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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 10 2018

陳舜臣『方壺園』(中央公論社)

 陳舜臣といえば一般には歴史小説の作家として知られているが、ミステリファンにとっては、やはり陶展文シリーズをはじめとする本格探偵作家というイメージだろう。本日の読了本はそんな陳舜臣の短編集『方壺園』である。まずは収録作。

「方壺園」
「大南営」

「九雷渓」
「梨の花」
「アルバムより」
「獣心図」

 方壷園

 本短編集は陳舜臣の代表作のひとつとしてよく挙げられる作品だが、読んでそれも納得。その理由は大きくふたつあって、ひとつめは収録作のほとんどが密室もので構成された本格探偵小説であること。
 本作が刊行されたのは1962年。この年、著者は『三色の家』『弓の部屋』など五冊もの作品を出しており、デビュー二年目というのに恐ろしいほどのハイペースである。そんな状況でオール密室という気合の入った推理短編集を出す、この勢いというか熱がすごい。

 とはいえ密室のレベルそのものは正直そこまで驚くべきものではなく、密室トリックという面だけで判断すれば弱さは否めない。それを救っているのが、本作を代表作たらしめているもうひとつの理由。すなわち各作品ごとに趣向を凝らした舞台設定である。例えば唐の時代の中国であったり、大学であったり、インドのムガール王朝であったり。
 その舞台設定が絶妙にトリックと融合し、トリックの弱さをカバーする。謎解き興味だけに終わらせず、事件を通して主人公たちの生き様などがしみじみと感じられる作品もあり、そういった味わいもあるからこそ評価されてきたのだろう。

 以下、簡単に各作品のコメント。
 気に入った作品は、やはり表題作「方壺園」となるだろう。十メートルの高さの壁に囲まれた方壺園と呼ばれる東屋で起こった密室殺人事件。伏線の妙もあるし、どんでん返しの面白さ、そして漢詩に絡む文人たちの人間模様など、これはオールタイムベスト級といってもよいだろう。
 「大南営」は心理的トリックが少々辛いところで、「九雷渓」は有名な某作品のトリックを思い出させるところが欠点だが、両作とも著者ならではの雰囲気は十分に味わえて楽しい。
 「梨の花」は本書では珍しく日本が舞台だが、やはり中国の歴史を素材として用いており、凶器に味わいがある密室もの。味わいはあるけれど、ある意味バカミスともいえる(笑)。
 「アルバムより」は推理小説的には「方壺園」に次ぐ出来で意外性に富んだ作品。また「獣心図」は逆にムガール王朝という特殊すぎる舞台設定が効いた作品で楽しめる。

 なお、管理人は本作を中央公論社版で読んだが、中公文庫版も含めてどちらも絶版。まあ古書では容易に入手できるようだが、来月にはちくま文庫で復刊されるらしいので、興味を持たれた方はそちらがおすすめだろう。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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