ロス・マクドナルドの『人の死に行く道』を読む。私立探偵リュウ・アーチャーものの第三作目にあたる作品。まずはストーリーから。
ミセズ・サミュエル・ローレンスの依頼は、失踪した娘・ギャリイの捜索だった。看護士をしているギャリイは、勤務する病院にかつぎこまれたギャングの一味・スピードを看護していたが、その仲間のジョオ・タランタインと一緒に消えたという。
ジョオとギャリイの行方を追うアーチャーだったが、ギャングのボス・ドゥザーもまた彼らを追っていることが判明する。どうやら彼らはボスを怒らせる真似をしてしまったらしい。やがて二人の潜む家を見つけたアーチャーだったが……。

『動く標的』、『魔のプール』に続く作品ということで、初期アーチャーものに顕著な派手なアクションはまだまだ健在。本作でも相変わらず殴り殴られるシーンは少なくない。
ただ、後期ほどの深みはまだ不足しているけれども、それでもミステリとしてみれば前二作品よりはずいぶんレベルがあがった印象を受ける。
特に大きく変わったなぁと思うのは、まずプロットの完成度があがったところか。複雑な事件はロスマクの特徴のひとつでもあるのだが、前の二作ではそういう複雑なところがストーリーにうまく落とし込まれておらず、ぶっちゃけガチャガチャした印象があったのだが、本作も複雑な事件ながらストーリーの流れがよいというか、比較的すっきりまとめられている。
真相の意外性がアップしたことも高評価。ハードボイルドといえどもミステリであるからには、やはりラストでサプライズがあるとないとでは大違い。本作ではその辺もまずまず満足できるレベルである。ハードボイルドとはいえ探偵役の一人称だから、どうしてもアンフェアなところが出てくるのは仕方ないのだが、それでもかなり巧く収めているといえるだろう。
また、後期ほどの深みは不足していると書いたけれども、依頼主とのラストシーンなどはなかなかほろ苦く、余韻も悪くない。トータルでは初期の佳作といってもいいのではないだろうか。