Posted in 08 2018
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トム・フランクリン『ねじれた文字、ねじれた路』(ハヤカワミステリ)
ポケミスが装丁をリニューアルしたのはもう八年ほど前になるのだが、やはりそれなりに気合いが入っていたのだろう、なかなかの力作が多かったように思う。アルテやランキン、ペレケーノスといったお馴染みの作家もいたが、ほぼ未紹介の作家も多くて、むしろそちらに意欲的な作品が多かったように覚えている。たとえばデイヴィッド・ベニオフの『卵をめぐる祖父の戦争』とかブライアン・グルーリーの『湖は餓えて煙る』とか。
そんなリニューアル当初の一冊が、本日の読了本、トム・フランクリンの『ねじれた文字、ねじれた路』である。
こんな話。親の自動車整備工場を継いだものの、世捨て人のような生活を送るラリー。友達づきあいもなく、唯一の楽しみはホラー小説だけであった。
そんな彼にも子供の頃は親しい友人がいた。今は治安官として働くサイラスである。
サイラスは幼い頃に母親とこの地に流れついた黒人の親子であり、二人の少年は密かに友情を育んでいた。だが、その関係もある出来事をきっかけに疎遠になってしまう。
それから二十五年の月日が経った。おりしも町では女子大生の失踪事件が発生し、ラリーに疑いの目が注がれる。そして悲劇が起こった……。

当時まったく予備知識なしで、CWA受賞と意味深なタイトルから何となくシュールな作品かと思っていたのだが、いや、これはベタベタのアメリカン・クライム青春ノベルだったのか。
とはいえこれは読めてよかった。ミステリ風味にはけっこう乏しいのだけれど、実に読みごたえのある内容であった。
それほど目新しいタイプの作品というわけではない。現在の事件が過去の事件と深くつながっているというやつで、ノスタルジーを強く押し出しつつ過去の出来事を明らかにしていく。過去と現代のストーリーが交互に描かれていくという手法もいまどき珍しいものではないだろう。
こういうタイプの作品は、一時期、アメリカのミステリではけっこう流行っていたようだし、特にランズデールとかルヘインとか同じような作品があったよなぁとか思っていると、案の定、本作もランズデールが絶賛していたらしい。アメリカ人、こういうの好きだよねえ。お家芸といってもいいかもしれない。
古き良き時代のアメリカの正義、そして人種差別に代表される誤った価値観がベースにあり、それらを踏まえつつも、現代に生きる俺らは未来に向かって踏み出すぜ、というような話である。
本作の場合、印象に残るのはやはり過去のパートだ。比較的裕福ながらおとなしい性格の白人のラリー、貧乏だが快活な黒人のサイラス。対照的な二人が拙いコミュニケーションによって、行きつ戻りつしながら徐々にわかりあう展開は、パターンどおりとはいえ、実に深くこちらの胸に染みてくる。
ただ、二人とも別に聖人君子ではない。短所も普通にあり、それぞれが失敗を重ね、そして最終的にはそれなりの代償を払って、ようやく明日への一歩を踏み出せるのである。そこに静かな感動が生まれるのだ。
ストーリー同様に派手さのない文章も好ましい。「アメリカ人はこういうの好きだよねえ」とか書いたけれど、それ以上にこういう小説を書かせると本当に上手い。
このままでも十分によい作品ではあるのだが、これでもう少しサプライズを強めにするなどしていれば、それこそオールタイムベスト級の大傑作になっただろう。
そんなリニューアル当初の一冊が、本日の読了本、トム・フランクリンの『ねじれた文字、ねじれた路』である。
こんな話。親の自動車整備工場を継いだものの、世捨て人のような生活を送るラリー。友達づきあいもなく、唯一の楽しみはホラー小説だけであった。
そんな彼にも子供の頃は親しい友人がいた。今は治安官として働くサイラスである。
サイラスは幼い頃に母親とこの地に流れついた黒人の親子であり、二人の少年は密かに友情を育んでいた。だが、その関係もある出来事をきっかけに疎遠になってしまう。
それから二十五年の月日が経った。おりしも町では女子大生の失踪事件が発生し、ラリーに疑いの目が注がれる。そして悲劇が起こった……。

当時まったく予備知識なしで、CWA受賞と意味深なタイトルから何となくシュールな作品かと思っていたのだが、いや、これはベタベタのアメリカン・クライム青春ノベルだったのか。
とはいえこれは読めてよかった。ミステリ風味にはけっこう乏しいのだけれど、実に読みごたえのある内容であった。
それほど目新しいタイプの作品というわけではない。現在の事件が過去の事件と深くつながっているというやつで、ノスタルジーを強く押し出しつつ過去の出来事を明らかにしていく。過去と現代のストーリーが交互に描かれていくという手法もいまどき珍しいものではないだろう。
こういうタイプの作品は、一時期、アメリカのミステリではけっこう流行っていたようだし、特にランズデールとかルヘインとか同じような作品があったよなぁとか思っていると、案の定、本作もランズデールが絶賛していたらしい。アメリカ人、こういうの好きだよねえ。お家芸といってもいいかもしれない。
古き良き時代のアメリカの正義、そして人種差別に代表される誤った価値観がベースにあり、それらを踏まえつつも、現代に生きる俺らは未来に向かって踏み出すぜ、というような話である。
本作の場合、印象に残るのはやはり過去のパートだ。比較的裕福ながらおとなしい性格の白人のラリー、貧乏だが快活な黒人のサイラス。対照的な二人が拙いコミュニケーションによって、行きつ戻りつしながら徐々にわかりあう展開は、パターンどおりとはいえ、実に深くこちらの胸に染みてくる。
ただ、二人とも別に聖人君子ではない。短所も普通にあり、それぞれが失敗を重ね、そして最終的にはそれなりの代償を払って、ようやく明日への一歩を踏み出せるのである。そこに静かな感動が生まれるのだ。
ストーリー同様に派手さのない文章も好ましい。「アメリカ人はこういうの好きだよねえ」とか書いたけれど、それ以上にこういう小説を書かせると本当に上手い。
このままでも十分によい作品ではあるのだが、これでもう少しサプライズを強めにするなどしていれば、それこそオールタイムベスト級の大傑作になっただろう。