盛林堂ミステリアス文庫から発売された森下雨村の『冒険小説 宝島探険』を読む。解説によるとこれがなんと雨村が十八、九歳の頃に書いたもので、初めての著書だったらしい。
ただ、タイトルにもあるように、本作は探偵小説というよりは冒険小説であり、明治の終わり頃という時代を考えると、黒岩涙香から連なる流れを汲んだ作品ということができるだろう。

こんな話。
世は明治。老人と旅をする一人の少年・日高雄二がいた。だが老人は途中で体を壊し、今際の際に少年へある秘密を打ち明ける。それは、かつて少年の父がある男に命を奪われたこと。その理由が隠された財宝にあること。そして少年の母と兄が離れ離れになって生きていることだった。父の仇を討ち、財宝を見つけ出すことを決意した少年だったが、その直後、支えとなる老人は事故で命を落としてしまう。
なおも一人で旅を続ける少年。ところがあるとき知り合った謎の老人に見込まれ、東京で書生として働くよう誘われることになる。人にも恵まれ東京での書生暮らしは夢のようだったが、偶然にもその務める家で、父の敵の手がかりを見つけ出した……。
以前に同じ盛林堂ミステリアス文庫で出た
『怪星の秘密』ほどぶっとんだ内容ではないけれども、オーソドックスな子供向け任侠小説といった感じで思った以上にリーダビリティは高い。隠し部屋や暗号、からくり箱など、こういった物語に必要な彩りも抜かりはない。
まあ、ご都合主義的な展開は多々見られるけれど、この時代の、しかも若書きの冒険小説にやいのやいのいうこともあるまい。むしろ十八、九の頃にこれを三日間で書いたというのだから、あっぱれというほかないだろう。
もちろん一般のミステリファンにおすすめするようなものではないけれども、その希少性や歴史的意義を考えれば、戦前の熱狂的な探偵小説マニアにはこれほど嬉しい一冊はない。