Posted in 02 2018
先日、読んだ大下宇陀児の『自殺を売った男』が収録されているので、ついでにこちらも消化しておこうと、ミステリー文学資料館/編『大下宇陀児 楠田匡介 ミステリー・レガシー』を手に取る。
ミステリー文学資料館からは数々の探偵小説のアンソロジーが出ているが、本書もその流れを組む一冊である。シリーズ名は「ミステリー・レガシー」となっており、一応、アンソロジーではあるのだが、関連のある作家のペアリングで展開しようという試みらしい。
その第一弾が大下宇陀児&楠田匡介という組み合わせなのだが、この二人の結びつきは、作風も違うし、一見意外に思えるけれど、合作短編もあるぐらいなので、わりと交流があったようだ。

大下宇陀児「自殺を売った男」
楠田匡介「模型人形(マネキン)殺人事件」
大下宇陀児・楠田匡介「執念」
楠田匡介「二枚の借用証書」(エッセイ)
収録作は以上。
「自殺を売った男」は先日の記事を参考にしていただくとして、今回はそれ以外の作品だけまとめておこう。
楠田匡介の「模型人形(マネキン)殺人事件」は著者のデビュー長編。自宅のアトリエで銃殺された彫刻家の殺害事件を扱った本格探偵小説である。
現場は密室状態、しかも死体のすぐそばには綺麗に着飾ったマネキンが死体を見つめるようにして立っており、おまけに凶器とおぼしき拳銃にはなぜかマネキンの指紋が……という奇怪な状況で、設定はなかなか惹かれるものがある。
また、事件はその後、別の容疑者が浮上したり、マネキンがなぜか盗まれるという事件まで持ち上がってストーリー的にも悪くない。マネキンに絡むエロチックな要素なども雰囲気づくりの道具立てとして効果的だ。
ただし、当時の事情などもあるのだろうが、いかんせん長編にしてはボリュームが少なく、その割には取り調べや推理、議論の描写がけっこうな比重を占めているのがいただけない。もちろんこれらの描写はミステリだから当たり前といえば当たり前なのだけれど、ミステリにとって重要な遊びの部分、これがあまり生かされていない印象を受けてしまった。
とにかく読んでいて忙しない。もっとそれなりのボリュームを費やして猟奇的な雰囲気を盛り上げ、そのうえで推理合戦などが入ればずいぶん面白くなった気もするのだが。惜しい。
大下宇陀児、楠田匡介の合作「執念」は短編。
こちらは完全に大下宇陀児好みの犯罪小説であり、謎解き興味には乏しい。おまけに後味も苦く、これは大下宇陀児と楠田匡介の合作という要素がすべてだろう。
というわけで「自殺を売った男」も合わせ、いまの若い読者にはやや辛い内容だが、こういう本はそもそも出してくれるだけでありがたいわけで、光文社にはどんどんやってもらいたいものである。
ただ、昨年の五月に本書が刊行されて以後、続刊が出ていないのでちょっと心配ではあるが……。
ミステリー文学資料館からは数々の探偵小説のアンソロジーが出ているが、本書もその流れを組む一冊である。シリーズ名は「ミステリー・レガシー」となっており、一応、アンソロジーではあるのだが、関連のある作家のペアリングで展開しようという試みらしい。
その第一弾が大下宇陀児&楠田匡介という組み合わせなのだが、この二人の結びつきは、作風も違うし、一見意外に思えるけれど、合作短編もあるぐらいなので、わりと交流があったようだ。

大下宇陀児「自殺を売った男」
楠田匡介「模型人形(マネキン)殺人事件」
大下宇陀児・楠田匡介「執念」
楠田匡介「二枚の借用証書」(エッセイ)
収録作は以上。
「自殺を売った男」は先日の記事を参考にしていただくとして、今回はそれ以外の作品だけまとめておこう。
楠田匡介の「模型人形(マネキン)殺人事件」は著者のデビュー長編。自宅のアトリエで銃殺された彫刻家の殺害事件を扱った本格探偵小説である。
現場は密室状態、しかも死体のすぐそばには綺麗に着飾ったマネキンが死体を見つめるようにして立っており、おまけに凶器とおぼしき拳銃にはなぜかマネキンの指紋が……という奇怪な状況で、設定はなかなか惹かれるものがある。
また、事件はその後、別の容疑者が浮上したり、マネキンがなぜか盗まれるという事件まで持ち上がってストーリー的にも悪くない。マネキンに絡むエロチックな要素なども雰囲気づくりの道具立てとして効果的だ。
ただし、当時の事情などもあるのだろうが、いかんせん長編にしてはボリュームが少なく、その割には取り調べや推理、議論の描写がけっこうな比重を占めているのがいただけない。もちろんこれらの描写はミステリだから当たり前といえば当たり前なのだけれど、ミステリにとって重要な遊びの部分、これがあまり生かされていない印象を受けてしまった。
とにかく読んでいて忙しない。もっとそれなりのボリュームを費やして猟奇的な雰囲気を盛り上げ、そのうえで推理合戦などが入ればずいぶん面白くなった気もするのだが。惜しい。
大下宇陀児、楠田匡介の合作「執念」は短編。
こちらは完全に大下宇陀児好みの犯罪小説であり、謎解き興味には乏しい。おまけに後味も苦く、これは大下宇陀児と楠田匡介の合作という要素がすべてだろう。
というわけで「自殺を売った男」も合わせ、いまの若い読者にはやや辛い内容だが、こういう本はそもそも出してくれるだけでありがたいわけで、光文社にはどんどんやってもらいたいものである。
ただ、昨年の五月に本書が刊行されて以後、続刊が出ていないのでちょっと心配ではあるが……。