結城昌治『長い長い眠り』を読む。
『ひげのある男たち』に続く郷原部長刑事シリーズの第二作である。
まずはストーリー。
明治神宮外苑の近くにある林で死体が発見された。死体は男性、白いワイシャツにネクタイという出で立ちだったが、なぜかズボンをはいておらず、下半身はパンツ一枚という姿だった。
さっそく捜査を開始した郷原部長刑事をはじめとする四谷署の面々。まもなく被害者はある電気製品メーカーの社長であることが判明したが、その乱れた女性関係も続々と明らかになってゆく。容疑者だらけの状況に郷原部長刑事も困惑し……。

前作『ひげのある男たち』同様に、本格ベースの警察ミステリ。足での捜査から事実がひとつずつ浮かび上がり、その材料によって推理もまた進んでいく。クロフツのフレンチ警部ものを連想させる、非常にオーソドックスなスタイルである。
とはいえ本作は緩いユーモアとペーソスで彩られているため、その印象はずいぶんクロフツとは異なるわけで、肩肘張らずに楽しく読めるのが大きな魅力だろう。
ことに本作では被害者を中心とする男女関係が入り組んでおり、関係者のほとんどが胡散臭く、容疑者にふさわしい者ばかりという状況。刑事たちの意見も食い違ったり、仮説が浮かんでは消え浮かんでは消えという具合で、多くの推理が繰り返される。その掛け合いが非常に軽妙で飽きさせない。
郷原刑事部長シリーズとはいいながら、郷原が名探偵でないのも楽しい部分か。そこそこのところまではいくのだが、結局は最後に意外な探偵役が現れて、手柄を横取りするというのも前作同様である。
本格ミステリとしては、前作ほどのインパクトはないけれども、犯人の正体、犯行が起こった経緯など、随所に工夫は目立つ。特に二つ目の事件については誤誘導のテクニックが光り、これは巧いなぁと思わず感心してしまった。
まあ大技がないので手堅くまとめた印象はあるが、本作に関してはあまり刺激を求めず、捜査や推理の過程をニヤニヤしながら楽しむのが吉だろう。楽しめることは請け合いである。