結城昌治の『夜の終る時』を読む。著者の代表作のひとつで日本推理作家協会賞受賞作だが、恥ずかしながらこれが初読である。まずはストーリーから。
刑事捜査第一係の徳持刑事が聞き込みに出かけたまま消息を絶った。ちょうど軽い恐喝事件しか担当していなかった徳持だが、同僚の安田刑事は、徳持の最近の動きが気にかかり、彼がなんらかの事件に巻き込まれたのではないかと推測する。
果たしてその予感は的中し、あるホテルの一室で、扼殺された徳持が発見された。安田は徳持と幼馴染で、いまは赤座組の幹部に昇進した関口に狙いを定め、その足取りを追うが……。

おお、さすがにいいなぁ。これはもう予想していたとおりの傑作。
簡単にいえばハードボイルドやノワールの雰囲気を色濃く漂わせた警察小説である。全体のボリュームはそれほどでもないのだが、警察官の腐敗を題材にとりあげ、その事件を通じてノンキャリアの警察官の姿を無駄なく描いている。
この手の作品で注目したいのは、もちろんテーマやストーリーも重要だが、やはり文章。卑しい街を騎士が歩くにはそれなりの世界感が必須であり、それを形作るのが文章なのだ。決して美麗な文章である必要はなく、むしろ虚飾を排し、できるだけ事実だけを描いたシンプルな文章。そのシンプルな描写から本質や心情がじわっと伝わってくるのが理想である。
結城昌治もそういう才能に恵まれた一人で、これがあるから短い作品なのに読後の印象が強いのだろう。
しかし、それだけならまだ傑作というには遠い。本作は謎とその解決においても手を抜くことなく、警察の捜査というリアリティのもとにきちんと意外性をもたせ、しかも小説としては構成にも工夫を凝らすという徹底ぶり。これがまた小説の味わいにも貢献するという、なかなか理想的な相互作用というか化学反応を起こしている印象だ。
いつのまにか警察小説も(国内外問わず)重厚長大なものばかりが流行る時代になったけれど、ううむ、こういうキレで読ませる作品を現代の作家にももっと書いてほしいものだ。