先日読んだ『いま見てはいけない』に続き、ダフネ・デュ・モーリアの短編集をもういっちょ。ものは『人形』である。まずは収録作。
East Wind「東風」
The Doll「人形」
And now to God the Father「いざ、父なる神に」
A Difference in Temperament「性格の不一致」
Frustration「満たされぬ欲求」
Piccadilly「ピカデリー」
Tame Cat「飼い猫」
Mazie「メイジー」
Nothing Hurts for Long「痛みはいつか消える」
Angels and Archangels「天使ら、大天使らとともに」
Week-End「ウィークエンド」
The Happy Valley「幸福の谷」
And His Letter Grew Colder「そして手紙は冷たくなった」
The Limpet「笠貝」

本書は初期の作品を集めた短編集だが、表題作の「人形」などはなんとデビュー前、デュ・モーリアが二十一歳のときに書いた作品であるという。
初期作品集という予備知識をもって読んだせいもあるかもしれないが、やはり若書きの印象はあちらこちらで目につく。『いま見てはいけない』に比べて全体的に理屈っぽい描写が多く、そのせいもあって物語がスムーズに流れず、テーマを昇華するところまではいっていない作品もちらほら。
ただ、むやみにファンタジーに走らず、人間の存在そのものに意地悪く切り込んでいく姿勢はすでに発揮されており、荒っぽいながらもそれなりに楽しんで読むことはできた。
印象に残っているのは、やはり「人形」。レベッカという登場人物がいることだけで要注目だが、長編『レベッカ』の登場人物とイメージを比較して見るのも興味深いところだろう(まあ、本書の解説でやっているんだけど)。
人間関係の難しさを描いた作品は多くて、「性格の不一致」や「満たされぬ欲求」、「飼い猫」、「痛みはいつか消える」、「ウィークエンド」、「そして手紙は冷たくなった」などなど。きちんとまとめてはいるが、全体的には小粒。
そんななか「飼い猫」の不穏さはなかなかのものである。主人公の女性はもしかしてああいうラストを望んでいたふしもうかがえ、著者の言いたいところもまさにそこなのだろう。
個人的ベストは俗物牧師を描いた「いざ、父なる神に」にしておこう。著者の醒めたものの見方が最大限に発揮されている一編。展開のアンバランスなところは気になるが、読んだ後のモヤモヤ感はピカイチである(笑)。