Posted in 09 2018
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埴原一亟『埴原一亟 古本小説集』(夏葉社)
本日の読了本は『埴原一亟 古本小説集』。埴原一亟は「はにはら いちじょう」と読む。まあ、こんなことからわざわざ書くくらいなので、著者についての知識はこれまでまったくなく、この本が出ていなければ著作を読むこともなかったかもしれない。
ところが古書エッセイなどで知られる山本善行氏が自身で編者までやり、しかもその内容が古本周辺を描いた作品集ということで、インターネット上の本好きの間ででちょっとしたニュースになった。2017年の初夏の頃だったか。管理人もその情報を目にし、そういうことならと思わず買ってしまった一冊である。
まあ、いかにも幻の作家みたいな紹介をしてしまったが、なあに実はこちらが知らないだけで、著者は三度も芥川賞候補になったほどの実力者なのである。
収録作は以下のとおり。
「ある引揚者の生活」
「塵埃」
「十二階」
「翌檜(あすなろう)」
「生活の出発」
「枇杷のころ」
「かまきりの歌」

さて古本小説集と銘打ってはいるが、直接的な古本の話ではなく、その周辺に生活する人々の物語である。しかもきちんとした古書店とかではなく、ほぼ古紙回収のような、昔でいう屑屋の生活だったり露天での古本屋だったり、いわゆる社会の底辺での人々の暮らしが描かれている。
しかし著者は単なる苦労話を書きたいわけではない。あるいは貧乏から必死に這い上がろうという姿を描くわけでもない。人々の間にはあきらめにも似た空気が蔓延しており、ただただ貧乏を受け入れている。そんなレベル感のなかでもちょっとした事件は起こり、日々の喜びや怒り、哀しみがあるわけで、著者はそういった暮らしぶりや感情を細かく観察し、小さなエピソードに仕上げている。
ときには息苦しい話もあるけれど、全体的に派手な動きや刺激は少なく、穏やかなユーモアやペーソスで彩られているのが心地よい。文章も美文というほどではないけれども変なクセはなく、それでいてふわっとした雰囲気があって内容にマッチしている印象だ。
特に気に入ったのは、夫婦のやりとりに可笑しみがあ「ある引揚者の生活」、あまり技巧に走らず屑屋の日常を綴った「塵埃」や「翌檜」あたり。ちなみにシリーズというほどでもないが、「ある引揚者の生活」「翌檜」「生活の出発」の三作には、著者を彷彿とさせる島赤三という作家兼古本屋が主人公として登場する。実体験そのままに描いているわけではないだろうが、やはり興味深い。
一膳飯屋で知り合った老人に頼み事をされる学生の話「かまきりの歌」はちょいとミステリ的な部分もあり悪くはないが、あまり作為的すぎるものは著者の良さが活きていない印象である。
ということで飛び抜けたところはないのだけれど、内容や作風に独自の味もあるし完成度は高く、確かにいい作家である。もう少し読んでみたい気にはなるが、いかんせんあとはそこそこ高価な古書しかないのが問題であるな。
ところが古書エッセイなどで知られる山本善行氏が自身で編者までやり、しかもその内容が古本周辺を描いた作品集ということで、インターネット上の本好きの間ででちょっとしたニュースになった。2017年の初夏の頃だったか。管理人もその情報を目にし、そういうことならと思わず買ってしまった一冊である。
まあ、いかにも幻の作家みたいな紹介をしてしまったが、なあに実はこちらが知らないだけで、著者は三度も芥川賞候補になったほどの実力者なのである。
収録作は以下のとおり。
「ある引揚者の生活」
「塵埃」
「十二階」
「翌檜(あすなろう)」
「生活の出発」
「枇杷のころ」
「かまきりの歌」

さて古本小説集と銘打ってはいるが、直接的な古本の話ではなく、その周辺に生活する人々の物語である。しかもきちんとした古書店とかではなく、ほぼ古紙回収のような、昔でいう屑屋の生活だったり露天での古本屋だったり、いわゆる社会の底辺での人々の暮らしが描かれている。
しかし著者は単なる苦労話を書きたいわけではない。あるいは貧乏から必死に這い上がろうという姿を描くわけでもない。人々の間にはあきらめにも似た空気が蔓延しており、ただただ貧乏を受け入れている。そんなレベル感のなかでもちょっとした事件は起こり、日々の喜びや怒り、哀しみがあるわけで、著者はそういった暮らしぶりや感情を細かく観察し、小さなエピソードに仕上げている。
ときには息苦しい話もあるけれど、全体的に派手な動きや刺激は少なく、穏やかなユーモアやペーソスで彩られているのが心地よい。文章も美文というほどではないけれども変なクセはなく、それでいてふわっとした雰囲気があって内容にマッチしている印象だ。
特に気に入ったのは、夫婦のやりとりに可笑しみがあ「ある引揚者の生活」、あまり技巧に走らず屑屋の日常を綴った「塵埃」や「翌檜」あたり。ちなみにシリーズというほどでもないが、「ある引揚者の生活」「翌檜」「生活の出発」の三作には、著者を彷彿とさせる島赤三という作家兼古本屋が主人公として登場する。実体験そのままに描いているわけではないだろうが、やはり興味深い。
一膳飯屋で知り合った老人に頼み事をされる学生の話「かまきりの歌」はちょいとミステリ的な部分もあり悪くはないが、あまり作為的すぎるものは著者の良さが活きていない印象である。
ということで飛び抜けたところはないのだけれど、内容や作風に独自の味もあるし完成度は高く、確かにいい作家である。もう少し読んでみたい気にはなるが、いかんせんあとはそこそこ高価な古書しかないのが問題であるな。