気にかかり、泰二君はこっそり後をつけ、ある洋館に忍びこんだ。だが、そこで待ち受けていた蛭田博士と名乗る男に捕まってしまい……。
乱歩が書いた子供向け作品、いわゆる少年探偵団ものとしては「怪人二十面相」、「少年探偵団」に続く三作目にあたる。
内容としても前二作を踏まえたもので、明智たちにしてやられた二十面相が明智や少年探偵団に対する復讐を行うというもの。 とにかくこれでもかというぐらい徹底的な二十面相の復讐譚が見もので、明智はともかく、なぜ子供相手にそこまで執着するのか理解不能である。
ただ、二十面相が子供相手に真剣にやってくれるところが当時の子供の心に響いたことは間違いなく、ストーリーやトリックなどは前二作より劣るが、エネルギーとしては相当なものだ。
とりあえずこの時点で乱歩も二十面相ものに一区切りつけるような意図はあったのだろう、ラストでは二十面相が完敗を認めており、二十面相の再登場はなんとほぼ十年後になってしまう(まあ、実際は戦時という事情も大きいのだけれど)。
お次の「暗黒星」は大人向けの一作。
関東大震災の大火を免れた東京の一角にとある洋館があった。そこには奇人資産家として知られる伊志田鉄造氏の一家が住んでいた。
ある日、一家が揃って十六ミリフィルムの映像を眺めていると、なぜか家族の大写しの場面で映写が止まり、フィルムが焼けてしまうというアクシデントが続発する。その不吉な出来事に、長男の一郎が最近身の回りで起こっている怪しい出来事を告白するが……。
地球に衝突しようとしているのに誰にもまったく気づかれない光のない星、それが暗黒星だ。明智は事件の真犯人をその暗黒星になぞらえているが、このタイトルこそ格好いいものの、実はそれほど評価の高い作品ではない。
舞台がほぼ屋敷で起こっているというのに、それに対応できない明智と警察があまりに非力というか間抜けというか。使い回しやミステリとしていかがなものかというネタもありで、この時期に書かれた作品の中でもかなり落ちるほうだろう。
ただ、家族で十六ミリを観る導入からけっこう雰囲気はいいし、全体的にこじんまりした感じが意外に好ましく、個人的にはそれほど嫌いな作品ではない。
ともかく、これでようやく〈明智小五郎事件簿〉読破にリーチ。残すはいよいよ最終巻の『~XII「悪魔の紋章」「地獄の道化師」 』である。